黒檀の花
小鈴なお 🎏
黒檀の花(こくたんのはな)
あなたは好きですか、残暑。
ああ、
そのままの意味です。
夏休みでだらけていた体を
雨が
いえいえ、失礼しました。こういったネガティブな言動は
ファンの
でも
まじ残暑KILL。
あれ、DIEかな。
まあいいやなんでも。
われて
栄養の全てを
今年の4月に進学した女子校まで電車で40分、
父なりの苦労を重ねて手に入れた木造3階建ての個人
出っ張ったお
さて。
すがすがしさとは真逆の不快な朝。
それでも。いや、だからこそです。
元気に登校するとしましょう。
歩くのは好きです。
電信柱の根元チェックが楽しい。
地面と柱の
そうやって
はたと気がついて持ち物を
ああ。
やっぱり。
数学の問題集を家に置いてきてしまいました。
中学まで勉強に
しょうがない取りに帰るか、と
で、ですよ。
引き返そうと
まわりの
ぷは。
いやいや、風景が
さすがにこれはたちくらみの類い。
いいんですそれは。良くないけど。
それより私の前の女性。
見覚えがある、どころではありません。
私と
顔も体つきも同じ。
目の前に立っているのは「わたし」です。
えーと。
私のそっくりさんは、私と目が合うと
今日の朝、鏡を見た私の
明らかに不自然ですが、世界に3人は似た人がいると言いますし。
気にしてない。
ほんとほんと。
ほんっとに気にしてませんからっ!
改めて
んー。
あー。
やっぱり
おかしい。
私のそっくりさんがそっくりすぎるのはもちろんですが、それだけじゃなくて。
だって
道も広くなってるもん。
こうなるともう
私の体が
どれぐらいでしょう、頭ひとつぶんといったところでしょうか。中学に上がる前ぐらいだったらこんなかな。
もう一度立ち止まり、後ろを
うわ、いるよ。
私にそっくりのわたしが付いてきていました。
どうも
よし。
意を決して
ほんとだぞ。
……やっぱ無理。
なんなんでしょう、この子。
現実であることを受け入れるごとに体中の血の色が消えていきます。
もはや
三十六計
私、おうちかえる。
じゃあね、ばいばい。
いきなり全速力で走る私。
すぐに息が上がりますが、それでも止まるわけにはいきません。
そんな必死の努力をあざ笑うかのように、先ほどの感覚がまた
自分の体がぎゅっと
2回目ですからね。意識していたせいか、はっきり実感してしまいました。
変化したのは私です。
家々をまたいで届く大通りの車の音、それをかき消すように鳴く
私と同じサイズのわたしが3人、一列に
私と目が合うとはにかんで
世界中から集めた
なんなのこれ。
そんなわけないでしょ。
その後はさらに死に物狂い。
家に帰りたい。
酸素が足りない。
しゅごー、しゅごー、と
たった今歩いてきたばかりの道のりが果てしなく遠い。
私がどんどん小さくなっていくせいで、一向に家にたどり着けません。
後ろからついてくるわたしたちは、私が
私はこのまま最後に消えてしまうのか、もしくはミニマムサイズで生きていかなければならないのか。想像するだけで泣きそうです。
もうとっくに
どれぐらい走ったでしょう。
地面ってこんなにでこぼこしてたんですか。岩だらけなんですけど。
手足を使って
通りがかる人は
もはや私とは別の生き物にしか見えません。
何度も空気を
「あなたは
きっ、とにらみつけますが返事はなく、ただにこにことしているだけです。
「あなたは私なの?」
答えてくれないようです。
はあ。
……
あれ、
解体されたものを元に
つまり、この子たちを食べれば、私の体も元通りです。
物は
実際にやってみましょう。
私はわたしの
意外に
わたしは私に食いつかれるまま、何の
いくばくかたって、
私が持つ、わたしへの
そうですね。
こういうやり方は良くなかった。
私は
ええと。
どうしていいのか分からなくなりました。
ひとやすみしたいところですがそうもいっていられません。
雨にでも
幸い、私がもう十分に増えたせいなのか、体の
気分が少しだけ明るくなります。
時間はかかりますが、
ちょっと意地悪をしてみたくなりました。
ぐるっと遠回り。
どうかな。
ふふ。
わたしたちは
ずるをする子なんていません。
私はなんでわたしを食べようなどと思ってしまったのでしょう。
気が動転していたとはいえ、あんまりです。
ごめんね。
立ち止まって、先ほど
さて、ようやく
そうなんですよ、なんだか数を増やしているうちに私の形も不確かになっていまして。体が3つに
かっこいいでしょう。
これからは
まずは親に新しい私の
2階について、
ちょっと確認。
わたしたちついてきているかな。
ちゃんといますね。
ふふ、いい子たち。
リビングのテーブルに登ってみますが父は私に気付いてくれません。どうしましょう。声は出せないので
こうなると
落ちないように注意しながらテーブルの
わたしたちは素直にその後ろに続きます。無機質な
楽しくなった私はテーブルの上を何度もまわります。
少しずつ輪をせばめながら、ぐるぐると。
最後に中心まで着くと、
もうこれだけでうっとりとしてしまいませんか。
私もそのひとひらとして
部屋中の家具が
さて、お願いです。
少々申し上げづらいのですが、いくばくか
この
いえ、こういった
とはいえどう伝えればいいやら。
じっと見つめます。
父はしばらくわたしたちを
うーん、そこはキッチンの
どうにか分かってもらう方法は、と考えあぐねていると、階下から父が
ああ!
手にはエメラルドグリーンのつるつるとしたプラスチックケース!
やはり親子。
願いは通じたようです。
私のためにあつらえておいた
食物は本来、
父はそれをテーブルと
近くにいたわたしたちが
そのまわりのわたしたちもつぎつぎに
ほらやっぱり!
細長く、
見事に大きさの整った
あらあら、つまみ食いはいけませんよ。
私が着いたときには箱の中は空っぽでした。
ですが、十分です。
これで当面は食べ物に
中身を失ってなお香り立つプラスチックケースに
巣の場所は知りませんが、わたしたちの歩く道に
外に出ると、びっくりするぐらい大きく、丸いお月様が堂々と空に
一列に並んで
私は、なんで私とわたしたちをわざわざ区別していたのでしょう。
なにか私がわたしたちを導く立場だとでもいうような、
私はわたし、わたしは私。
わたしたちはみんなおなじ。
もうすぐ本格的に秋がやってきます。
木々が実をつけはじめるだけでなく、
わたしたちにとっては、
あなたも今のところは
もしどこかでお会いできましたら、そうですね。
父にもらったごちそうをお
(了)
黒檀の花 小鈴なお 🎏 @kosuzu_nao
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