第34話 上級僧試験

──セドラが上級僧となるための

試験日を迎えた。


セドラは今日の格闘・身体能力を試す試験で

通算5回目の合格をすれば

上級僧となることができる。


試験内容は竹林のパンダ達の妨害を避け、

時間内に設定されたコースを最奥まで行き、

戻って来るというものだ。


俺、ユナ、サキはセドラの応援と

試験の様子を見学する為、セドラと一緒に

試験場所の竹林へ向かっていた。


「セドラ、試験頑張れよ!」


「セドりん、頑張ってね!」


「ありがとうございます」


「ほら、サキも何か言ってやれよ」


「あの……、私はサキさんの

一言があれば頑張れる気がします。

是非、激励をお願いします!」


(きゃーっ! セドりん!

それはもう殆ど告白だよっ!)


興奮するユナの横で、サキが激励する。


「セドラ、お前ならきっと大丈夫だ。

……合格を信じてるよ」


「サキさん! ありがとうございます!」


──試験の場所に到着する。

セドラの他にも

試験を受ける修行僧が何人か居る。

試験の監督員は寺長のセザムだ。


「今日の試験は、

見習い僧コースが3名、

中級僧は無し、

上級僧はセドラ1人だな」


『セザム寺長! よろしくお願いします!』


見習い僧コースの試験を受ける

少年3名がセザムに挨拶をする。


「よし。見習いコースの3名は

怪我に気をつけること。無理だと判断したら

リタイヤするのも正しい判断だからな」


『はい! 分かりました!』


「セドラは上級僧コースが5回目だな。

最後の1回、しっかり頑張りなさい。

後で長老も様子を見に来ると言っていたよ」


「えっ!?

長老が来て下さるのですか!?」


「ああ……。

それだけお前に期待してるって事だ。

では始めよう。試験開始っ!!」


セザムの合図で受験者が駆け出す。


「試験ってこんな感じなんですね、

セザムさん」


「ああ。今日は受験者も少ないし、

良かったら皆も体験してみるかい?」


俺達3人は互いに顔を見合せる。


「いや、俺はこの街に来た時も

子パンダのタンに酷くやられたので……、

やめておきます」


「私も身体能力の試験はちょっと……」


拒む俺とユナと対照的に、

サキは積極的だった。


「セザムさん、アタシは試しに

受けてみたいです」


「そうか。サキの運動能力なら

中級僧コースが良いだろう。

私の見立てでは3割くらいの確率で成功

……ってところかな」


「分かりました。

中級僧コースに挑戦してみます」


「攻撃は格闘のみ、武器の使用は禁止だよ。

道は1本道だから迷うことは無いだろう。

制限時間は1時間。

気をつけて行ってきなさい」


「サキちゃん! 頑張ってね!」


サキは竹林に向かって駆け出す。

俺とユナ、セザムは

雑談をしながら皆の帰りを待っていた。


しばらくすると、

サキが向かった中級僧コースの奥の方で

大きな物音と何か不穏な気配を感じた。


「僧侶様? あっちの方で

竹が倒される様な物音しない?」


「ああ、何だか気になるな。

ちょっと見て来よう。

セザムさん、もし危険な状況だったら

ユナが空にファイアの魔法を撃って

合図します」


「分かった。2人とも気をつけて」


俺とユナは『ムーヴ』で空を飛び、

中級僧コースの奥へ向かった。


「なっ!? あれはっ!!」


俺とユナが行った先で見たものは

全長5mを軽く超える

巨大な熊の魔物であった。


「お、大きいっ!?」


俺達は巨大熊から少し離れた所に降り、

セザムに見えるように

ファイアの魔法で合図をした。


暫く巨大熊の様子を見ていると、

サキが中級僧コースの道を

進んでやってきた。


「サキちゃん! こっち!」


「何!? お前ら、どうしたんだ?」


「この先に巨大な熊の魔物が現れたんだ」


……ズドンッ、ズドンッ!


巨大な足音が

俺達3人に向かって近づいて来る……。


「どうする? やるか? テルアキ、ユナ!」


「そうだね。魔法を使えば

獣系の魔物とは戦いやすいし。

サキちゃんは弓も使えるしね」


「よしっ! いくぞ!!」


俺達3人は巨大熊と対峙する。


……グオォーー!


「まずはこれだ! エアー!」


……バシュッ!


空気の刃が巨大熊の腕を捕らえた

……かに見えたが、傷を与えるところか

固い毛並みで防御されてしまった。


「何っ!? 硬い!?」


「これならどうっ? ファイア!」


ユナがファイアで攻撃するが、

巨大熊は身体の表面を襲う炎を

振り払って防いでしまった。


「炎もダメ!?

なんて丈夫な毛皮なのっ!?」


続いてサキも短剣で斬りかかるが、

硬い毛皮を貫くことはできなかった。


「コイツ、半端な攻撃じゃ効かないぞ。

テルアキ、ユナ! 連携技でいくか?」


「そうだな……」


作戦を考えていると、

巨大熊はサキに向かって飛び掛かり

大きな腕を振り上げて襲ってきた。


「プロテクトウォール!」


ユナが防御の壁を作り

巨大熊の攻撃を防ごうとする。


……が、その時!!


「うおぉぉっ!!」


……バーンッ!!


袈裟をまとった男性が現れると、

巨大熊の腕を強く蹴り上げて攻撃をそらした。


「……セドラッ!?」


「皆さん! 大丈夫ですか!?

この巨大な魔物は一体!?」


「セドりん! 試験は良いの!?」


「そんな事を言っている

場合ではありません!

異様な気配がしたので様子を見に来ました!」


セドラを加え、4人で巨大熊と対峙する。


「サキさん!

短剣での攻撃を見ていましたが、

あれではダメです!」


「この巨大熊、

恐ろしい硬さの毛並みだからなっ!」


「いえ、違うのです!

硬いのはヤツの筋肉であって

毛並みではありません!」


「何っ!? セドラ、どういう事だ?」


「ほら、人間も力を入れると

筋肉が硬くなるでしょう?

ヤツも力を入れる事で

筋肉で身体を硬くしているんです!」


「じゃぁ、どうしたら良いんだ?」


「簡単です、サキさん!

『関節』とか『腱』の辺りに打撃を入れて

一瞬でも力を入れられない状態に

すれば良いのです。

ほら、人間だと……、

この辺とか、この辺とか、ココとか……」


セドラは自分の体で

巨大熊が力を入れる事が出来なくなる

多くの部位を指差しで説明し始めた。


「ふむふむ、なるほど、

……って分かるかっー!?

いきなりそんな身体の説明されても、

正確に狙えないぞ!」


「……そ、そうですよね、すみません。

ではサキさん!

私がヤツの右腕の『腱』を狙います。

私の後に続いてヤツの右腕に

斬りかかって貰えますか?」


「よし、分かった!」


作戦が決まり実行する。

まず、俺とユナは

魔法で巨大熊の注意をそらす。


「エアー!」

「ファイア!」


魔法を防ぐ事で生まれた隙に、

セドラが巨大熊の右腕に

的確な打撃を叩き込む。


「はぁぁっ!」


……ドドドッ!


「今です! サキさん!」


「おりゃぁー!」


……バシッ!!


巨大熊の右腕から血飛沫ちしぶきが上がる。


「グオォーー!!」


「やった!

セドりん、サキちゃん、凄いっ!」


「うまくいきましたね、サキさん!

これを繰り返せばヤツを倒せます!」


「ああ、ありがとなっ、セドラ!」


攻撃が有効に決まったことを確認し、

俺は皆に作戦を提案する。


「皆! 俺とユナが

サキとセドラに『スピード』をかける!

それで一気にキメられるか!?」


「テルアキさん? 『スピード』とは?」


「素早さを上げる魔法だよ。

ほら……スピード!」


俺はセドラに『スピード』の魔法をかけると

セドラの身体が白く輝き始める。


「何とっ! これは凄いです!

こんなに体が軽くなるなんて!」


「サキ、セドラ、

2人の連携でやってくれるか!?」


「分かりました、テルアキさん!」


「任せろ! テルアキ!」


「でもサキさん、

私の速さについて来られますか?」


「ナメるなよセドラ。アタシだって、

素早さには自信があるんだ。

お前こそ、アタシを待たせるなよ!」


「……それは失礼しました。

では、行きますよ! サキさん!」


俺とユナはセドラとサキに

『スピード』をかけ、

2人の身体が白く輝きはじめる。


「おおぉぉ!!」


「はあーっ!!」


目にも止まらぬ速さの2人が、

巨大熊に飛びかかる。

セドラが正確に巨大熊の

関節や腱に打撃を入れ、

その直後にサキが斬りかかる。


素早い2人の攻撃はまるで

巨大熊を竜巻が襲うかの様に

高速で移動しながら

全方向から無数に叩き込まれた。


……ババババッ!!


「グオォーーッ!!」


素早い2人の攻撃に対応出来ない巨大熊は

そのまま血飛沫ちしぶきを上げ続け、

何も出来ずに倒されて消滅した。


「セドりん、サキちゃん、

凄いっ! 凄すぎるよっ!!」


巨大熊の消滅を確認し

セドラとサキは動きを止めた。


「サキさん、やりましたね!

素晴らしい剣撃でしたよ!」


「セドラもありがとな。

お前が巨大熊の力を奪ってくれたお陰で、

こっちも楽に攻撃できたよ」


ハイタッチをするセドラとサキ。


「僧侶様っ! あの2人、

やっぱり最高のパートナーだねっ!」


「ああ! あんなに相性の良い

戦い方ができるなんて……、

正に運命の出会いだな」


──こうしてセドラとサキ、

2人の息が合った活躍で

巨大な熊の魔物は退治されたのであった。

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