第55話 心を込めて

──いつもの様に

洞窟で魔物退治を終え、

夜の自由時間を迎える。


俺はユナへ贈るアクセサリを製作する為、

足早に宿屋を出ていく。


「じゃぁ、俺は出かけてくるよ」


……バタンッ。


「あ、僧侶様、

今日も行っちゃったね」


「……そうだな。

アタシは、今夜は温泉に浸かって

のんびりするよ」


「じゃあ、私は出かけようかな。

ちょっと用事あるし」


ユナはおどおどしながら、

懐に隠したピンクトルマリンの

原石を握っていた。


サキはその様子に気付き、

ユナを見送りながら声を掛ける。


「ユナ、気をつけてな。

あと、ピンクトルマリンは希少だから、

スリに気をつけろよ」


「……えぇっ!? サキちゃん!

何で分かっちゃうの?」


「そりゃ分かるよ。

お前ら……、いや、

お前の様子でバレバレだぞ」


(……うん? サキちゃん、今……、

『お前ら』って言った?)


ユナは一瞬、

サキの言い間違えを気に留めたが、

深く考えずに宿屋を出る。


「サキちゃん、

心配してくれてありがとう。

行ってくるね」


(……全く、

テルアキと言い、ユナと言い、

分かりやす過ぎるんだよ)


ユナは夜の街を歩き、

アクセサリ屋を目指す。


(……この街には

アクセサリ屋さんが沢山あるんだよね。

クリスタルのイヤリングを

買ったお店も素敵だったけど、

他の店も見てみよっと……)


ユナはアクセサリ屋を2、3軒訪ね、

気に入った店の店員に

アクセサリ製作を申し出た。


店員はユナから渡された

ピンクトルマリンの原石を

手に取り、状態を確認する。


「これは凄いですね。

お客様、こんな綺麗なピンクトリマリンは

中々手に入りませんよ?

これならきっと、

可愛らしいアクセサリが出来ます!」


「本当ですかっ?

私、不器用だけど頑張りますので

よろしくお願いします!」


「お友達への贈り物ですか?

それとも、恋人の方に……ですか?」


「……やっ! やだっ!

もぅ! 店員さんったら!

……こ、恋人なんてっ!

そ! そ、そんなんじゃないです!」


ユナは店員の不意な言葉に

慌てふためき、取り乱す。


「うふふ、これは失礼致しました。

お答えは結構ですよ。

お相手の方に喜んで貰えるように

しっかりお手伝いさせて頂きます」


店員は戸惑うユナの様子を見て、

嬉しそうな笑顔で答えた。

ユナは笑顔を向けてくれる店員に問う。


「……あの、

何て言うか、こういうのって

分かっちゃうモノなんですか?」


「うふふ、そうですね。

幸せなお客様は、幸せなお顔をされてます。

雰囲気で分かってしまうものです」


「そ、そうなんですね。

ちょっと恥ずかしいです……」


「お客様の様な可愛らしい女性に

想って貰える方は……、とても幸せですね」


店員とユナは、女性同士

特有の雰囲気で互いに微笑んだ。


……店員はアクセサリ製作の説明を続ける。


「では、アクセサリ製作ですが、

デザインから加工まで

夜だけのご来店でも

4日くらいで出来ると思います。


……ご予定は如何ですか?」


「分かりました!

4日間通いますのでよろしくお願いします!」


──こうしてユナは

アクセサリ屋に通い始める。


……そして4日が経過した。


ユナは不器用ながらも一生懸命作業を続け、

テルアキにプレゼントする

アクセサリが完成した。


(……やった! 出来た!

ちょっと形がいびつになっちゃったけど……、

僧侶様、喜んでくれるかな?)


ユナは一生懸命作ったアクセサリを見て

完成までたどり着いた事に満足していた。


……一方、この4日間で

テルアキもユナにプレゼントする

アクセサリ製作を終えていた。


──こうしてテルアキとユナは

互いにプレゼントする手作りの

アクセサリを完成させた。


そして、俺とユナが

アクセサリ製作を終えたその翌日、

夕食後の自由時間を迎える。


俺達3人は夕食後、

宿屋の談話室で雑談をしていた。


「ユナ、

ちょっと渡したいモノがあるんだ。

部屋に取りに行ってくるから

待ってて貰えるか?」


「……え? 何かくれるの? ……僧侶様?

奇遇だね、私も、

僧侶様に渡したいモノがあるんだ」


「そ、そうなのか?

……それは確かに、奇遇だな」


俺は平静を装っていたが、

内心はドキドキだった。

緊張で胸が張り裂けそうだった。


(……想いを寄せる女性に

手作りアクセサリをプレゼントする……。

思い返せば、ユナに

ちゃんとしたプレゼントは初めてだ……)


互いにプレゼントを用意しようとする

俺とユナの様子を、

サキはニヤニヤしながら眺めていた。


サキはこうなる事が

数日前から分かっていた。


(……こいつら、やっと始めるな)


俺とユナはプレゼントを持って

部屋から談話室に戻る。


まず俺がユナに

ルビーで製作したアクセサリが入った

プレゼント箱を手渡した。


プレゼント箱は

リボンで可愛らしく装飾されている。


「ユナ、これだ。

喜んで貰えると良いけど……」


「……わぁっ!

可愛い箱! 開けても良い!?」


「ああ。開けてくれ」


ユナはリボンを解き、

ゆっくりと箱を開ける。


(……わぁっ!!!)


箱の中身を見た瞬間、

輝く様なユナの笑顔がはじける。


「すごいっ!

……綺麗っ!! 可愛いーっ!!」


ユナの笑顔を見て、

俺も自然に笑顔がこぼれる。


(……良かった。喜んでくれたっ!)


「僧侶様! これ……ルビー?

しかもハート型なんてっ!

可愛すぎだよっ!!

本当に貰って良いの? ありがとうっ!!」


「喜んで貰えて良かったよ。

頑張って作った甲斐があるってものだ」


「えっ? これっ!

……僧侶様が作ってくれたの!?」


「あ、ああ……。

アクセサリ屋で教わって……、

俺が作ったんだ」


(……僧侶様っ! 私の為にこれをっ!?)


ユナは嬉しさのあまり、言葉を失った。

そして言葉を交わせずに

しばらくの間、俺とユナは

ドキドキしながら見つめ合った。


(……ど、どうする? この状況……、

何か喋った方が良いのかっ?)


(……僧侶様、嬉しすぎだよ!

私の為にこんな素敵なペンダントを

作ってくれて!!

本当に……嬉しいっ!!)


……照れながら硬直する俺とユナを見て

サキがいたずらな事を言う。


「テルアキ、折角の心を込めた贈り物だ。

お前がユナの首につけてやれよ」


(……えぇっ!?

サキッ!? 何て事をっ!)


(……サキちゃん!?

そんなの! は、恥ずかしいよっ!?)


見つめ合っていた俺とユナは、

サキの言葉に赤面する……。


(サキは冗談で言ったかもしれないが、

心を込めてユナの為に作ったペンダントだ。

折角なら、

自分でユナにつけてあげたい……)


俺は恥ずかしさを抑え、

思い切ってユナに聞いた。


「……ユナ、俺が付けても良いか?」



「……えっ? ……う、うん」


……ユナは小さく頷いた。


ユナは椅子に座ったまま、

体を回転させて俺の方を向く。

そして、顔を少し上げる……。


「……これで、いい?」


「……あ、ああ」


俺は意を決してユナの前に立ち、

ペンダントを手に取る。


……ペンダントのチェーンフックを外し、

両手でチェーンの端を持つ。


……ユナの首に手が届く様に、

1歩ユナに近づく。


……まだ手が届かない。

もう1歩、ユナに近づく。


……チェーンの端を持った両手を広げ、

ユナの首に両手を回す。


この時点で、俺とユナの顔は

直前にまで接近している……。


(……ち、近いっ!)


今、俺の両腕の中にユナの顔がある。

ユナは赤い顔で照れながら、

俺と目を合わさない様にしている。


(……こんな間近で!


……こんな角度で!


……ユナのこんな可愛い顔!!


ダ……ダメだ! ドキドキするっ!


落ち着け! ……落ち着け……俺っ!)


……俺は震えそうになる手を必死に動かす。


……パチッ。


俺はユナの首の後ろで

チェーンのフックを嵌め、

ペンダントをユナの首に取り付けた。


(……はぁ! き、緊張したっ!

好きな人の首にペンダントを付けるのって、

……こんな気持ちになるのかっ!?)


赤面していた俺は、

堪らずユナから一歩離れた。


ユナは首に下がった

ハート型のルビーを手に取り、

最高の笑顔を俺に向ける。


「僧侶様! 本当に嬉しいよっ。

ありがとうっ!!」


──こうして俺が製作したペンダントは

ユナの首元で美しく輝くのであった。


そして、今度はユナが

プレゼント箱を俺の前に差し出す……。

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