第76話 魔王ビアンド

──サキとユナよりも先に

四天王との戦いを終えた俺とユウトは

元の部屋でサキとユナの帰りを待っていた。


(……サキ、ユナ! 無事で居てくれよ!)


サキとユナを心配しながら、

□の扉を見つめていると

地響きと共に大きな爆音が聞こえた。


……ドーーーーーンッ!!


大きな地響きと爆音に

ユウトが不安げに声を上げる。


「テルアキさん! ……今の爆発は一体!?

サキさんとユナさんの

部屋からでしょうかっ!?」


「あ、ああ……。その様だな」


……その後、暫くすると□の扉が開き、

ススホコリで真っ黒に汚れたサキとユナが現れた。


「……良かった!

サキさん! ユナさん!

……無事だったんですね!!」


笑顔を見せるユウトの明るい声に

ユナは駆け寄り、しがみついた。


「うわぁーん! ゆうたん!!

怖かったよぉー!!」


その様子を見て俺は安心する。


(……良かった。ユナは元気そうだな。

でも、2人共埃まみれに

なっているのが気になるが……?)


俺は、黙って何かを言いたそうに

扉の前で立っているサキに声をかけた……。


「サキ! 無事か!?

大きな爆音が聞こえたから心配したぞ!?」


その言葉を聞いて、

サキはグッと俺を睨みつけた。

……そして、勢い良く走って俺に駆け寄り

俺の首元を掴んで

激しく前後に揺らしながら叫ぶ。


「おおぃっ!! テルアキ!!

お前っ! どんだけ危険なアイテムを

渡してくれてるんだっ!?


……おかげで死ぬトコだったぞ!!

敵の四天王にじゃなくて!

仲間に貰ったアイテムで

死ぬトコだったわっ!!


謝れーーっ!!

真剣に謝れーーっ!!」


「どわわっ! ちょっ! 待て、サキ!

まずは手を離せ!

一体何があったんだよ!?」


「何があったか? ……だとっ!?

お前がくれた強化型炸裂弾だよっ!!

とんでもない大爆発に

巻き込まれたわっ!!」


(……なっ!?

そんなに強力だったのか!?

道具屋のオヤジさんは

そんな事言ってなかったのに!


……でもそれっ!

俺は悪くないんじゃないかっ!?)


正直、サキに渡したアイテムの

威力と使い方について

自分の責任は感じなかったのだが、


ユウトにしがみついて泣き叫ぶユナ、

俺の首を掴んでブンブン振り回す

サキの前では謝らざるを得なかった……。


「そ、それは済まなかったな。

道具屋のオヤジさんに

詳しく聞いとくべきだったよ」


「ふんっ! 分かれば良いんだ。

全く! お前はいつも

そういう所がだなぁっ……!」


愚痴を続けようとするサキを落ち着かせ、

皆で最高級回復薬を飲み、

体力を回復させる。


そして、それぞれが手に入れた

○、△、□の鍵を

最後の扉に当てはめる……。


……ズズズッ


大きな扉がゆっくりと、重々しく開く。


「いよいよですね、皆さん。

準備は良いですか? 行きますよ!!」


ユウトのかけ声と共に、

扉の先へ進んで行く。

扉の先は幅の広い回廊となっていた。


……1本道の回廊をしばらく進むと

大広間にたどり着く。


王が鎮座する謁見の間の様な大広間だ。

そしてその中央に

王座の様な大きな椅子があり、

不気味な雰囲気を醸し出す者が1人居る。


(……あれはっ!?)


俺達4人は警戒を強める。


「ついにここまで来たか……。

伝説の勇者とその仲間達」


その者が重々しい声と共に立ち上がる。

全長3m程、ローブを纏っており

先端に珠が付いた杖の様な

武器を持っている。


見た目は大柄の人間……と言った感じだが、

四天王とは比較にならない

威圧感と恐怖を感じる相手だ。


その雰囲気に怖じけつきそうになるが

ユウトは声を振り絞る……。


「お前が魔王ビアンドか!?」


……ゆっくりと俺達の方に

歩みを進めながら、その者は答えた。


「いかにも……。私が魔王ビアンド。

全ての人間を抹殺し、

この世界を魔物で覆い尽くす者だ」


(……魔王ビアンドっ!?

こいつがっ!?)


ユウトがビアンドに言葉を反す。

暫く伝説の勇者ユウトと

魔王ビアンドのやり取りが続く。


「全ての人間を抹殺なんて!

……そんな事はさせないっ!

僕達はお前を倒して、

この世界に平和を取り戻すんだ!!」


「……ふっ。私の可愛い魔物達を

無差別に抹殺してきた人間が言うのか?

私にすれば、世界を殺戮の恐怖に

陥れているのは人間共だぞ」


「そんな事はない!

人間は、危害を加えない相手に

攻撃なんてしない!


……お前が!

魔物達が人間を襲って来たのが

この戦いの始まりだ!


人間を襲う魔物!

……その元凶である魔王ビアンド!

お前が存在する限り

この世界は平和にならない!


だから今ここで!

僕達はお前を倒す!!」


「……ふぅ。

どうやら問答では理解できぬ様だな。


『勝てば正義』という言葉があるが、

……その言葉を生み出した

人間らしい理屈だ。


良いだろう……。

勝った方が正義だと言うのなら


まずはお前達を抹殺し……


城の外で戦う人間共を抹殺し……


国中の人間共を抹殺し……


私が絶対の正義となろう!!


……さぁ! 始めるぞ!!」


魔王の言葉に、俺達4人は身構える。


(……魔王ビアンド!

どんな攻撃をしかけてくるんだ!?

武器? 魔法? 格闘? それとも特殊能力!?


俺達の構成は……


勇者であるユウト、

攻撃魔法が得意なユナ、

素早い攻撃で撹乱できるサキ、

僧侶である俺。


主攻撃は皆に任せて……

俺は補助職として皆を守る!

この最終戦を補助職として支えてみせる!)


俺は魔王ビアンドとの

最終戦における自分の役割を意識し、

集中して戦いに備える……。


まずはビアンドが先制の攻撃をする。


「オールファイア!!」


(……全体魔法っ!? これは想定内だ!)


「オールマジックウォール!」


俺は素早く全体防御魔法で反応した。

その反応に、サキとユナが驚く。


(……僧侶様っ、反応が早いっ!?)


(……テルアキッ!?

良い反応だ! 気合い入ってるな!?)


俺は皆が攻撃に集中できるように

指示を出す。


「ユウト、サキ、ユナ!

防御や補助は俺がメインでやる!

皆は攻撃に集中してくれ!」


「分かりました! テルアキさん!

……はぁぁっ!!」


俺への返事と同時に、

ユウトが勇者の剣でビアンドに斬り込む。


「プロテクトウォール!

……っ!? ぐぬっ!? 何だとっ!?」


ビアンドは自分の魔力と魔法の威力に

自信があったのか?

基本魔法で物理防御の壁を出して

ユウトの攻撃を防ごうとした。


しかし、

予想以上のユウトの攻撃威力に

物理防御の壁は破壊され、

ビアンドの身体にダメージを与えた。


そして、ビアンドが怯んだ隙に

サキは素早く矢を数本放ち、

ユナは攻撃魔法を唱える。


……ビュンッ! ビュンッ!!

……マクスファイア!!


「……ぬぬっ!」


サキの弓矢による攻撃、

ユナの魔法による攻撃、

どちらもビアンドに

ダメージを与えることに成功した様だ。


(……よし! 良いぞ! 攻撃が効いてる!

初手としては上々だ!


通常攻撃が全く効かない様な

強力な相手かもしれない!?

……とも想像していたが、

これは歓迎すべき状況だ!)


俺は状況を観察、分析しながら様子を見る。


ビアンドはユウト、サキ、ユナの攻撃が

予想以上に強力だったことに驚き、

反撃せずに回復魔法を唱えた。


「マクスヒール!!」


ビアンドの身体は怪しい光に包まれ、

受けたダメージが回復する。


「……ふふ。流石にここまで

たどり着くだけの事はあるな。


だが、勇者の剣と

魔女の上級魔法の攻撃でこの程度では

まだまだ私を倒す事など到底叶わぬぞ!」


ビアンドがゆっくりと話し始めた

……その時!!


「はあぁっー!!」


……バシュッ!!


「何っ!? ……いつの間に!

ぐあっ!!」


サキは高速で飛び掛かり、

ビアンドの額に短剣で斬撃を叩き込んだ。


……ビアンドの額から血飛沫ちしぶきが上がる。


サキは短剣を

ビアンドに真っすぐ向けて言う。


「おい、ビアンド!

ユウトとユナだけじゃないぞ!

……アタシもいるんだ!


勇者の剣と魔法攻撃だけを警戒していたら、

その隙にアタシがお前を八つ裂きにするぞ!」


サキが高速で攻撃をキメたことに、

俺はまた良い判断材料を1つ得る……。


(……良いぞ、サキ!

ビアンドはサキの素早さに対応できない!

これなら、連携技を使えば

大ダメージを与えられそうだ!)


暫くはビアンドと俺達4人の

通常攻撃による攻防が続いた。

互いにダメージを受ければ回復し、

MPを消耗するだけの戦いが続く。


進展しない状況に、

俺は次の作戦を考える……。


(……このままではラチが開かないな。

ビアンドがMP切れに

なるとは思えない……。


俺達は最高級回復薬を

十分持っていいるが、

只の消耗戦はやはり避けたい……。


そろそろ連携技で

本気の攻撃を始めないとっ!)


「……皆! このままじゃダメだ!

連携技でいくぞ! 俺が補助するから、

……ユナ! サキ! 続いてくれ!」


俺の言葉にユナとサキが身構える。


「オッケー、僧侶様!

いつでもいいよ!」


「分かった!

ユナの後にアタシもいく!」


俺は魔法を唱える前に

ビアンドに向かって叫ぶ。


「ビアンド!

人間は1人だけの力で戦うんじゃない!

皆の力を1つに合わせて

こんな攻撃も出来るんだ!」


──ここから俺達の連携技による

全力の攻撃が始まる……。

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