第80話 ホーリーサクリファイス

──「……分かりました! テルアキさん!

後の事は……僕達に任せてください!!」


俺はユウトの言葉に感謝し

最後の決意をした。


(……テルアキさんっ!

僕がもっと強ければ!

僕がもっとしっかりしていれば!!


本当にっ! ……本当にすみませんっ!!)


後悔に苦しむユウトだったが、

俺はユウトの声に感謝した。


(……よし! 流石ユウトだ!

この状況を! ……俺の気持ちを

ちゃんと分かってくれている!!


あとはホーリーサクリファイスを

唱える一瞬の時間を作るだけだ!!)


「ユウト! ありがとなっ!

お前が仲間で良かった!! お前なら!

……後の事を安心して任せられる!」


(……テルアキさん!!)


ユウトはこぼれ落ちそうになる涙を

必死にこらえて、

勇者の盾を構え続けた。


俺達の会話に、

ビアンドが不適な笑みを浮かべる……。


「……ふははははっ! 人間共!

何をする気かは知らないが、

全てのあらがいは無意味だ!

さぁ、そろそろ終わりだ!!

死ね! 消滅しろ!!


……ぬおぉぉーーーっ!!」


ビアンドは瘴気しょうきと魔力を

更に強め、最終奥義の威力を強める。


(……なっ!?

まだ強力になっていくのか!?

もう一刻の猶予も無いっ!!)


より一層強力になって行く

ビアンドの最終奥義。

そしてより苦しみを増していく

ユナとサキの姿に……、俺は覚悟を決めた。


「……ユナ! ユウト! 頼みがある!!

一瞬で良い!

俺に魔法を唱える時間をくれ!!


ユナはユウトの後ろに隠れて、

マクスマジックウォールを

俺の前に出してくれ!


ユウトはサキとユナを

勇者の盾の後ろに隠して

一瞬だけ! ……しっかり守ってくれ!!」


(……えっ!? ……僧侶様!?

……今、……何て言ったの!?)


「分かりました!!

ユナさん! 早く僕の後ろに!!」


ユウトは俺の指示に従おうとしたが、

ユナは従う事が出来なかった。


「……ダメッ!!

僧侶様!! ……ダメだよっ!!

……私、出来ないっ!!」


ホーリーサクリファイスの

真実を知るユナが決断が出来ない中、

真実を知らないサキが叫ぶ。


「ユナ! 何を言っているんだ!?

もう、テルアキの極大魔法に

頼るしかないだろ!


お前の協力が無ければ

テルアキは極大魔法を撃てないんだぞ!

……何を躊躇してるんだよ!?」


(……だって! サキちゃんは!

……本当の事を知らないからっ!


僧侶様がこの魔法を撃ったら、


……僧侶様はっ!!


……僧侶様は死んじゃうんだよ!?


……それにっ!

僧侶様がこの魔法を撃てるように

私が協力するって事は、


……それはつまり!


……私自身の手で僧侶様の生命を奪う!


……っていうのと同じ事なんだよ!!


……出来ない!……出来ないよそんな事!


……私には出来ないっ!!


ああっ!! ……僧侶様! ……僧侶様っ!!)


ユナは大粒の涙を流し、

俺の隣で言う。


「……僧侶様! ……ごめんっ!!

私はっ! ……私はっ!

うっ、ううっ……!!」


(……くっ、ユナ。


……この状況じゃ怖いよな。


……冷静になんてなれないよな。


……それでも!

俺はお前を守りたいんだ!!)


俺は泣き崩れるユナの頭に

ポンッっ……と手を乗せる。


「……ユナ、聞いてくれ」


(……えっ!? 僧侶様?)


顔をあげるユナ……。


「術者が瀕死になってしまう魔法を

撃つのに協力してくれ!

……なんて怖いよな」


(……ううん!? 違う!

僧侶様っ!!……違うんだよ!!


……私は! 本当の事を知ってる!

私が協力したら僧侶様は死んじゃう!!

……って事を知ってるの!!

だから! 私は協力出来ないんだよ!!)


泣きながら複雑な表情を浮かべるユナに

俺は話を続ける。


「……でも、ユナ。

ここは迷うところじゃない。

サキを見て見ろ。

……あんなに苦しんでる」


ユナは後ろを振り返り、

ユウトの後ろで苦しむサキを見た。


(……っ!? サキちゃん!?

あんなに苦しんで!!)


「ユナも一緒だ。苦しいだろ?

それに、俺も必死に耐えているが

ビアンドの最終奥義は

確実に俺の体にもダメージを与えている。


……ユナ、俺はお前を守りたい。


……サキも守りたい。


ビアンドを倒すことよりも、

まずは大切な仲間を守りたいんだ。


……頼む。お前の力が必要だ。


一瞬で良い。

俺に、魔法を唱える時間を作ってくれ!」


(……で、でも!! ……私はっ!?)


ユナは顔を上げて

泣きながら俺を見つめている。


『……皆を守りたい!』


俺の気持ちを

頭では分かり始めたユナだったが、

しっかりとした返事は出来なかった。


そこで、俺はユナの腕を掴み、

小声でユナに言った。


「……ユナ。今まで、ありがとうな!」


(……えっ!? 僧侶……様!?


……何でっ!?


……何でそんな事を言うのっ!?


……ダメッ! ……嫌っ!!


……嫌ぁーーっ!!)


俺は腕の力を使って

ユナをユウトの方に投げ飛ばした。


(……えっ? 僧侶様?


……だって、私達、昨日約束したよね?


……皆で一緒に帰ろう! って。


……指切りしたよね?


……私の全てを伝えて、約束したよね?


……嫌っ、……嫌だよ!!


……そんなの! 嫌ぁっーーっ!!)


俺に投げ飛ばされ、

ユナの視界の中で

俺の姿が遠く離れていく……。


ユナは俺に手を伸ばすが、

その手は俺に届くことは無く、

遠く離れてゆく……。


(……僧侶様っ!? ……僧侶様っ!?


ダメっ! ……私の大切な僧侶様がっ!!


……離れてく!


……私の手の届かない所に!


……あぁ! ……あぁっーー!!)


心の中で泣き叫びながら、

ユナはユウトの方に投げ飛ばされた。


そして、後ろに居たユウトは

投げ飛ばされたユナを受け止め、

ユナとサキを自分の後ろに隠した。


「……ユナさん! 今です!

お願いします!!」


「ユナ! 迷うな!

これしかないんだ!!」


ユウトとサキの声に……


ユナは涙を流しながら……


苦しみながら……


叫びながら……


魔法を唱えた。


(……あうぅ!

……僧侶様! ……僧侶様っ!!)


「……マクスマジックウォール!!

……あうっ! 嫌ぁーっ!!

……嫌ぁーーっ!!」


(……よし! 来た!

ユナ! やっぱりお前は最高だ!!)


俺は目の前に表れた

上級魔法の分厚い防御の壁を確認し、

自分が唱えていた全体防御の

魔法を一旦解く。


そして、全ての意識を集中し、

魔法の名前を叫ぶ。


……『ホーリーサクリファイス』!!


すると、俺の全身はまばゆい光に包まれ、

全身から発する聖なる光が周囲に広がる。


そしてまずは、

俺の後方に広がるビアンドの瘴気と魔力を

打ち消すことが出来た。


(……よし!

これで後ろの皆はきっと大丈夫だ!!)


次に、俺は両手をビアンドに向け、

全身から発っする聖なる光を

ビアンドの攻撃にぶつける。


「うおぉーー!!」


「な、なんだこの光はっ!?

どういう事だ!?

私の知らぬ魔法かっ!?」


「ビアンド!!

これは僧侶の極大魔法!

ホーリーサクリファイスだ!!


俺の全てを掛けて……、お前の最終奥義!

打ち消して見せる!!」


「おのれ! 小しゃくな!!

たかが1人、人間の僧侶が

意気がった所で何ができる!?

我が最終奥義を敗れるものか!?」


「……これはただの魔法じゃない!!

仲間を思う気持ち! 強い意思!

俺の全てを込めた……極大魔法だ!!


うぉぉーーー!!」


ビアンドから発する瘴気をまとった攻撃と

光り輝く俺自身から発する

聖なる光が激しくぶつかる。


「……ぐぬぬっ!!」


「……うおぉーー!!」


その時、俺は……

ビアンドの攻撃に自身の魔法をぶつけながら、

ある事を思いついた。


(……そうだっ!

……こうしておけば、もしかしたらっ!?)


俺は片手をビアンドの方に向け、

残りの手は自分の胸に当てた。

俺はできる限り、

ビアンドの攻撃に自身の魔法をぶつけつつ、

自分の周りにもその光が

集まるように意識を集中した。


激しい閃光に包まれる中、

ユナの叫び声が響き渡る。


「僧侶様ーー!!

嫌ぁ! ……嫌ぁーーーっ!!」


泣き叫ぶユナの隣で、

ユウト、サキも状況を見守る……。


すると、サキがある事に気づき、

ユナに声をかける。


「……あれ? ユナ?

見えるか!? ……テルアキの奴!!」


ユナは泣きながら、顔をあげる。


「うぅ……えっ?

…… 何? サキちゃん?」


「……見ろっ! テルアキの姿を!

あいつ、最初は両手を

ビアンドの方に向けていたが、

今は片手だけビアンドに向けて、

もう一方の片手は自分に当ている!


……あれって!

自分の身体を守っている様に見えないか?」


(……えっ!?)


サキの言葉に、ユナは目を凝らす……。


「……本当だ! ……僧侶様、

片手を自分に当ててる……」


「……だろっ!? テルアキの奴!

こんな状況でも自分を守ろうとしてるんだ!

あいつはガムシャラに

捨て身の攻撃なんてしていないぞ!」


(……えっ!? 僧侶様、それって!?

……もしかして!!

……自分を守れる可能性があるって事!?


……僧侶様っ!?

死なずに済む方法を思いついたって事!?)


サキは不安を隠せないユナの肩に

ポンッ……と手を乗せる。


「……ユナ。

テルアキは今まで自由な発想で

色んな問題を解決してきたが、

この最終局面でも

きっと何か良い方法を思いついたんだ!


だから、何かの意味があって

ああやって自分の身体に

片手を当ててるんだ!」


そして、ユウトもユナに声をかける。


「そうですよ! ユナさん!

……今は! テルアキさんを信じましょう!

テルアキさんなら、

奇跡を起こしてくれるかもしれません!」


「……ああ、そうだな! ユウト!

あいつはあいつで、

空から降りてきた伝説の男だからなっ!!」


ユウトとサキの言葉に

ユナは目に涙を浮かべながらも

一縷いちるの望みを抱く。


(……本当なのっ!? 僧侶様!


……私! 信じるよ!


……お願い! 私の想い! 届いて!


……お願い! 奇跡を起こして!!


……お願い! 僧侶様っ!!!)


ユウト、ユナ、サキが見守る中、

ビアンドとテルアキの攻撃が

激しくぶつかる。


「ぐぬぬっ!!」


「うおっーー!!」


──こうして暫くの間、

ビアンドの最終奥義と俺の極大魔法が

激しくぶつかり合うのであった。

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