第73話 四天王VSサキ、ユナ(前編)

── □の扉を通ったサキとユナは

やはり闘技場の様な部屋に移動していた。


「闘技場みたいな所だな。

好きなだけ戦って下さい!って事か?」


「サキちゃん、あそこ!

大きな魔物が居る!」


警戒しながら進むサキとユナの前に

鳥型の頭をした戦士の様な魔物が現れた。

背中には翼が生え、

その手には大きな槍を持っている。


「俺の名はプーレ!

ビアンド様をお守りする四天王の1人だ!」


(……やっぱり四天王が

待ち構えていたかっ!?)


背中に翼、手に大きな槍を持つ

その容姿にサキが警戒する。


「飛行状態からあの槍で

攻撃されたら厄介だな……。

ユナ、奴の機動性に気をつけるぞ!」


「そうだね、サキちゃん!

でも翼を持ってると、

何だかダンちゃんを思い出すね」


「……確かに、ダンドの攻撃パターンは

参考になりそうだな」


……ユナが思い出したのは

勇者の盾を奪還する為に

ラグー遺跡で戦った四天王の1人だ。


2人の会話にプーレが反応する。


「お前達、

ダンドの兄貴を知っているのか?」


不可解な様子で質問するプーレに

ユナが答える。


「うん、知ってるよ。

私達はダンちゃんを倒して、

勇者の盾を取り返したんだから!


でも……、あれ? 兄貴ってことは

ダンちゃんの弟なのっ!?」


「ふっ……、

ダンドの兄貴と俺に血の繋がりは無いが、

同じ鳥型の四天王として良い関係であった。


そう言えば、

あれは100日以上前になるが、

ラグー遺跡で兄貴と話した時に

こんな事を言っていたな……」


プーレはダンドとの会話を回想する……。


『プーレよ。

今日も性懲りもなく人間共が

勇者の盾を奪還だ! と

この遺跡に乗り込んできたぞ』


「人間共……、

相変わらず無駄な事をする。

兄貴、今日も人間共を

簡単に抹殺してやったんだろう?


人間が兄貴の前に現れて、

生きて帰るなんて不可能だからな。

ふふふっ」


『……プーレよ、

それが取り逃がしてしまったんだ。


いや、違うな。

正確には、これからの奴らの成長に

興味が湧いてしまった……というべきか』


「へぇ……、

兄貴がそんな事を言うなんて珍しいな。

どんな奴らだったんだ?」


『……ああ。

僧侶、魔女、盗賊女の3人組だ』


「3人っ!?

兄貴が、たった3人の人間に

トドメを刺さずに見逃したのかっ!?」


『ふふっ……不思議なものだろう?

俺もこんな感覚は初めてだ。


もしかしたら、俺は心のどこかで、

四天王としての役割に

終焉を求めているのかもな。

俺を倒してくれる誰かを

求めているのかもしれない……』


「兄貴っ! そんな事を言うな!

兄貴は俺の憧れだ! 四天王として!

いつまでも強い存在であってくれ!!」


……プーレはダンドとの会話を思い出し、

サキとユナに話を続ける。


「なるほど……。

兄貴の名前を知っていると言うことは、

兄貴が見逃した人間……って事だよな。


兄貴が倒されたと聞いた時は

耳を疑ったが、

それはお前達の仕業と言う訳か……」


……ゴゴゴゴッ!!


プーレの身体から怒りが溢れる。


「おのれ! 許さんぞ! お前達っ!

俺の大切な兄貴をっ! 憧れの兄貴をっ!!

お前達は俺から奪ったんだ!


……兄貴の仇!

ここで取らせてもらうっ!!」


おぞましく怒りの闘気を張り出すプーレに

サキとユナは警戒する。


「……なっ! ユナ! ヤバイぞ!

何だか1人で勝手に盛り上がり始めたっ!?」


「ちょっと待ってよ、プーりん!

私達は、ダンちゃんを

倒したりしてないよっ!


ダンちゃんは、最後は自分で


『魔王の魔力と瘴気しょうきが及ばない遠い所で、

静かに死を待つんだ!』


って、自分で退いてくれたんだよっ!」


(……なっ!?

四天王を『プーりん』って呼んだ!?)


驚くサキを無視して、プーレが叫ぶ。


「黙れっ!

お前達が兄貴を四天王の座から

落とした事は事実だろ!


兄貴をっ! 俺の憧れを!

お前達は奪ったんだ!!

ぬおぉぉーっ!!」


……プーレは槍を構え、

高速でユナに突進する。


(……なっ!? 速いっ!

流石に四天王!?

ユナっ! 危ないっ!?)


素早いプーレの攻撃に

驚くサキであったが、

ユナは冷静に魔法を唱える。


「マクスプロテクトウォール!」


……バチーンッ!!


ユナの前に現れた物理防御の壁が、

プーレの槍を弾き返した。


「うぬ……、この素早さと気迫に

恐れず魔法を撃つとは。

しかも上級魔法か。

……お前達、少しはやる様だな」


冷静に対処したユナの影響か?

プーレも冷静さを取り戻し、再び身構えた。


そして、

今度はサキがプーレに反撃する……。


「おいっ!

次はこっちの番だっ!いくぞ!」


サキはプーレに向かって

まずは接近せずに、

距離を取りながら矢を放つ。


……パーンッ!


プーレはサキの矢を見切り、

槍で矢を防いだ。


「ふんっ! ぬるいわっ!

良い狙撃だが、そんな矢では

どんなに撃っても無意味だ!」


「矢がダメだなら、これでどうっ!?

ファイア!……サンダー!」


続けて、ユナが

ファイアとサンダーを立て続けに放つ。


……ゴゴゴッ!……ズドーンッ!


ユナの魔法攻撃がプーレを襲う。

プーレは防御姿勢をとり、

その攻撃に堪えた。


「……うぬ、魔女。

なかなかの威力だな。

だがその程度の威力では、

俺にとっては無意味な攻撃だ」


(……しかしコイツら、何かがおかしいぞ?

兄貴を倒した実力、

ここまでたどり着いた実力

……こんなものか?


それに先程、魔女は

上級魔法で俺の攻撃を防御したが、

今の攻撃は基本魔法だった……。


……。


……そういうことか。

流石は兄貴が認めただけの事はあるな)


ダンドはユナの魔法攻撃を

防御しながらある事を仮定し

話し始める……。


「おい、お前達……。

初めから全力を出さずに

様子を見ながら戦っているな?」


プーレの問いにサキとユナが答える。


「ちっ、気付いてるのかよ。

……当たり前だろっ?


相手の能力も分からないのに、

いきなり接近戦や全力攻撃を

仕掛けたりする訳ないだろっ?」


「流石、ダンちゃんの弟分だね。

そうだよ。こっちはMPに限りもあるし、

無駄な消耗はしないで

効率的に戦おうとしてるんだからっ!」


2人の答えにプーレが言葉を返す。


「なるほど……。

ここまでたどり着くだけの

実力はダテではないな。


良いだろう……。


こちらも無駄な戦い方はしたくない。

兄貴が認めたその実力に敬意を表し、

俺がビアンド様より賜った

特殊能力を教えてやる」


「えっ!? 本当!?

……プーりん! そんな大切なことを

教えてくれるのっ!?」


「ユナ! 簡単に信用するなっ!

アタシ達を騙して、戦いを有利にしようと

してるだけかも知れないぞ!」


「ふっ……。

そっちの魔女は頭が悪そうだが、

盗賊女よ、お前は少し見所があるな」


プーレの言葉にユナが反応する。


「あーっ! プーりん、今っ!

私の事、『頭が悪い』とか言った!!


酷ーいっ!!

お仕置きしちゃうんだから!


ファイア! ファイア! ファイア!」


ユナはファイアを数発、

立て続けに放った。


(……っておい! ユナ!

お前、たった今!


『MPの無駄な消耗はしないで戦うんだ』


とか言ってなかったか!?)


驚くサキの隣で、

ユナはファイアを撃ち終えた。

プーレの身体は炎と煙りで包まれる。


「これでどう!?

少しは反省してくれたっ!?」


ファイアの炎が消え、

防御体勢で堪え続けたプーレの姿が現れる。

その身体は所々が焼けただれ、

炎でダメージを受けた様に見える。


「よし! ユナ、効いてるぞ!」


ユナの魔法攻撃が効いていることに

安堵するサキだったが、

プーレは落ち着いた声で言う。


「ふむ……。

俺の特殊能力を説明する手間が

省けてちょうど良いな。

見ろ! これが俺の特殊能力だっ!」


(……なっ!? あれはっ!?)


(……ええっ!?

一体どうなってるのっ!?)


その光景にサキとユナは驚愕した。


確かにダメージ受けたプーレの身体が、

回復魔法や回復薬を使わないのに

見る見る回復していく……。


「どうだ? 見たか?

これが俺の特殊能力……、再生能力だ。


このプーレ! 軟弱な攻撃では

一生倒すことなどできないぞ!


勇者の剣を持つ勇者が相手となれば

俺も恐れを抱くところだったが、

たかが人間! たかが小娘2人!


……俺を倒すことは不可能だ!」


プーレの言葉に、

そして目の前で起きた状況に

サキとユナは一気に表情が曇る。


(……くっ! なんて厄介な能力だ!?

アタシの攻撃は素早さはあるが、

一撃の威力が少ないっ!

……相性の悪い敵だっ!?)


(……ダメージ与えても

すぐに回復しちゃう!?

……どうしたらいいのっ!?)


「さぁ、次はこっちからいくぞ!」


プーレは羽ばたいて数mの高さに浮上し、

その翼から鋭い羽を広範囲に飛ばしてきた。


「……どわっ!?」


「プロテクトウォール!」


プーレの羽による攻撃を

サキはぎりぎりの所で横に飛んで回避し、

ユナは魔法で防御の壁を作って

その攻撃を防いだ。


(……ど、どうしようっ?! 考えなきゃ!

今は僧侶様もゆうたんも居ない!

私達でプーりんを倒す方法を考えなきゃっ!)


ユナはこれまでのプーレの動きと

状況を思い出し、

戦いに活路を見出だそうと考える。


(……そうだ!

これなら試す価値がある!

ダメでも、戦い方を考える

時間稼ぎはできるっ!)


ユナはプーレに向かって叫ぶ。


「プーりん! あなたの再生能力!

実は魔法攻撃しか

対応してないんじゃないの!?

サキちゃんが最初に矢を撃った時!

槍で弾いてたしっ!!」


(……なっ、ユナ!?

お前、そんな事を思いつくのか!?

……そうだな。アタシも!

ユナを見習って冷静に戦わないと!)


ユナの冷静な言葉に、

サキも落ち着きを取り戻し、

状況を見極めようと考え始める……。


──こうして、

四天王プーレVSユナ、サキの戦いは続く。

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