第54話 それぞれの夜

──洞窟探索を終えた夜の自由時間、

俺は出かけようとしていた。


「ユナ、サキ、

俺はちょっと出かけてくるよ」


「えっ? 僧侶様? ……どこに行くの?」


俺はユナの不意な質問に

戸惑ってしまった。


(今から行こうとする場所は、

……ユナには教えられないっ!!)


俺はどもりながら、ユナに答える。


「……えっと、それは……、内緒だ」


サキはどもる俺の様子を見て、ユナに言う。


「……ユナ、

あまりテルアキを詮索するなよ。

男が1人で夜の街に出掛けるって事は、

……そういう店に行くって事だ」


「……えぇっ!? 僧侶様っ!

ヤラシイッ!?

それでも聖職者なのっ!?」


「ち、違うわっ! サキ!

お前! どういう勘違いをしてるんだよっ!」


「何だ……、違うのか?

じゃぁ、どこに行くんだよ?」


「べ、別に良いだろ?……内緒だよ」


「ふーん……、何か怪しいなぁ、僧侶様」


ユナは俺の側に寄り、

肘で俺の脇腹を突きながら

可愛い上目遣いで俺を見上げてくる。


(……なっ!?

ユナ!……その上目遣いはダメだぞ!

……か、可愛い過ぎるっ!?)


あまりの可愛さに

行き先を教えそうになってしまうが、

何とか我慢することができた。


「じゃ、じゃぁ……、行ってくるからな!」


……バタンッ!


宿屋の扉を開け、

俺はそそくさと出て行く。


「あ……、僧侶様、行っちゃったね」


「……そうだな」


サキはユナの言葉に頷きながら、

耳につけたユナとお揃いの

クリスタルイヤリングを指でいじっていた。


(テルアキの奴……、

懐ににルビーの原石を隠していたな。

ようやくあの時の約束を守る気になったか……)


「じゃぁ……、私も出かけてくるよ。

ちょっと魔法で調べたいことあるから、

資料館に行ってくる」


「ああ、頑張れよ、ユナ。

アタシは、道具屋に行ってくる。


物理攻撃が効かない魔物達に

襲われた時の護身用に

炸裂弾を買っておかないとな」


──俺達3人はそれぞれ、

目的の場所に出かける。


宿屋を出た俺は

アクセサリー屋に向かった。


俺は、


『ユナに自分が手に入れた原石で

アクセサリを作る』


……という計画を立てていたが、

その計画を実行できることに

喜びを感じていた。


アクセサリ屋へ向かう道中で

先程見たユナの可愛い上目遣いを

思い出す……。


(……ユナに、このルビーで

自作したアクセサリを

プレゼントしたい……。

ユナ……、喜んでくれるだろうか?)


俺はアクセサリ屋に到着する。


「いらっしゃいませ。

……あら? 噂の僧侶様?」


「こんばんは。

俺もすっかり有名人ですね。

どこに行っても顔がバレてしまいます」


「ええ。

勇者の盾を奪還した英雄様ですもの。

街の皆が貴方を知ってますよ。

……ところで、今日はどんなご用で?」


俺は店員にルビーの原石を見せ、

アクセサリー製作したい……と伝えた。


「とても綺麗なルビーの原石ですね!

……これならきっと、

彼女さんもお喜びになりますよ!」


「いやっ!

そ、そんな……、彼女とかじゃ!?」


「……あら? そうなんですか?

私も長年アクセサリ屋で働いてますが、

彼女さんにプレゼントを製作しに来る

お客様のお顔は大概わかります。


僧侶様も、お店に入ってきた時から

そういうお顔をされてましたよ?」


(……えっ!? バレてる?

さすが店員さんっ!?

長年の経験には敵わないな……)


「えっと……、彼女とは言いませんが、

俺にとって大切な人への贈り物です。

よろしくお願いします」


「大切な人……、素敵な表現ですね。

分かりました。

デザインから加工、仕上げまで、

夜だけの作業でも

4日程あれば作製できます。

これから4日、ご来店頂けますか?」


「分かりました。

夜は自由な時間がありますので

通わせて頂きます」


……こうして俺は、アクセサリ屋に通って

ユナへプレゼントする為の

アクセサリ製作を始めた。


──また、一方その頃、サキは

採掘場で警備兵から聞いた炸裂弾を

手に入れる為に道具屋を訪ねていた。


「……おや? サキさん、

いらっしゃい!」


「オヤジさん、こんばんは」


「今日も最高級回復薬かい?」


「いや、それは明日、

テルアキが買いに来るよ。

今日は別のモノが欲しいんだ。


採掘場で警備兵さんから聞いたんだが……、

爆発処理に使ってる炸裂弾はあるか?」


「炸裂弾ね。勿論、あるよ」


「……良かった。アタシは戦闘で

物理攻撃が効かない魔物に

出くわすと何も出来ないから、

威嚇とか、ダメージを少しでも与えるのに

持っておいた方が良いと思ってな」


「……なるほど。

炸裂弾ならそういう使い方も出来るね。

サキさんはお得意様だ。お安くしとくよ!」


「ありがとう! オヤジさん!」


「そうそう、この炸裂弾だけど、

まだまだ開発されたばかりで

改良品とか試作品とか……、

直ぐに出てくると思うから

また何か良いモノを仕入れたら

特別に分けてあげるよ」


「おっ! それは助かるよ。」


「いやいや……、

勇者の盾を奪還してくれた

街の英雄ご一行様だ。

このくらいは当たり前だよ」


「恩に着るよ、ありがとう!

折角なら……売値の方も

街の英雄待遇でよろしくっ!」


サキは冗談半分で道具屋のオヤジの

肩をバシバシ叩いた。


「ははっ。サキさんには叶わないな。

しかも冗談に聞こえない

その声のトーンが絶妙だよ……。

テルアキさんなら

そんな事は言わないのになぁ……」


「テルアキは性悪だけど

真面目だからな。金絡みの話は

アタシがしっかり管理しないとっ」


「ははは。君達は色んな意味で

バランスの良いチームだね」


「……まぁな。

じゃ、オヤジさん、また来るよ」


「ああ! 毎度あり!」


(……よしっ! 炸裂弾を買えたぞ。

これで、アタシの弱点も少しは補えるな)


こうしてサキは道具屋で

炸裂弾を手に入れたのであった。


──また、一方その頃、

ユナは僧侶だけが使える極大魔法の

真実を知る為に資料館に来ていた。


(……僧侶だけが使える極大魔法。

クルジュさんと僧侶様では

言ってる事が違うけど……、ココで調べれば

きっと本当の事が分かるよね……)


ユナは魔法に関する蔵書が並ぶ

棚に向かった。


「僧侶だけが使える極大魔法」


……目的の蔵書はなかなか見つからない。


蔵書を探し始めて約1時間後、

漸く目的の蔵書を見つけることができた。


「……あった! これだ!」


ユナは緊張しながら蔵書を開き、

詳細を読み始める……。


──『ホーリーサクリファイス』は

僧侶が使うことが出来る魔法である。


この魔法を使用すると、

術者の身体から光が放たれる。


その光は周囲の敵や、

敵の攻撃を強大な威力で

打ち消す事ができる。


(……威力が凄いのは確かなんだね。

でも、私が知りたいのはその代償!

……術者はどうなるのっ!?)


ユナは緊張しながら続きを読む。

そして魔法の代償について

書かれた部分を読み愕然とする……。


──しかし、この魔法は

1度しか唱える事が出来ない。

それはこの魔法を唱えるのに、

術者の生命を捧げる必要がある為だ。


自らの生命を犠牲にして

最大攻撃かつ最大防御を放つ魔法……

それが『ホーリーサクリファイス』である。


(……っ!? ……やっぱり!?

クルジュさんが言ってた事が本当だった!


……術者の生命を犠牲にする!?


……この魔法を使ったら、

僧侶様は……死んでしまうっ!?)


……ガクンッ!


ユナは真実を知り、全身の力が抜けて

床に座り込んでしまった……。


(……そんなっ、そんなっ!!

僧侶様! ……僧侶様がっ!!)


「……何で? ……どうして?

こんな魔法が……。うぅ……うぅっ……」


(……僧侶様、やっぱり嘘だったんだ。


でも……、きっと僧侶様は

私達の事を想って嘘をついたんだ……。


もし私が本当の事を知ってたら

こんな魔法、撃たせるわけないもんっ!!

サキちゃんだって、絶対そうだよっ。


僧侶様……、


最悪の場合は……、


私達を守って……、


自分だけが犠牲になるつもりなんだ!)


……ユナは手で口を押さえて悶絶し、

辛さと悲しさで、目からこぼれ落ちる涙が

止まらなくなった。


「うぅ……。うぁぁっ……」


静かな資料館の中に、

ユナのすすり泣く声が響き渡る。


(……こんな、こんなのって、


……ダメだよ、僧侶様。


……今までずっと

一緒に過ごしてきたのに


……何で最後は自分だけなの?


……残された私達はどうなるの?


……どうして?


……どうして自分だけでっ!)


暫くの間、ユナは泣き崩れていた。

しかし、涙を流しながら、

自分はどうすべきか? 考え始めた……。


(……でも、泣いてばかりいられない。

考えなきゃ。どうしたら良い?


僧侶様は、いつだって

色んな事を考えて問題を解決してきた。

今度は……私が考る番。


……考えよう。


どうしたら良いか? 考えないと……)


ユナは深呼吸し、心を落ち着かせた。

……そして、ある決意をする。


(……僧侶様が


『私達に真実を教えない』


……って決めたのなら、


……私も決めた!


……こんな魔法、

絶対僧侶様に撃たせない!!

そんな状況にさせない!


私が……もっと強くなる!!


私が……必ず僧侶様を守ってみせる!!


僧侶様1人だけを犠牲になんて……、

絶対にさせないんだからっ!!)


──こうしてユナは

『ホーリーサクリファイス』の真実を知り、

新たな決意を胸に秘めたのであった。

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