第82話 勝利

──ユウトはビアンドを打ち倒し、

フリル王国を苦しめてきた

魔王討伐に成功した。


ユウト、ユナ、サキの3人は

テルアキの犠牲の上に成り立つ勝利に

喜ぶことができずに、

暫くの間、戦場となった大広間で

うなだれていた……。


── 一方、ユウト達が

ビアンドを打ち倒すと同時に、

キュイール島とフリル王国を覆っていた

魔王の瘴気しょうきは晴れ渡り、

魔物達も一斉にその姿を消した。


どんよりと重い空気に包まれた王国は、

ビアンドが現れる以前の

の美しい景色を取り戻す。


城門の外で戦っていた王国騎士達、

森で戦っていたグラチネの上級僧達、

キュイール島の海岸で

舟の護衛をしていたブレゼスの漁師達は

その変化に気付く……。


── 城門、王国騎士達は……


「ランティーユ騎士団長!

魔物達が消滅しました!

……これは一体!?」


「空気が澄み渡り、

魔物が一斉に消滅する理由。

……それは、1つしか考えられません」


「……それはつまりっ!?

伝説の勇者達が

魔王ビアンドを討伐したとっ!?」


「……まだ確定はしませんが、

彼らの帰還を待ちましょう。

勝利の確定はそれからです」


……魔物との戦闘を終え、

勝利に沸く前に

ランティーユが的確な指示を出す。


「……皆の者!! 魔物は消滅した!

これ以上の戦闘はないであろうっ!!


僧侶隊は急ぎ、重症者の手当をっ!

魔法使い隊は、グリエールの

グルナード総督に報告に向かえ!


応急処置が済んだ重症者から

グリエールに魔法で搬送する!

治療体制を確立するよう依頼するのだ!」


「……はっ! ムーヴタウン!!」


ランティーユの指示を受け、

魔法使い隊の1名がグリエールに向かう。

戦闘を終えたアリコが

ランティーユに近寄る。


「……母上!? この状況は!?

ユウト殿、テルアキ殿が……、

ついにやってくれたのでしょうかっ!?」


喜びにふけようとするアリコに、

ランティーユが檄を飛ばす。


「……愚か者っ!! アリコ!

周りの状況が見えないのかっ!?


犠牲者数、重症者数を急ぎ確認し、

報告せよっ! ……これ以上!

犠牲者を増やしてはならぬぞ!!」


「……は、はいっ!

申し訳ありません!!」


アリコはランティーユの厳しい言葉に、

ビシッと敬礼をして状況確認に走った。


(……ざっと見る限り、

我が隊の犠牲者は30名程か。

グラチネの上級僧方、

ブレゼスの漁師方に

被害者が出ていなければ良いが……)


程なくして、騎士隊の被害の

全容が明らかとなる。

犠牲者数は


王国騎士 310名の内、18名。

魔法使い 30名の内、4名。

僧侶   30名の内、3名。


その他、重症者数は

合わせて13名……という事であった。


「……よしっ!

僧侶隊は重症者1名につき

1~2名体制で応急処置を行った後、

グリエールに魔法で搬送だ!


……動ける者は、

後で犠牲者の遺体を回収できる様に

整列させよっ!

遺体の回収が困難な場合は

名前を記録して装備品をまとめよっ!


……この戦いで

犠牲となってしまった者の雄姿を

確実に家族の元に届けるのだぞ!」


「……はっ!!」


(……あとは、

勇者達の帰還を待つのみですね。

ユウト殿! テルアキ殿! サキ! ユナ!

……皆、無事に帰ってくるのですよ!!)


ランティーユは指示を終え、

美しく晴れ渡る空を見上げた……。



── 森 グラチネの上級僧達は……


「……セザム寺長!

魔物が消滅しました!

島全体の瘴気も消えています!」


「……うむ、その様だな。

これは、魔王ビアンドが倒されたと

思って良いだろう……。


皆っ!! 我々に負傷者は出たが、

犠牲者は出なかった! 上々の戦果だ!

ご苦労であったなっ!!」


「うおぉぉーー!!」


セザムの言葉と周囲の状況変化に

上級僧達は歓喜の声を上げる。

親子パンダのアネットとタンは

長い戦闘に疲弊したようで、

互いに背中を寄せ合い、

安心した様子で居眠りを始めた……。


「……グウゥー」

「……ムウゥー」


その様子を見ながら、

セドラも他の上級僧達と

一緒に喜びを分かち合った。


(……サキさん!

ついにやったのですね!?

……あなたは、やはり素晴らしい人です!!


……それに、アネットとタンも

よく頑張ってくれましたね)


セドラはサキの事を想いながら

アネットとタンの頭を撫でていた……。


── 海岸 ブレゼスの漁師達は……


「……カルマール漁師長!

海の様子がっ!

魔物の気配がなくなりました!!」


「……そうだな。

これは、ユウト君達が

やってくれたと言うことだろう!


皆! 舟の護衛ご苦労だったな!!

1人の犠牲者も出さず、

皆、よく持ちこたえてくれた!


負傷者は僧侶隊が戻り次第、

治療させるから安静にするように!!


あとは……私達に残された仕事は

戦闘を終えた騎士達の輸送だけだ!

皆! もう少しだけ、頼むぞっ!!」


「おおっー!!

任せてください! 漁師長!」


「クウゥーーッ!!」

「キュウゥーッ!!」


カルマールの言葉に、

漁師達、オリオル、ヤキザバコも

歓声をあげて応える。


……皆が歓声を上げる中、

ユイトルも同じく歓声を上げ、

皆と喜びを分かち合った。


(……テルアキ!

アンタって人はっ!!

……本当にやったのね!?


帰ってきたら、

いっぱいご馳走してあげるんだからっ!!

ちゃんと無事に帰ってきなさいよ!!)


── 皆がユウト達から

勝利の吉報を待ち侘びる中、

ユナはテルアキの僧衣と

その中に残された

いびつな形のペンダントを手に取り、

漸く立ち上がることができた。


サキは優しくユナの肩を抱いている……。


ユウトがユナとサキに

気を遣いながら声をかける。


「ユナさん、サキさん……。

きっと皆が外で心配してます。

まずは城の外に出ましょう。

……僕がイグジットを唱えます」


「……」


……ユナは悲しみで声を出せず、

答える代わりに小さく頷いた。


「……そうだな。ユウト、頼む」


ユウトはユナとサキの手を取り、

魔法を唱える。


……『イグジット!!』


3人の身体は魔法の光に包まれ、

城門の外に移動した。


……シュタッ!!


城門の外に現れた伝説の勇者の姿に

一同の注目が集まる。

ランティーユはユウトの元に駆け寄り、

膝をついて、ユウトからの言葉を促す……。


「……伝説の勇者、ユウト殿!

皆に報告をっ!!」


ユウトは皆から突き刺さる視線に

少し緊張をしながら、

勇者の剣を天に向け、大声で叫んだ。


「……魔王ビアンドは!!

我! 伝説の勇者ユウトがっ!!

……打ち倒しました!!」


「おおぉーーーー!!」


生き残った騎士達から

割れんばかりの歓声が上がる。

その戦果に大声で応える者、涙を流す者……

皆がそれぞれの感情のままに

喜びをあらわにした。


ランティーユがユウトに声をかける。


「……ユウト殿っ! ついに!

ついにやってくれたのですね!?

この騎士団長ランティーユ!!

最大級の謝意をお伝えしますっ!!


本当に……本当に……!

よくやってくれました!!」


「ラ、ランティーユさん……」


ランティーユが膝をつき

頭を下げるその姿に、

ユウトは良い返事を思いつかずに

言葉に詰まってしまった。


そして、アリコも

ユウト達の元に駆け寄り、

興奮と感謝を伝える。


「ユウト殿!!

……本当に魔王を討伐してしまうとはっ!

あなたはこの国を救ってくれました!

真の勇者です!!


それに……!


サキさんもっ! ユナさんもっ!

……テルアキ殿もっ!!」


(……えっ!? テルアキ殿はっ!?

テルアキ殿の姿がっ!?)


アリコはユウト、サキ、ユナ……と

目に映った順に名前を口にしたが、

そこに居るはずのテルアキが

居ないことに困惑した……。


「うぅ……。うぅっ……。

アリコさんっ……!

僧侶様は……、僧侶様はっ!!」


テルアキの僧衣を抱きながら、

言葉を詰まらせる姿に

ランティーユ、アリコ共に状況を察する。


(……テルアキ殿)


(……まさか!? そんなっ!?

テルアキ殿がっ!?)


「……ごめんなさい、アリコさん。

僧侶様は私達を守る為に、

……犠牲になってくれたの。


今、私達がここに居られるのは

僧侶様が命懸けで

守ってくれたおかげなのっ!!


はうぅ……うぅっ……!!」


涙ながらに必死に伝えるユナの姿に

ランティーユが話し始める……。


「……ユナ。

僧侶であるテルアキ殿が

犠牲になって皆を守る方法……。

ホーリーサクリファイスですか?」


(……えっ!? ランティーユさん!?

ホーリーサクリファイスを知ってるの!?)


ユナは涙ながらに

ランティーユを見上げた。

ランティーユには、

それだけで十分な返答だった。


「……僧侶だけが使える極大魔法。

自らの生命を犠牲にして

最大攻撃と最大防御を行う魔法。


ユウト殿、ユナ、サキ……。


実は私も……、若い頃に

ある勇敢な僧侶が唱えてくれた

ホーリーサクリファイスによって

生命を救われた1人です」


(……えっ!? ランティーユさんもっ!?)


(……母上っ!?

そんな過去があったなんて、

私も知りませんでした!)


ランティーユの言葉に

そこに居た一同が驚きで目を見開く……。


──こうして、ランティーユは

自身の過去を混じえつつ、

ユウト、ユナ、サキ、アリコ、

若者達に語り始めた……。

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