第78話 激戦

──ビアンドの口から語られた真実に

ユナとサキはショックを受けている。


「……10年前の討伐作戦に

そんな真実が隠されていたなんて!」


「……くっ!

何だか、とても嫌な気分だ!

アタシ達は今まで沢山の魔物を

退治してきたが、

これで本当に良かったのか!?」


……ビアンドが話を続ける。


「……事の発端は10年前に行われた

人間共による竜族の皆殺し。


……だが、気にする事はない。

私も今、あの時の人間共と

同じ事をしているだけだ。

復讐と同胞の無念を晴らす為にな。


……ふふふ。

どうだ? 真実を知った気分は?

正しいと思っていた自分達が

諸悪の根源だったと知った気分は?


だが、もう止まらないぞ。

私は人間共を抹殺する。

初めにお前達が私達にしたように、

……私は人間共を皆殺しにするのだ!!」


ビアンドの口から告げられた真実に

怯むユナとサキであったが、

……ユウトは怯まなかった。


「ビアンド!

復讐は復讐を生む!


憎悪は連鎖のスパイラルに

入ったら止まらない!

それは分かっていたはずだ!


せっかく魔力を持って

生まれ変わったのなら……、

和平の道を考えなかったのか!?


竜の一族を魔力で蘇らせる道!

人間に罪を悔い改めさせて、

人間が討伐してまった竜を

供養させる道!  


より良い未来を作る方法を

考えなかったのか!?」


「……ふっ。伝説の勇者よ。

それは部外者の意見だ。


目の前で同胞が皆殺しにされて、

その張本人に対して……

『仲良くしてください』などと

お前は本当に言えるのか?」


「……くっ!

確かにそうかもしれないが……でもっ!」


「話は終わりだ、人間共。

さあ! 戦いを続けるぞ!

……私はお前達を殺す!

そして……人間共を皆殺しにするのだ!!」


結論を見出だすことのできない話に、

ユウト、サキ、ユナは戸惑っていた。


……そして俺は

この状況に危機感を感じていた。


(……まずいな。


ビアンドを倒す動機が

弱まってしまった……。


ビアンドに同情が湧いてしまった……。


皆、混乱している……。


……こういう時は頭を整理しないとっ!

問題の要因を見据えるんだ!

ここは……、過去、現在、未来を

分けて考えるんだ!


過去の過ちと向き合って……

今できる最善策を考えて……

より良い未来を作る事を考えるんだ!)


俺はビアンドに叫ぶ。


「ビアンド!

人間が過去に起こした罪とは

ちゃんと向き合う事を約束する!


そして今! やはり、

人間の脅威でしかないお前を倒す!


お前を倒した後の未来で!

俺達人間は……、より良い世界を

作っていくんだ!!」


(……えっ!? 僧侶様!?)


(……なっ!? テルアキっ!?)


(……っ!? テルアキさん!?)


……俺の言葉に

ユナ、サキ、ユウトはハッとする。


「馬鹿なっ! 僧侶よっ!

過去に起こした過ちと向き合う

……とは何をするのだ?

より良い世界を作る……とは何だ!?」


「ビアンド!

お前から語られた真実!

人間にとって都合の悪い真実!


まずは真実を国中の皆に知らせて

皆に反省させる!!


そして……、

この島に竜の慰霊碑を立てる!

人間が起こした罪の証拠を後世まで残して、

他の種族の命をむやみに奪う

……なんて事をさせないようにする!!」


「……なっ!? 何だと!?」


ビアンドは、


人間が侵した罪を認める……

殺された竜の同胞に配慮する……


という俺の発言に心が動いたようだ。

魔王ビアンドが誕生した

きっかけ、動機……、その根幹の部分を

くすぐられた様な感情を受けていた。


「……ぐぬぬ。僧侶よ。

お前は面白いことを言う。

だが! もう後戻りはできない!


……それにだ!


お前1人が我々の同胞をいつくしんだ所で

全ての人間がそうなる訳ではなかろう!?」


「……確かにそうだな、ビアンド。

でも、誰かが動かなければ何も変わらない。

たった1人、たった1人の変化が

大きな変化を生む事だってあるんだ!


俺は……、俺の想いは……、

いつか国中の皆に届くと信じる!!」


「……ふっ。良いだろう、僧侶よ。


お前の話を聞いても、

やはり私は変わらない。

僧侶よ……。お前も無駄な説得はやめろ。


……『勝てば正義』なのだろう?


ならば!

決着をつけるぞ!!

お前達が負ければ人間は抹殺される!

それだけの事だ!!」


「……分かったよ、ビアンド。

俺だって、お前を倒すことは

避けられない道だと感じている。


……だがお前は!


この国を平和にする為の最後の犠牲者だ!

恨むなよっ!? 未来の為に!

俺達は……、お前を倒すっ!!


……食らえっ!エアー!」


俺はビアンドに改めて宣戦布告し、

基本魔法エアーを唱えた。


……バシュッ!


鋭い空気の刃がビアンドの胴体に命中する。

しかし、基本魔法であるエアーは

ビアンドの胴体にかすり傷を

与える程度の威力だった。


(……よし! これで良い!

気持ちが劣勢に傾いた時は

一連の流れが攻撃で終わる事が重要だ!


……皆っ! 目を覚ましてくれ!

戦う気持ちをもう一度、

奮い起こしてくれ!!)


「ふん……、小賢しい。

たかが基本魔法。痛くも痒くもないわ!」


俺の攻撃は殆ど無効だったが、

ユウト、ユナ、サキの気持ちを

奮い起こすには十分な効果があった。


(……なっ!? テルアキさん!?

……そうだ! そうですよね!?

僕達がやるんだ!


過去の出来事は覆らない……。

今、僕達に出来る事!

……ビアンドを倒して、

まずは世界を平和にする事です!!)


「ぬおぉぉーーっ!」


ユウトが勇者の剣でビアンドに斬りかかる。


……バシッ!!


竜の姿に変貌し、

固い表皮とウロコで覆われた

ビアンドの身体にも

勇者の剣は的確にダメージを与える。


「……うぬっ! おのれ!」


ビアンドは鋭い爪でユウトに反撃をしたが、

ユウトは勇者の盾でその攻撃を受け止めた。


続いて、ユナが魔法を唱える。


「サキちゃん! もう一度いくよ!

マクススピード!!」


「ああ! わかった!

……はあぁーーっ!!」


ユナとサキは再び戦う意思を取り戻し、

攻撃を開始する。


「……ぐあぁっ!」


サキの弓矢と斬撃がビアンドの身体を襲い、

ダメージを与えるが、

竜になった巨大な身体には

致命傷とはならない……。


「僧侶様! ありがとう!!

ビアンドの話を聞いて

ちょっとだけ戸惑ったけど、

……決めた! 私も戦うよっ!」


「テルアキ! 済まなかったな!

お前の言う通りだ!

過去の償いはしっかりやるとして!

……今はこいつと戦おう!!」


戦う気持ちを取り戻したユナとサキを見て

ユウトも冷静に身構える。


(……テルアキさんっ!?

なんて凄い人だっ!?

あなたが仲間で良かった!


……ビアンドの話を聞いて、

僕も心に迷いが生まれたけど……でも!

テルアキさんは皆を奮い立たせてくれた!


ビアンドの事も想いながら……、

道を示してくれた!

僕も負けていられない!)


ユウトは再び勇者の剣で

ビアンドを攻撃する。


……この後、ビアンドと俺達4人の

激しい攻防が続いた。


ビアンドは激しい炎、上級魔法、

鋭い爪による攻撃……

強力な攻撃を幾度となく繰り返す。


俺達も防御をしながら、反撃を試みる。

……そして、ビアンドの動きが

一瞬、ひるんだ隙を見て

ユウトがビアンドに猛攻をしかける。


(……今だっ! ユウト! 頼むぞ!)


ビアンドが怯んだ千載一遇のチャンスに

俺は飛びかかるユウトに補助魔法をかけた。


「ユウト! 行ってくれ!

マクススピード!!」


ユウトの身体は黄金色に輝き、

格段に上がった素早さで無数の斬撃を

ビアンドに叩き込んだ。


………ババババッ!!


ビアンドの身体を覆う固い表皮も

勇者の剣による高速の攻撃の前では

深い傷を負う……。


俺はその状況変化を見逃さなかった。


(……あれはっ!?

表皮が切り開かれた!?

今がチャンスだ!


固い表皮の内側に攻撃できたら

大ダメージを与えられる!


ここで、エアーとスピード、

魔法の同時撃ちをやるかっ!?

消耗が激しいのは避けたいが……。


……いや、待てっ!


俺には頼りになる仲間が

居るじゃないか!?


……そう!


ずっと俺と一緒に旅をしてくれた

大切な仲間がっ!!)


俺は自分ができる最大攻撃、

マクスエアーとマクススピードの

同時撃ちを試みる。

しかし、1人では撃たない……。


「……ユナッ!

マクススピードを手の上で作れるか!?」


「……えっ!? 僧侶様!?

それって門番を倒した時のヤツ!?」


「そうだ!

……1人で魔法の同時撃ちは

消耗が激しいから今は避けたい!

ユナッ! お前が頼りだ! ……頼む!!」


「……分かったよ、僧侶様!!

マクススピード!!」


ユナは両手を自分の前に掲げ、

マクススピードの魔法効果の塊を作った。


「よし! 良いぞ!」


俺はユナの隣に駆け寄る。

そして、俺とユナ、

2人で目を合わせて強く頷く……。


(……いくぞ! ユナ!)

(……うん! 僧侶様!!)


「……さあ!

俺とユナのとっておきを見せてやる!

マクスエアー!!」


……ババババッ!!


ユナが唱えるマクススピードに

俺が唱えるマクスエアーが重なると、

大きな空気の刃は目にも止まらぬ速さで

ビアンドの傷口に命中した。


その傷口はさらに深くなり、

ビアンドを苦しめる。


「……ぐぬっ!! がはっ!!」


魔王が苦しむその瞬間を、

サキも見逃さない。


「……ユウト! 基本魔法で良い!

アタシにスピードをくれ!


その後に、ユナはファイアだ!

テルアキは物理防御で

ビアンドを覆ってくれ!


……炸裂弾でビアンドを爆発させる!!」


「……えっ!? サキさん!?

わ、分かりました!スピード!」


ユウトが唱えるスピードで

サキの素早さが上がる。


「……よし!

四天王プーレを倒したコイツをっ!

お前にもお見舞いしてやる!!」


サキは短剣をビアンドの

傷口に深く差し込み、

残っていた強化型炸裂弾2個を

ビアンドの腹部に埋め込む。


「いいぞっ!

ユナ! テルアキ! ……頼むっ!」


「いくよ! マクスファイア!!」


「マクスプロテクトウォール!」


ユナが唱える炎の魔法が

ビアンドの腹部に埋められた

強化型炸裂弾に引火し、

分厚い物理防御の壁の中で

大爆発を巻き起こす。


……ドーーーンッ!!


周囲が激しい轟音と地響きに包まれ、

ビアンドの叫び声がこだまする。


「……がはっ!! ぐ、ぐあぁーーっ!!」


──こうして、俺達の連携攻撃は

ビアンドに大ダメージを与えたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る