第5話 時の旅人と少女

『おばあちゃんへ

 うまくことばに できないので こうしておてがみをかいています。

 わたしは あのときのしろいねこです。

 おかしなおはなしかもしれません。でも わたしはねこだったんです。

 りんででくらす おやのいないねこでした。

 きょうはおばあちゃんにあいたくて りんでまできました。

 おばあちゃんには わたしがきえちゃうまえに あいたかったんです。

 かきたいことがたくさんあって どれからかけばいいのか まよってしまいます。


 まずは さっきたべたおかしが とてもおいしかったです。

 おばあちゃんがはじめてくれたえさのあじに とてもにていました。

 そうだ。えさをくれようとしたときに ひっかいてごめんなさい。

 そのときにおとしたしんじゅは

 おばあちゃんがたいせつにしていたものだと あとからわかりました。

 ずっとさがしているのをみていました。みつからないこともしっていました。

 だって そのしんじゅは わたしがうみにおとしてしまったんです。

 きらきらしていて あそんでいたら ぽちゃんとおちちゃったんです。

 ごめんなさい。つたえるほうほうがなくて ずっとつたえられなかった。

 さっきいっしょにいたおにいちゃん あるどおにいちゃんにおねがいをしました。

 きれいなしんじゅをさがしてほしい。きっとみつけてくれるとおもいます。

 おにいちゃんはとてもやさしくて つよくて あたたかいひとです。

 だから そんなひとがみつけてくれた しんじゅなら きっとすてきなものです。

 あるどおにいちゃんがいたからこそ

 わたしはおばあちゃんにあうことができました。


 わたしが どうして にんげんのおんなのこのすがたをしているのか

 せつめいすると とてもながくなります。

 ずっとわたしをさがしてくれていたおばあちゃんに

 すべてをおはなしたいとおもいます。

 あのひは りんででひなたぼっこをしていました。

 てんきのいいひでした。でも かぜがふいたんです。つよいかぜでした。

 からだがういたとおもったら もうそこはりんでじゃありませんでした。

 あるどおにいちゃんがいっていました。じくうのあなというそうです。

 じくうのあなにすいこまれたわたしは おそらのうえにいました。

 うみがみえないくらい たかいおそらにいました。

 りんでのけしきからは そうぞうもつかないところです。

 じめんがおそらにあるんです。

 うみがじめんのしたにあって みおろすことができるんです。

 そこは みらいのせかいでした。しんじられないかもしれません。

 わたしも いまでもゆめなんじゃないかとおもいます。

 でも わたしはたしかに みらいへいったんです。


 みらいでおんなのこにあいました。おませさんなおんなのこです。

 あまいものと はしることと おにんぎょうあそびがすきなおんなのこです。

 おかあさんとふたりで くらしていました。

 おんなのこと おかあさんと わたしがいっしょにくらすようになりました。

 りんででいきていたときとはちがうせいかつでした。

 にんげんのおうちにいて まいにちかならずえさをもらえて

 ほかのねことけんかすることはない せいかつでした。

 おいしいものも たくさんもらいました。

 おばあちゃんがくれたさかなとはちがったけれど わたしはどっちもすきです。

 よくばりでしょうか?

 でも さかなも おかしも たべるとしあわせなきもちになります。

 だから どっちもすきです。


 そんなまいにちがつづいていたあるひ

 おんなのこが ひみつきちをつくりたいといいました。

 わくわくしました。

 どんなものかわからなくても とてもたのしいものだとおもったのです。

 でも そうじゃありませんでした。

 ひみつきちをつくろうとしたら おおきくておもいものが おちてきました。

 おんなのこがおしつぶされてしまう

 そうおもったわたしは ちからいっぱいおんなのこをおしました。

 おんなのこはたすかりました。

 でもそのとき ねこのわたしはしんでしまいました。

 これが しろねこだったわたしのすべてです。


 めがさめたとき わたしはおんなのこのすがたをしていました。

 じぶんのなまえも すんでいたばしょも もちろんりんでのことも

 すべてわすれていました。

 そこでであったのが あるどおにいちゃんです。

 あるどおにいちゃんは わたしのきおくをとりもどすために

 きょうりょくしてくれました。

 ときをこえて むかったばしょで おんなのこにあうことができました。

 きせきのようなさいかいをはたして

 わたしはおんなのこにつたえることができました。

 ありがとう さようなら だいすき とつたえました。

 なかないようにがんばったけれど ないてしまいました。

 わたしはなきむしなのだと はじめてしりました。


 わたしはわがままなので もうひとりあいたいひとがいました。

 おばあちゃんです。おばあちゃんに ただいまをいいにきました。

 ひさしぶりにあったおばあちゃんに ちょっときんちょうしてしまったけれど

 おてがみならいえるとおもって。

 ただいま おばあちゃん。たくさんまたせてしまって ごめんなさい。

 わたしをわすれないでくれてありがとう。

 

 それでは いちばんいいたいことをかきます。

 ここまで いろいろかいたので こんどはうまくいうことができそうです。

 おばあちゃん。わたしをまつのは きょうをさいごにしてください。

 かぞくのもとへいってください。

 かぞくがはなれているのは とてもさみしいことです。

 いっしょにいるじかんは えいえんにはつづきません。

 まいにちはあるひ まいにちじゃなくなってしまうものなんです。

 とうほうがどこか わたしにはわからないけれど

 とおいところだったとしても かならずいってください。

 おばあちゃんのまいにちがしあわせであふれますように。


 いつかまた ちがうすがたであったときは

 いっしょにかいがらをひろいましょう。

 いつかまた ちがうすがたであったときは

 いっしょにおかしをつくりましょう。

 いつかまた うみのまちで』



 ――曙光都市エルジオン――


少女が言った。


「お墓におそなえするお花 これがいいわ!

 リンと同じ 真っ白で小さなお花……。

 ……お母さん これはなんて読むの?」


「これはね スズランと読むのよ」


「スズラン……。キレイなお花だね」


「ええ。……とってもキレイね」


少女は母親と手を繋いだ。


「お母さん! 今日もお手伝いする!」


「あらいい子ね。じゃあ……」


花を抱え、少女は帰路についた。少女が選んだ花が風に揺れた。

花言葉は――再び幸せが訪れる。



 ――港町 リンデ――


老婆はトロリーバッグを持った。


「東方までの定期便をお願いできるかしら?」


老婆は船に乗った。


 ――巳の国 イザナ――


老婆は東方の港で迎えを見つけた。


「いたいた……! 遠かっただろ? 俺たちの家はすぐそこなんだ。

 今日は婆ちゃんの好きな海の幸たっぷりの夕飯だから 楽しみにしてくれよ。

 爺ちゃんも 朝からそわそわしててさ。

 ほら荷物貸して。早く帰ろう」


老婆は一度海を振り返り、歩き出した。



 ――時の忘れ物亭――


旅人は扉に手をかける。


――チリン。


「アルドか。お帰り」


「ただいま マスター」


旅人はカウンターに腰かけた。


「…………終わったのか?」


「ああ……。……オレは あの子に何かできたのかな……」


「最後は 笑っていたんだろう?」


「笑ってたよ。笑って……行ったんだ」


「……なら それが答えじゃないのか」


「そうか。……それなら いいんだけどな」


旅人は尋ねられる。


「新たな冒険が始まるまで 話を聞かせてくれないか?」


「もちろん。最初はエアポートで……」


旅人は時が許す限り語った。


「そういえば オレの仲間と言葉が通じなかったんだ。

 家族とか所縁のある人とだけ 伝わるならわかるけど……

 それなら オレやマスターとだって言葉が通じないと思うんだ」


「ふ……」


「マスター……? どうしたんだ?」


「いや……。アルド」


「ん?」


「猫語は得意か?」


「……? …………あ!?

 (猫同士なら そりゃ会話できるよな……)」


旅人は立ち上がった。


「……行くのか?」


「ああ。やるべきことがあるんだ」


「そうか。道中 気を付けて」


「ありがとう」


旅人は振り返った。


「行ってきます」


旅人は扉を開けた。


――チリン。

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時廻りの少女は鈴の音色を奏でる 雪水だいふく @yukimi-daifuku

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