第77話 発端

──俺達は連携技による

全力攻撃を始めた。


「ビアンド!

人間は1人だけの力で戦うんじゃない!

皆の力を1つに合わせて

こんな攻撃も出来るんだ!」


……ユナっ! いくぞ!

マクスマジックウォール!!」


(……僧侶様っ!

私達が出会った頃に

2人で作ったこの思い出の連携技!

最終戦でもきっと役に立つよね!)


「喰らいなさい!

『炎の丸焦げオーブン焼き! 強火!!』


……マクスファイア!!」


俺が作ったビアンドを覆う

ドーム型の分厚い魔法防御の壁の中で

ユナが放つ上級魔法の炎が激しく渦を巻く。


……ゴゴゴゴゴーーッ!!


「ぐわぁーっ!

な、何だと!? この威力は一体っ!?」


激しい炎がビアンドを焼き尽くした後、

俺はサキに魔法をかける。


「次はサキだ! マクススピード!!」


スピードの上級魔法の効果で

サキの身体は黄金色に輝き、

素早さが格段に上がる。


(……テルアキ、ユナ。

お前達と初めて会ったあの日、

この連携技でセップさんの山小屋を

守ることが出来たんだよな!


セップさん! 山小屋の皆っ!

恥ずかしいから技の名前は言わないけど、

……アタシもやるぞ!


『ちょこまか蜂の巣アロー』!

『めっちゃり』!  )


サキは技の名前を心の中で叫び、

超高速で移動しながら弓矢による射撃、

そして無数の斬撃を叩き込む。


「ぐあぁっ!!」


ビアンドはサキの素早さに反応できず、

攻撃をまともに喰らった。


「やった! サキちゃん! 効いてるよ!」


攻撃を終え、タンッ……と

ユナの隣に戻るサキに

ユナはある疑問を投げかけた。


「……あ! サキちゃん!?」


「……うん? どうした? ユナ?」


「攻撃の前にっ!

技の名前を叫んでないよっ!?」


「……なっ!? ユナ!

今それ、どうでもいいわっ!

つか、単に技の名前が恥ずかしいだけだ!」


「ええっ!? そうなのサキちゃん!?」


……口論を始めようとしていた

サキとユナだったが、

攻撃を受けて怯むビアンドを見て

ユウトが攻撃を続ける。


(……テルアキさん!

サキさん! ユナさん!凄いです!

……これがずっと一緒に

旅をしてきた皆さんの連携の力!


……皆さんの思いが!

僕に勇気を与えてくれます!!)


ユウトは勇者の剣を力強く握りしめると、

その刀身は白く輝き始めた。


「ビアンド!

皆の攻撃が! 皆の想いが!

……僕に力を与えてくれる!


これが勇者の力だ!

喰らえ! メガスラッシュ!!」


ユウトが振りかぶる勇者の剣から

巨大な閃光が発生し、

ビアンドを飲み込んだ。


「ぐ、ぐあぁぁっーー!!」


その光景に、ユナ、サキは勝利を期待し、

俺は期待しつつも冷静に様子を伺った。


「やった! ビアンドに

ゆうたんの必殺技がキマったよ!」


「ああ! 勇者の剣でやったんだ!

これでビアンドも終わりだ!」


(……確かに、

勇者の剣による必殺技で攻撃がキマった。

でも、こんなモノか?

……これで終わってくれたら有り難いが。)


「ぐはっ!

……おのれ、人間ども! 勇者ども!

まさかここまでの力を持つとはっ!?」


勇者の剣から発した閃光が消えると、

苦しむビアンドが姿を現した。

その状況にユウトは驚く。


「……なっ!?

メガスラッシュの攻撃を耐え抜いた!?」


「……驚くな、勇者よ。

確かに強力な技であったが、

私を倒すには及ばないようだな。

しかし、この姿では

お前達と戦うにはいささか力不足の様だ。


……そろそろ、こちらも本気でゆくぞ」


(……何っ!?

これまでは様子見だとは思っていたが、

やはりまだ力を隠していたか!?


魔王ビアンド第2形態!?

……一体どんな力を持っているんだ!?)


すると、ビアンドは

纏(まと)っていたローブを脱ぎ、

集中しながら力を込めはじめた。


「うぬぬぬっ……!!」


周囲の空気が張り詰め、

重たくなっていく……。


……ゴゴゴゴゴッ!


ビアンドは次第にその姿を変えていく。

人型の様な姿から巨大化し

太い胴回り、鋭い爪と牙、大きな翼、

……と身体が変貌して行く。


(……なっ!? あれは、竜かっ!?)


ビアンドは巨大な竜の姿に変形した。


……ドスンッ! ドスンッ!


1歩1歩進む重い足音が

大広間に響く……。


「ふぅ……。この姿になるのは、

魔王と呼ばれる様になってから初めてだな。


人間共、この姿では手加減はできない。

覚悟するんだなっ!!

……まずはこれを食らえっ!!」


ビアンドはそう叫ぶと、

俺達4人に向けて

口から激しい炎を吐き出した。


……俺は咄嗟にユナに指示を出す。


「ユナ! 全体魔法防御だ! 早く!!」


「えっ!? は、はい! 僧侶様!

……オールマジックウォール!」


そして、俺もすかさず魔法を唱える。


「オールプロテクトウォール!!」


(……くっ! 口から吐く炎の攻撃!?

魔力か!? 熱か!?

どっちで防御すれば良いんだ!?)


魔力の炎であれば

魔法防御で防ぐことが出来る。


物理現象の高温であれば

物理防御の方が有効だ。


ビアンドの口から発生した炎が

魔力によるものか?

体内で作り出された高温によるものか?


どちらか分からなかった俺は

ユナの力を借りて

物理と魔法、両方の防御の壁で

その攻撃を防ぐことを試みた。


……ゴオォーーッ!!


激しい炎が俺達4人を襲う。

目の前に出された防御の壁を確認する。


……すると、

魔法防御の壁は薄れず維持されているが、

物理防御の壁はじわじわと

薄れているのが分かる……。


2種類の防御の壁に守られながら、

ユナとユウトが驚く。


(……僧侶様、凄いっ!?

ビアンドの口から出た炎が

魔力によるモノじゃないかも!?

……ってあの一瞬で疑ったの!?)


(……テルアキさん!

なんて早い判断なんだ!?


炎と言えば魔法! っていう

先入観なんか全く持ってない!?

その冷静さ、……流石です!!)


炎を吐き終えたビアンドが口を開く。


「ほぅ……僧侶。良く考えたな。

察しの通り、俺は本物の竜だ。

魔力の力を使わずとも

この炎や鋭い爪と牙で攻撃できる。


……勿論、魔法も使えるがなっ!

オールファイア!!」


……ゴゴゴッ!


ビアンドが唱えた炎の全体魔法で

俺達の前に出されていた

魔法防御の壁も打ち消された。


(……くっ! なんて威力の魔法だ!?

全体魔法でこれだと、

上級魔法はもっと強力だな!?)


ビアンドの攻撃を防ぎ

竜の姿となったその様子を見て、

ユナとサキが驚きを隠せない様子で

目を見開いている。


「ユナ! サキ! ……どうかしたのか!?」


「まさかっ!? ……竜!? 本物っ!?」


「あ、ああ……。

これは、本物の竜だっ!?」


ユナとサキは竜に変形したビアンドの姿に

異常な反応を示している。

一方、俺とユウトは

2人の様子に疑問を感じていた。


「ユナさん! サキさん!

……一体どうしたって言うんですか!?」


ユナがユウトに答える前に

ビアンドが口を開く。


「伝説の勇者よ。

この世界の人間ではないお前達が

知らないのも無理はないな……」


「……何っ!?

ビアンド! どういうことだ!?」


「この国の者なら全員知っている。

そう、あれは10年前の出来事だ……」


──ビアンドは10年前、

この国で起きた事件について話し始めた。


「元々、私達竜の一族は

このキュイール島で静かに暮らしていた。

魚や野鳥、島に住む生物等を補食してな。


しかし、ふとした事から

海を渡って人間共が住む大陸に渡った

1体の竜がいた。……それが私だ。

海の向こうの大陸を見てみたかった。

……それだけの理由だった。


だが、その時だ。

お前達がラグー遺跡と呼ぶ森の辺りで

人間が野生動物に

襲われているのを発見した。


私は襲われていた人間には構わず、

いつも通りに野生動物を

獲物として狩り、島に持ち帰った。

人間に危害など加えたりしていない。


……だが!!

その後、人間共が私達一族に

何をしたと思うかっ?」


ここまで冷静に話していた

ビアンドの雰囲気が一転し、

怒りと復讐のまがまがしい雰囲気に

変貌してゆく……。


ビアンドは話を続ける。


「結果として私に救われたはずの人間は、

あろう事か、


『凶悪な竜に襲われた!』


と国の兵士達に訴えたそうではないか!?

私は人間などに興味はなかった!

危害を加えるなど微塵も思わなかった!」


ここまでビアンドの話を聞き、

ユナとサキが驚く。


「……ええっ!? そうだったの!?

私達はっ! 国からのお達しで


『キュイール島に住む竜は

人間に危害を加える危険な生物だから

討伐作戦を実施した』


って聞いているよっ!」


「……そうだ!

10年前の竜討伐作戦!

この国の人間なら皆知っている!

凶悪な竜と戦って

兵士達にも沢山犠牲者が出たって!」


ユナとサキの反応にビアンドが薄ら笑い、

……そして怒りの感情をあらわにする。


「……ふっ。

つくづく人間というのはめでたいな。

与えられた情報を鵜呑みにして

都合の悪いことには目を向けず……、


自分達は正しい!


自分達は正義だ!


と言い張るのだからな。


……だが! これが真実だ!


人間を襲っていないのに!

危害など加えていないのに!

私達は一方的に人間の

兵士達に攻撃を受けた!


我々もやむなく反抗を試みたが、

数で圧倒する人間の兵士達に

1体、また1体……と同胞は命を奪われ、

そして最後に残ったのが私だ。


……私は後悔した。

たった1度! ……たった1度だ!


海を渡った事で……

人間の前で狩りをした事で……

同胞全ての命が奪われたんだ!!


そして私は人間共に憎しみを覚えながら

兵士達に命を奪われた。

死んだはずだった……。


だが、気付くと私は人間の様な姿になり、

魔力と瘴気しょうきを扱えるようになっていた。


……私は感謝したぞ。


……そして決意した。


これは同胞の無念を晴らす機会が

私に与えられたのだと!

人間への憎しみが! 復讐の怨念が!

私に再び生命を与えたのだと!」


──こうしてビアンドの口から

魔王ビアンド誕生の経緯と

歴史の真実が語られるのであった……。

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