第79話 守りたい

──サキの強化型炸裂弾を使った

大爆発による攻撃で

ビアンドは大ダメージを受けた。


一方、ユウトは

苦しむビアンドを注視しながら、

攻撃の集中力を高めていた。


(……皆さん! 凄いっ!!

テルアキさんとユナさんの連携魔法!

サキさんの道具を使った有効な攻撃!


……皆が作ってくれた最大のチャンス!

最後は、勇者である僕がキメます!!)


ユウトが意を決して

勇者の剣を強く握りしめる。

すると、その刀身は白く輝き始めた……。


「ビアンド! これで終わりだ!

……メガスラッシュ!!」


勇者の剣から発する巨大な閃光が

竜の姿となったビアンドを飲み込む。


「ぐあぁーーっ!! ぐあぁーーっ!!」


ビアンドの叫び声が響き渡る。

数秒後、巨大な閃光は消え、

ビアンドがその姿を現す。


(……なっ!? あれはっ!?)


ビアンドは竜の姿から、

元の人間の様な姿に戻っていた。


「やった!

ビアンドが元の姿に戻ったよ!」


元の姿に戻り、

床に膝をついて苦しむビアンドに

ユウトは歩みより、勇者の剣を向ける。


「ビアンド、力尽きたようだな。

もう終わりだ。覚悟してくれ……」


ユウトはビアンドの首に狙いを定め、

勇者の剣を振りかぶる。

……すると、ビアンドは笑い始めた。


「……ふふふ。ふはははっ!

まさかここまでとはっ! 人間ども!

その力、素晴らしいなっ!

伝説の勇者が強力な攻撃を

繰り出すのは理解できるが……。


魔女、僧侶、短剣の女!

お前達3人かっ!?

この強さを支える厄介な存在は!


……ふはははっ!


いいぞ人間!

この技は私も相当の消耗を伴う為に

使うまいと思っていたが、致し方あるまい。


伝説の勇者よ!

お前だけは伝説の装備のおかげで

耐えられるかも知れぬが、

相当のダメージを負うぞ!


そして、ただの人間は確実に死ぬ!

防御魔法も無効だ!


まずは厄介な勇者以外の3人!

お前達を確実に殺す!!

……その後に勇者! お前だ!!


……ふふふ。

私の最終奥義! 受けてみよっ!」


……ゴゴゴゴッ!


「……うわっ!?」


ビアンドが放とうとする

最終奥義を阻止すべく、

ユウトは勇者の剣を振り下ろそうとしたが、

魔王ビアンドから発する凄まじい

嵐の様な瘴気と威圧感に

弾き飛ばされてしまった。


ビアンドは不気味な詠唱を続け、

周囲がおぞましい気配に包まれていく……。


俺は弾き飛ばされたユウトに叫ぶ。


「ユウト! この気配はまずい!!

こっちに来るんだ!

魔法で防御の壁を作る!!」


俺達は4人で1ヶ所にまとまった。

魔法防御の壁を作るべく、

俺とユナが先頭に立つ。


体制を整える俺達を見て、

ビアンドが不気味に言う。


「……ふふふ。

我が瘴気と魔力の全てを込めた最終奥義。

魔法で防ぐことなどできぬ。

やりたければ、

せいぜい悪あがきをするが良い……。


この技を撃ち終えた後に残るのは、

お前達4人の死体、

……若しくは、百歩譲って

瀕死の勇者ただ1人だ!!


……ゆくぞ!!」


……『ヘルバースト』!!


魔王が叫んだその名に俺は

最大級の警戒をする。


(……なっ!? 魔法じゃない!?

知らない攻撃だ!?


……これはっ!?


……頭で考えなくても体が感じる!

この攻撃はっ!? ……まずいっ!?)


ビアンドが最終奥義だと言って放った

攻撃に抵抗する為、

俺とユナは魔法で防御の壁を作る。


「オールプロテクトウォール!」

「オールマジックウォール!」


(……なっ!? こ、これは!?)


俺とユナが魔法で作った防御の壁は

ビアンドの禍々まがまがしい瘴気をまとった攻撃で

みるみる薄れていく。


「……えっ!? 何これ!?

防御の壁が! どんどん消えていく!?」


「ユナッ! 怯むな! もう一度だ!

オールプロテクトウォール!」


「うん! 僧侶様!

オールマジックウォール!」


俺とユナはビアンドの強烈な奥義の前に

必死にもがく……。


「ふはははっ!

どうだ! 人間共っ!

私の瘴気を込めた最終奥義!

人間の魔力で防げるモノではないぞ!


さぁ、いつまで持つかな?

恐怖と絶望に怯えながら!

我が最終奥義の前に倒れるが良い!」


「くっ! オールプロテクトウォール!」

「きゃぁ! オールマジックウォール!」


俺とユナは

掻き消される防御の壁を作り続ける……。


(……ダメだ!?

このままじゃ……、もたない!?)


俺は隣で苦しみながら

防御の壁を作りつづけるユナを見て、

この苦境を乗り切る手段を模索する。


しかし、防御の壁が簡単に

掻き消されていくこの状況では

良い方法が思いつかない。


……たった1つの手段を除いては。


『ホーリーサクリファイス』


僧侶だけが使える極大魔法。

最大級の攻撃と防御を同時に行える魔法。

そして、術者の生命を代償にする魔法。


俺は周りの状況を見た。


……隣ではユナが苦しみながら

繰り返し魔法を唱えている。


……後ろではユウトが勇者の盾を構えて、

ビアンドの最終奥義に必死に耐えている。


……サキはユウトの後ろに隠れ、

身を屈めて苦しんでいる。


(……ダメだ。

魔法防御の壁でも、物理防御の壁でも

ビアンドの最終奥義は防ぎきれない

この状況では……、もうアレしかっ!?)


俺は少しだけ後ろを振り返り、

ユウトと視線を合わせた。

俺の視線に気づいたユウトは、

ハッとした表情を見せ、

……首を横に降った。


(……テルアキさん!!

ダメですよっ! アレだけはっ!!)


俺の隣で必死に魔法を唱えるユナも

俺の様子が変わったことに気付いた。


(……えっ!? 僧侶様!?


……アレはっ!


……ダメだよ!!


……絶対にダメっ!!!)


ユナは俺の隣で目に涙を浮かべ、

必死に何かを訴えようとしている。


この時俺は、ユナとサキが


『ホーリーサクリファイスの代償が

術者の生命である』


……という事実を知らないと思っていた。


その事実を2人には伝えていないからだ。

この魔法を使えば、


『術者は疲弊して

暫く動けなくなるだけだ』


と嘘の説明をしたからだ。


……真実を自分の口から伝えたのは

ユウトだけだった。


しかし、ユナは独自に

ホーリーサクリファイスの事を調べて

その真実を知っていた。

この魔法を使えば、術者は死んでしまう。

テルアキは死んでしまう。


……ユナは真実を知っているのだ。


ユナは俺の隣で必死に

防御の壁を作り続けながら俺の袖を掴む。

そして、泣きながら無言で必死に訴える。


(……僧侶様! お願いっ!!

……アレだけはっ!!)


しかし、俺とユナが作る防御の壁は

作る毎に簡単に掻き消され、

テルアキとユナのMPを奪って行く。


そしてこの状況では

最高級回復薬を飲んで

MPを回復する事もままならない……。


(……くそっ! ユナ! サキ! ユウト!

この状況ではもう……アレしかっ!?


……俺は皆を守りたい!


……仲間を守りたい!


……大切な、ユナを守りたいっ!!)


冷静に状況を判断し、

考え得る全ての手段を想定したが、

俺はやはり最後の結論に達してしまった。


ビアンドの激しい最終奥義に襲われる中、

俺はユナに叫ぶ。


「ユナ! この攻撃は

普通の魔法では防げない!


……アレをやる!

ホーリサクリファイス!!

協力してくれ!!」


(……えっ!? 僧侶様!?)


俺の言葉に、

ユナの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる……。

そしてユナは、

俺の提案を即座に否定した。


「……ダメッ!

それだけは……、絶対ダメなの!

僧侶様!! 嫌っ……! 嫌ぁっー!!」


(……えっ!? ユナッ!?)


ユナの鬼気迫る様な激しい反応に、

俺は驚いたが、

ユウトの後ろで苦しむサキが叫ぶ。


「……テルアキ!


……この後、お前が瀕死の状態に

なって動けなくなるのは辛い状況だが、

ビアンドの最終奥義を乗り切るには

それしかないと思うぞ!


……あとの事はアタシ達が何とかする!

魔王ビアンドとの最終戦だ!

出し惜しみせずにやってくれ!!」


(……良いぞサキ! 冷静な良い判断だ!

こういう時のお前は、本当に頼りになる!!

お前が仲間で良かった!)


俺は、サキの言葉に勇気を貰い、

覚悟を決める。


……そして、もう一度ユナの方を見たが、

ユナは切ない表情を俺に向けて

必死に首を横に振る。


(……サキちゃん! 違うのっ!!

ホーリーサクリファイスを撃ったら……

僧侶様は瀕死では済まないの!!


……僧侶様は!


……死んじゃうんだよ!!)


「……あぁっ、うぅっ!

……僧侶様っ!! ……ダメーッ!!」


ユナは泣きながら、苦しみながら……、

俺の袖を強く握って必死に否定した。

しかし、俺は予想通り、かつ期待通りの

サキの言葉に乗った。


「……サキ! ありがとなっ!

俺はこの状況を乗り切るのに

全ての力を使う!


サキ、ユナ、ユウト!


……後の事は任せたぞ!!」


(……なつ!? テルアキさん!?)


俺が皆に叫んだ言葉……。


『後の事は任せたぞ』


これはユウトと決めておいた合言葉だ。

俺が自分の生命を掛けて

ホーリーサクリファイスを

撃つと決めた時、

その意思をユウトに伝える為の合図だった。


……俺の言葉に

ユウトは下を向いて悶えている……。


(……テルアキさん!

僕はっ……、僕はっ!!


すみません! あの時!

僕がビアンドの首を落としていればっ!)


ユウトはビアンドが最終奥義を放つ前、

あと少しの所でビアンドを

仕留められたかった事に後悔した。


そして今の状況を理解し

このまま何もしなければ、

テルアキ、ユナ、サキが

魔王が放つ最終奥義でやられてしまう……

という事が分かっていた。


ユウトはテルアキの提案に

乗らざるを得なかった。

ユウトは心を痛めながら……、

テルアキに返事をする。


(……くっ!! ……テルアキさん!!)


「……分かりました! テルアキさん!!

後の事は……僕達に任せてください!!」


──俺はユウトの言葉に感謝し、

最後の決意をするのであった。


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