第74話 四天王VSサキ、ユナ(中編)

──サキとユナは四天王プーレと

戦いを繰り広げている。


「プーりん! あなたの再生能力!

実は魔法攻撃しか

対応してないんじゃないの!?

サキちゃんが最初に矢を撃った時!

槍で弾いてたしっ!!」


(……なっ、ユナ!?

お前、そんな事を思いつくのか!?

……そうだな。 アタシも!

ユナを見習って冷静に戦わないと!)


ユナの冷静な言葉に、

サキも落ち着きを取り戻し、

状況を見極めようと考え始める。


ユナの言葉に動きを止めるプーレとサキ。


「ふむ、その疑問は正しいな。

戦いに活路を見出だそうと

思考するその姿勢……、悪くないぞ。


だが、残念だったな。

物理攻撃でも俺の身体は再生する。


……証拠を見せよう。おい! 盗賊女!

試しに俺の腕に矢を一本撃ってみろ」


プーレはそう言いながら、

右腕をまっすぐ伸ばした。


「なっ!? 良いのか?

……本当に当てるぞ!?」


「……構わぬ。矢の1本程度、

当たってもすぐに再生するからな。


それよりもお前達に

絶望を与える効果の方が大きい。

……さあ、早く撃て」


プーレの言葉に、

サキはゆっくりと弓矢を構える。


(……ここはひとまず時間稼ぎだ。

落ち着け……。ユナが冷静に戦ってるんだ。

アタシも落ち着いて戦わないと!


でも……、こんな事ならこっそり毒矢とか

仕込んでおいたら良かったな。


物理ダメージはすぐに再生されても、

毒とか身体の内部からのダメージなら

致命傷になったかも知れないのに!?)


なかなか矢を撃とうとしないサキに

プーレが痺れを切らす……。


「おい、早くしろ!

……うん? というか、……お前、今?


『こっそり毒矢とか

撃っちゃおうかなっ!?』


などと思ったりしてないだろうなっ!?」


「なっ! べ、別にアタシはっ!?

そんな卑怯な事、考えたりしてないぞっ!?」


プーレに内心を見抜かれ、

思わず大声を出してしまったサキの態度に

ユナが驚く。


「……ええっ!? サキちゃん!?

プーりんが好意でやってくれてるのに!

……そんな事考えてたのっ!?」


「ち、違うぞ、ユナッ!

……ええぃ! これでも喰らえっ!」


……バシュッ!


サキが放った矢がプーレの腕に突き刺さる。

プーレは腕に刺さった矢を抜き取り、

サキとユナに傷痕を見せる。


その傷跡は、

ユナの魔法攻撃を受けた後と同様に

見る見る再生していく……。


「どうだ、見たか? 魔女よ。

良い分析であったが、残念だったな。

並の人間が放つ外側からの攻撃では

俺を倒すことなど不可能だ!」


プーレの再生能力を見せつけられ、

ユナとサキは緊張感を持ちながら身構えた。

そして、2人は次の作戦を

冷静に考え始める……。


(……プーりんは今、


『並の人間が放つ外側からの攻撃』


って言った!? ……なら!

並じゃない威力の攻撃なら

プーりんを倒せるかもしれない!?

サキちゃん! 次はアレをやるよっ!)


(……うん? あいつ、今、


『並の人間が放つ外側からの攻撃』


って言ったか!? ……って事は!

身体の内側からダメージを与えられたら、

倒せるかもしれないっ!?


テルアキ、お前が昨日くれたアレ!

役に立つかもしれないぞ!)


各々作戦を思いついた

サキとユナであったが、

まずはユナがサキに提案をする。


「サキちゃん!

プーりんが再生するなら、

再生速度を上回る大ダメージを

与えれば良いんだよっ!


サキちゃんにスピードかけるから、

……アレをやってみるよ!!」


(……ユナッ?

スピードをかけてやるアレって、


『ちょこまか蜂の巣アロー』

『 めっちゃり』


の事かっ!?

技の名前は恥ずかしいが、

確かに、正攻法ならそれしかないな!)


「よし! 良いぞユナ!」


「オッケー! 行くよサキちゃん!」


2人が同時に身構えて攻撃体勢を取る様子に

プーレも警戒する。


「……何だ? たかが人間風情が。

俺の再生能力を上回る攻撃を繰り出すことが

出来るとでも言うのか?

面白い! ならばやって見せよ!」


プーレは両手を前に組み、

防御体勢を取る……。


「プーりん! 余裕なのもうちだよ!

私とサキちゃんの連携技は

強力なんだからねっ!


……その名も!!


『ちょこまか蜂の巣アロー』!

『めっちゃり』! 」


技の名前を叫び、

人差し指をプーレに向けて胸を張って

ドヤ顔を決めるユナであったが、

サキとプーレは一瞬、硬直し、

そして戸惑った……。


(……くっ! 強力な技なのに!

ユナ! やっぱり名前がダサいぞっ!?)


(……なっ! 何なんだ?

その頭が悪そうな技の名前はっ!?


しかも魔女の奴!

スピードをかけるとか言っていたし、

技の名前を聞くだけで

技の概要が丸分かりだぞっ!?


……こいつら、馬鹿なのかっ!?)


戸惑うプーレとサキを見て、

ユナも同時に戸惑う。


(……あれ?

私、何か変なこと言っちゃった!?

プーりんもサキちゃんも

何で目を丸くして私を見てるのっ!?)


…………。


ひと時の沈黙とこう着が

3人の間に流れる。


「ええぃ! ユナッ!

プーレの反応に構うな!

スピードをくれ! やってやるぞ!!」


「うん! 何で一瞬時が止まったのかは

分からないけど、いくよサキちゃん!

……マクススピード!!」


ユナがマクススピードを唱えると、

サキの身体が黄金色に輝き始めた。


上級魔法の効果で

サキの素早さは格段に上昇し、

超高速でプーレの周囲を移動しながら

多方向から矢を放った。


……それはまるで複数の異なる場所から

同時に一斉射撃をしたような攻撃となり、

多数の矢がプーレの身体に突き刺さる。


「……まだだっ!」


サキは矢を撃ち終わると短剣を抜き、

そのまま超高速でプーレに斬りかかる。


……ババババッ!


「グヌッ!!」


一瞬で多数の斬撃が

プーレの身体に叩き込まれ、

プーレが思わずうめき声をあげる。


攻撃を終えた2人はプーレの様子を伺う。

プーレがかなりのダメージを

受けていることは間違いない。


「……どうだ!?

アタシ達の連携技! 効いたかっ!?」


……期待を込めて叫んだサキだったが、

プーレの様子と声は落ち着いていた。


「……ふふ。

これが兄貴を追い詰めた人間の力か。

確かに強力な攻撃だ。


HPが多い兄貴でも、

回復魔法が間に合わなければ

負けを認めるのも無理はないな……」


防御体勢を維持しながら話す

プーレの身体は、見る見る内に回復し

そして攻撃前の状態に戻ってしまった。


「だが、俺を倒すには

今一歩力が及ばないようだな……。

見ろ、すっかり回復したぞ」


……その光景にサキとユナは驚愕した。


「な、なんてヤツだ!?

アタシ達の最強攻撃を

防御して再生した!?」


「そんな!

この連携技でも倒せないなんて!」


「これで終わりか!?

ならばさっさと諦めるんだな!

さぁ、兄貴の仇! 取らせてもらうぞ!」


プーレは翼を使って

素早くサキとユナに近づき

巨大な槍でなぎ払う。


……ブウォーンッ!!


「……どわっ!?」


サキは咄嗟にユナを抱えて横に飛んで

プーレの攻撃を回避したが、

槍の先端がサキの身体をかすめ、

サキは負傷した。


「サキちゃん!? 大丈夫!?」


「ああ!

こんなのかすり傷だ! 問題ない!」


「……でもどうする、サキちゃん?

連携技でも倒せないとなると、

私達の攻撃じゃぁ、もうダメかも!?」


「大丈夫だユナ。

アタシも試したいことがあるんだ」


すると、サキはユナの首を掴み、

耳元で小声で話ながら

思い付いた作戦を伝えた。


(……うん? 何だ? こいつら?

まだ何か作戦があるのか?

一体何をするのか? 興味はある。

……少し待ってやるか。)


プーレはサキとユナが次の行動を

取るまで待つことにした。


(……良いか、ユナ?

昨日、テルアキから護身用と言って

強化型炸裂弾を貰っただろ?


コイツをプーレの体内に埋め込んで、

体内で爆発させたら効くんじゃないか?)


(……サキちゃん!?

それは思いつかなかったよ!

うん! やってみよう!


……でも、どうやって強化型炸裂弾を

プーりんの体内に埋めるの?)


(先の攻撃でプーレの身体を

斬って分かったんだが、

アタシの短剣でもプーレの身体を

傷つけることは出来る。


ユナはプーレの再生能力が遅くなる様に

何かうまくやれないか?)


(それなら……、

ブリザードで凍らせてから、

一気にファイアで燃やしちゃえば

良いと思うよ!


……どんな物質でも、

超低温から超高温に急激に温度変化したら

物質を破壊する大ダメージになる!

……って修行中に

エルレさんから習ったよ!)


(……何っ!?

そんな便利な魔法の使い方があるのか?)


(うん! 魔法の研究補助をしてた時に……、

冷たいガラスの試験管に

間違えて熱々の液体を入れたら、

試験管が割れちゃったんだ。


理由を先生のエルレさんに聞いたら、

物質は『熱膨張』……っていうのの関係で

急激な温度変化に堪えられないと

壊れちゃうんだって!)


(……そうか! 理屈は難しそうだが、

なら、まずはプーレの右腕で試そう!

アタシは、まず普通の炸裂弾を

プーレの腕の中に埋めてみる!)


(オッケー! じゃぁ私は、

ブリザード、ファイア、スピードの順で

魔法を唱えるね!)


……作戦を確認し、

サキとユナが身構える。


──ここから、サキとユナの

最後の攻撃が始まるのであった……。

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