第81話 守りたいモノ

──ビアンドの最終奥義と

テルアキのホーリーサクリファイスが

激しくぶつかる。


「ぐぬぬっ!!」


「うおっーー!!」


……バーーンッ!!!


激しい衝撃音が続いた後、

大広間は眩しい光に包まれた。


余りの眩しさにユウト、ユナ、サキは

視界を奪われる。


そして、目を細めながら

テルアキとビアンドの姿を

確認しようとする……。


「はぁ……、はぁ……」


ユナの視界に初めに映ったのは

ビアンドが膝まづき、

両手を床について苦しむ姿だ。


(……僧侶様っ! ……僧侶様はっ!?)


ユナは慌ててテルアキが立っていた

場所に視線を向ける。


(……えっ!?)


……バサッ。


ユナの視界に映ったのは、

テルアキが着ていた上半身だけの僧衣が

ゆっくりと地面に舞い降りる姿だった。


(……えっ!? 僧侶様!?

……僧侶様はっ!?)


ユナは床に舞い降りた

テルアキの僧衣に駆け寄り、

地面に膝まづいてその僧衣を手に取り、

……そして、泣き叫んだ。


「……はぅっ、うぅっ!

……嫌っ!! 嫌っ!!

……嫌あぁーーーーっっ!!」


テルアキの僧衣を手に取り

泣き崩れるユナの姿に、

サキは状況を理解できないでいる。


「……お、おい、ユナ?

何でお前、泣いてるんだよ?


……テルアキは?

テルアキはどこに行ったんだ?

何で、服しか残ってないんだよ?」


「う、うぅ……。

うわぁぁーーーっ!!」


ユナはサキに返答をできずに泣いている。

サキはユナに答を求めることを諦めて、

代わりにユウトを問いただした。


「ユウト……、何だ? これは?

どうしてテルアキの姿が消えたんだ?

何でユナは泣いているんだ?」


ユウトもユナと同じく

下を向いて涙をこらえ、

言葉を詰まらせたが、小さく答えた。


「……くっ、……サキさん、

テルアキさんは……、死にました」


(……なっ!?)


サキはユウトの元に掛けより、

首元を掴んで、激しく問いただす。


「はぁ!? ……死んだ!?


おおぃ! ユウト!! どういう事だ!?

ホーリーサクリファイスを撃ったら、

消耗して動けなくなるだけだろ!?


……それが!


どうして姿が消えてるんだよ!?

どうして死んだ、なんて言うんだよっ!?」


「サキさん……、それは嘘です。

テルアキさんが……、

サキさんとユナさんについた

……嘘なんです」


「……なっ!? ……何でっ!?


つか、ユウト!! ……お前っ!!

その事……、知ってたのか!?」


ユウトは言葉にする代わりに、

……小さく頷いた。


「バカヤローッ!!」


……ドカッ!!


サキの拳がユウトの顔面を捕らえる。


「ユウト! お前……、それを知ってて!

本当の事を知ってて!

テルアキにホーリーサクリファイスを

撃たせたのか!?


……じゃあ何か!?

アタシは……、何も知らずに! テルアキに!


『お前は死んでもいいから

ホーリーサクリファイスを撃て!』


って言っていたのか!?

……どうなんだ!? ユウト!!」


「……ぐっ、サキさん、ユナさん……。

僕は何も言い訳できません。


……でも! それが

テルアキさんの意思だったんです。

テルアキさんは僕に言ってくれました。


……もし、ビアンドが

想定外の強力な攻撃をしてきて、


ユナさんとサキさんを

守ることが出来ない!

2人を守る手段が

ホーリーサクリファイスしかない!


……ってなった時は、

迷わず撃つから協力してくれ! って。


……すみません!

僕がもっと強ければ……、

もっとしっかりしていれば……、

こんな事にはならなかったんです!


……全て、僕のせいなんです!」


「……テルアキの奴! そんな事をっ!

……くそっ! くそっーーっ!!」


テルアキの僧衣を持って泣き崩れるユナ……

やり場の無い怒りに震えるサキ……

下を向きうなだれるユウト……


心の痛みに苦しむ3人に

最も聞きたくない声が聞こえてくる……。


「……ぐはっ!!

馬鹿なっ! 私の最終奥義がっ!

全ての力を込めた攻撃が!!


たった1人の人間に破られただと!?

しかも……たかが僧侶!

勇者でも何でもない!

……たかが僧侶1人にっ!!


馬鹿なっ! これは何かの間違いだ。

……そうだ、きっと間違いだ。


馬鹿な人間、馬鹿な僧侶1人に!?

そんな、そんなっ!!?


……そもそも、仲間の為に自分の生命を

犠牲にしただとっ!?

何という愚かな行為だっ!?」


………。


勘に障るビアンドの声。

今の3人に

最も言ってはならない言葉の数々……。


ユナは泣くのを一旦やめ、

ビアンドへ近づく……。


「ねぇ……、アンタ、ちょっとうるさいよ。

アンタが私達の僧侶様を

汚すことは許さない……。

侮辱することは認めない……」


ユナは低い声でそう言いながら、

魔法を唱える。


……『マクスマジックウォール!』

……『マクスファイア!!』


ドーム型に覆われた魔法防御の壁の中で

業火がビアンドの身体を焼き尽くす。


「ぐおぉーーっ!!」


続いて、

サキがビアンドの元に近づいて行く……。


「……いいぞ、ユナ。

連続して魔法を撃たせて済まないが、

アタシにスピードをくれ」


「……マクススピード」


ユナは返事をすることなく、

サキに低い声で

スピードの上級魔法をかけた。


「……ビアンド、

お前はしてはいけない事をした。

言ってはいけない事を言った。

……覚悟しろ」


……ババババッ!!


サキはビアンドの周囲を高速で移動し、

激しい拳打と短剣による斬撃を

無数にビアンドに叩き込んだ。


……バーンッ!!


サキの激しい攻撃に、

ビアンドの身体が壁にぶっ飛ばされる。


「……がはっ!! ぐはっ!!」


更に苦しむビアンドに、

ユウトが近づいて行く……。


「……ビアンド、今分かった。


お前はやっぱり居てはいけない存在だ。

お前が居ると不幸な人間が必ず生まれる。

お前は不幸を生み出す元凶だ」


ユウトは勇者の剣を強く握りしめた。

すると、その刀身は黄金色に輝き始める。


(……そうか、勇者の剣。

ここでやっと、

本当の力を見せてくれるんだな。


……テルアキさん、僕の最後の一撃!

勇者の最後の一撃!


この一撃で!

……全てを終わらせます!!)


ユウトは力いっぱい、

勇者の剣を振りかぶる。


「ビアンド! これで終わりだ!

うおぉぉーー!!


……ギガスラッシュ!!!」


勇者の剣から発する

メガスラッシュよりも

巨大でまばゆい黄金色の閃光が

ビアンドの身体を飲み込む。


「ぐああぁーー!!

おのれ! おのれーーーーっ!!」


──こうして、

ビアンドの身体は消滅し、

伝説の勇者ユウトはビアンドを討伐した。


……その後、ユウト、サキ、ユナは

その場で暫くうなだれていた。


「……うあぁっ! うあぁっっー!!」


ユナはテルアキの上半身だけ残った僧衣を

手に取りながら泣き崩れ、

サキはユナの肩を抱いてなだめた……。


するとサキが、

僧衣の中に残るあるモノに気づく……。


「うん? ……ユナ?

テルアキの服の中、何かあるぞ?」


(……えっ!?)


ユナは慌てて

テルアキの僧衣の中に手を入れ、

その中に残されたモノを取り出す。


(……こ、これって!?)


テルアキの僧衣の中に

残されたモノを見て……、

ユナはまた大粒の涙を目からこぼした。


また、サキはため息をつきながら

やるせなさをあらわにした。

そして、サキの目からも

涙がこぼれ落ちる……。


「……はぅっ! うぅっ…!!

うわぁぁーーーっ!!!

僧侶様っー!! あぁっっーー!!


何でっ!?

何でこんなモノをっ!?


うぅっ!!

うあぁっっーー!!」


「……たくっ! テルアキのやつ!!

ホーリーサクリファイスを撃ちながら

守りたかったのはこれかよっ!?


自分の身体を守らずに……、

あいつは何やってんだ!!


くそっ……うぅ……バカヤロウッ!」


……テルアキの僧衣から

ユナの手に取り出されたモノ……。


それは、

ユナがテルアキにプレゼントした

いびつなアメーバ型に加工された

ピンクトルマリン製の

手作りペンダントだった。


ユナの脳裏に

テルアキに手作りペンダントを

プレゼントした時の情景が浮かぶ……。


─────────────


テルアキはユナに礼を伝えるのに

言葉ではなく、ムーヴの魔法を唱えて

紙とペンをテーブルに移動させた。

そしてそのまま

魔法を使って紙に文字を書いた……。 


──ユナ、ありがとう!

最高に嬉しいプレゼントだ。

大切にするよ──


──────────────


「はぅっ……うぅっ……!

僧侶様ぁーーーっ!!

あぁっ!! ……うあぁっーー!!」


ユナはその光景を思い出しながら、

自分の首にかけていた

テルアキからプレゼントされた

ハート型のペンダントを

強く握りしめていた……。


──こうして魔王ビアンドとの戦いは

幕を閉じるのであった。

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