第53話 洞窟探索

──俺達は新しく発見された

洞窟の探索を始めた。


洞窟内で現れる魔物達は

無難に退治することができ、

進行するペースが少しずつ早くなる状況に

俺は危険を感じていた。


(……まずいな。俺達が強くなった分、

魔物に対する危機感が弱まっている。

初めて入る洞窟なのに……)


「……おおっ!

こんな所にも巨大な原石があるぞ!

こっちはトパーズかっ!?

あ! クリスタルもっ!!」


サキは貴重な原石の発見に

興奮を抑えられず、

1人でどんどん進んでいく……。


「サキちゃん! ちょっと待ってー!」


「サキ! お互いの姿が見えない場所に

1人で進むな! 危険だぞ!」


「……これは凄いなっ! ……あっ!

こっちにも通路があるぞ!」


サキは俺達を無視して

先へ進んでしまう……。


「もぅ……、サキちゃん、

行っちゃったよ。大丈夫かなぁ?」


「まぁ、サキは探索に慣れているからな。

大丈夫……だと信じよう」


「うん、そうだね、僧侶様」


サキを心配する俺達をよそに、

多くの原石を発見して歓喜するサキの声が

遠くからこだまして来る。


……「おおぉーっ!」


……「こっちもあるっ!!」


……「ひゃっほぉぉぅっ!!」


その声を聞き、

俺とユナは苦笑いで目を合わせる……。


「ねぇ……僧侶様、

サキちゃん、大丈夫だよね?」


「あ、ああ……、大丈夫だと信じよう」


俺とユナが戸惑っていると

赤い色をした岩石の魔物が2体、

俺達の前後に現れた。


「2体の挟み撃ちかっ!?

ユナ、前の1体を任せていいか?」


「勿論!

後ろの1体は僧侶様お願いねっ!」


俺とユナは互いに背中を預け

目の前の魔物に攻撃をする。


「マクスエアー!」


「マクスブリザード!」


上級魔法の攻撃で

2体の魔物は難なく消滅した。


そして、俺とユナの足元には

それぞれ赤色に輝く綺麗な原石が転がった。


(……おっ? これはルビーの原石か?

ずっと探していたが、やっと手に入った!

……これでアレができるぞ!)


(……あっ! これ、

ピンクトルマリンかな?……綺麗っ!

これでアクセサリとか作ったら、

可愛いだろうなぁ……。


……そうだ! 良い事思いついた!

これは私が貰っちゃおっ)


こうして、

俺とユナが原石を手にした時だった。


これまで聞こえていた

サキの歓喜する声とは違う、

危機に直面した叫び声が響く。


「どわぁぁっ!!」


(……なっ!? 一体何が起きたんだ?)


俺とユナは魔物の出現に備えて身構える。

しかし同時に、

俺の脳裏にはある疑問が生まれた。


(……サキの強さなら、よほど強力な

魔物に出会っても対処できる筈だよな。

一体何が起きたんだ?)


「うわぁっ! ユナッ!

助けてくれー!」


サキが洞窟の奥から走って戻って来る。

そしてその後ろから、

怪しく光るガスの様な魔物が

数体追いかけて来た。


「こいつら!

短剣も弓矢も効かないんだ!

ユナッ! 魔法で頼む!」


「オッケー、サキちゃん!

……オールブリザード!!」


……バババッ!!


ユナの魔法で

ガスの様な魔物は凍りつき、消滅した。


「はぁ……はぁ……、助かったよ、ユナ」


「うん、サキちゃん、大丈夫?」


「……ああ、大丈夫だ。

攻撃は受けてないからな」


「……サキ、こういう事も起きるから

あまり1人で動くなよ」


「分かった、気をつけるよ」


(……サキは物理攻撃が効かない

魔物とは戦えないんだよな。

魔法を使える俺かユナが

常に一緒に居れば良いが……。


とりあえず、今後は

道具屋で買える炸裂弾をサキに

護身用に持たせたておこう。


そうすれば、物理攻撃が効かない魔物でも

威嚇したり、小さなダメージを

与えたりできるだろうからな……)


「サキ、物理攻撃が効かない魔物に

襲われた時の護身用として

炸裂弾を少し持っておけよ」


「……それは良い案だな。


魔物を退治できなくても、

驚かせたり威嚇したりして

時間を稼げば、逃げられるしな。

今度、道具屋に行ったら買っておくよ」


──俺達は

その後も暫く洞窟の探索を続け、

キリの良い所で探索を終えた。


魔物を退治して得た資金、鉱石や原石、

道中で拾い集めた鉱石や原石を

合わせると十分な成果であった。


洞窟の外に出て、反省会を行う……。


「今日は凄い収穫だったね」


「……そうだな。

まだまだ洞窟は奥にも続いてたし、

暫くはここで資金集めをして

良いんじゃないか?

……どう思う? テルアキ?」


「賛成だ、サキ。

……でも、魔物を退治して得られたモノは

俺達が貰って良いと思うが、

洞窟に落ちてたり、埋まっている

鉱石や原石は炭坑夫さん達のモノに

した方が良いんじゃないか?」


「ええっ!? テルアキ!

そんな勿体ない事を言うなよっ!」


「待て待て、サキ。

この洞窟にある全ての鉱石や原石を

俺達で独占するつもりか?


この街の炭坑夫さん達は

鉱石を採掘するのが仕事なんだぞ?」


「そうだよ、サキちゃん。

この街では、地中にあるモノは

炭坑夫さん達のモノだよ」


「ちっ、お前らは欲が無いな」


……しかし俺は、サキを説得する為に

ニヤつきながらある提案をした。


「……と、言うのは表向きの話だ。

ユナ、サキ」


「えっ? ……そ、僧侶様?

何か……、顔がニヤついてるよ?」


「おおっ! そう来なくっちゃ!

……出たな!? 性悪僧侶!」


「性悪僧侶とか言うなっ!」


「いや、事実だろ。

……で、どうするんだ? テルアキ?」


「ああ。この洞窟に現れる魔物は

警備兵達では手に負えない強さと数だ

……と言ってただろ?」


「ああ、そうみたいだな」


「そこで……だ。

俺達はこの洞窟の魔物退治を

正式な依頼として受けるんだ。


報酬は、

この場所で新たに採掘できるようになった

鉱石や原石の出来高払いだ」


「……なっ!?」


サキが驚きの表情を俺に向ける。


「俺達3人で鉱石や原石を

運ぶのは限界があるだろ?


だから俺達は魔物退治に専念して、

安全な作業が可能になったエリアでは

炭坑夫さん達に集まって働いて貰うんだ。


そして、俺達はその出来高に応じて

報酬をお金で頂く……、と言う訳だよ」


「そ、僧侶様!?

それってズルいんじゃ!?」


「テ、テルアキ……、自分は働かずに

報酬だけはしっかり手に入れるとは、

……お前、本当に悪い奴だな」


「そんな……、褒めるなよ。照れるだろ?」


「いや、どう考えたって

褒めてないだろっ!」


「でも、これは街の為でもあるんだ。

鉱石や原石が沢山採れる新しい洞窟を、

俺達が魔物退治をして安全にする。


そして、鉱石の採掘量は増え、

街の収入も増え、

街の皆が幸せになる……だろ?」


「……分かったよ。

そういう事にしといてやる」


「よし、決まりだな。

早速、炭坑夫さん達と

グルナードさんに相談してみよう」


──俺達は、

洞窟の魔物退治を請け負う依頼と、

報酬について炭坑夫達に相談した。


炭鉱夫達は快くその提案を受け入れ、

グルナードに話を通してくれた。

そして、その後は俺達の予定通りに

報酬を得られる様になった。



──新しい洞窟で資金を集め始めて

数日が経過した。


魔物退治は午前中と午後に行い、

夕食後はゆったりと休む

……という生活が続いていた。


(俺も他の2人も……、

夜に決まった自由時間がある方が

各自の予定を組めるし、

何かと都合が良いよな……)


そう感じていた俺は

昼の休憩中、ユナとサキに相談をした。


「ユナ、サキ、相談があるんだ。

魔物退治は朝から夜までやる訳じゃないし、

自由時間が決まっていた方が

良いと思うんだが、どうだ?」


「……そうだな。

夜はのんびりできる時間があるし、

夕食後は各自、自由時間で良いと思うぞ。

それなら、アタシも夜は飲みに出られるし」


「……私も賛成。

魔法の熟練度上げとか、ちょっと用事とか

あったりするかもしれないしね」


「……よし。なら、

今夜から夕食後は自由時間にしよう。

でもサキ、資金集めをしてるんだから、

あまり沢山飲んで散財するなよ」


「分かってるって!

ていうか、宝石1個手に入れただけでも、

数日分の飲み代になるんだから

そこは問題ないだろっ」


──こうしてこの日から

夜は自由時間となった。

そしてこの日の夕食後、俺達3人は

それぞれ目的の場所に出かけていく……。

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