第35話 セドラとサキ

──俺達が魔物との戦いを終えると

長老とセザムがやってきた。


「セドラよ、見ておったぞ。

見事な戦いぶりであったな」


「長老!?

あ、ありがとうございます!

あと……、セザム寺長、上級僧認定試験を

途中で投げ出してしまい申し訳ありません」


「セドラ、何を言うんだ?

これだけの気配の魔物に気付かず

試験を続けていたら、初回から

上級僧試験をやり直させていたぞ」


「そうじゃよ、セドラ。

試験を中断する判断も含め、

お主は上級僧の要件を満たしておる。

本日を以てお主を上級僧に認定しよう」


「ほ、本当ですかっ? 長老!?」


「良かったな! セドラ!」


「テルアキさん、ありがとうございます!」


「良かったね、セドりん!

……ほら、サキちゃんも

セドりんにお祝いを言ってあげなよっ」


「いや、アタシは別に……」


ユナは、照れのせいで

素直に祝いの言葉をかけられない

サキの背中を押し、魔法を唱える。


「ムーブ!」


「どわっ! ユナ!? 何するんだ!?」


ユナはサキに『ムーヴ』をかけ、

強制的にセドラに抱きつかせた。


「わわわっ!? サ、サキさん!?」


「ち、違うんだセドラっ!

これはユナが!?」


照れながらもセドラとサキは

真近で見つめ合う……。


「……セドラ、良かったな。おめでとう」


「サキさん、……ありがとうございます」


「ほっほっ。結構結構。

若いというのは素晴らしいのう」


「わわっ!」


長老の一言で我に返り、

セドラとサキはすぐに離れた。


「それにしても、テルアキさん、

魔法の力は凄いのですね。

先程の魔法を交えたサキさんとの連携技に

名前などはあるのですか?」


「……うん? 技の名前か?

そうだな、考えないといけないな」


俺の台詞にすぐさまサキが反応する。


(……なっ!?

テルアキとユナに名前なんか

考えさせたらとんでもない事になるっ!

何とか阻止しないとっ!!)


「な、なぁ、テルアキ?

セドラにとっては初めての連携技だし

ここはセドラに名前を

付けて貰うのが良いんじゃないか?」


「それもそうだな。

セドラ、サキとの記念すべき連携技だ。

カッコイイ名前を付けてくれよ」


「ええっ!?

私が名付けて良いのですか!?」


(よしっ! うまくいったぞ。

セドラのネーミングセンスは不明だが、

テルアキとユナよりはマシだろう……)


サキはホッと安堵の表情を見せる。

その隣で独り言を言いながら

セドラが考え込む……。


「私とサキさんの思い出の技だし……

2人の熱い想いが詰まった感じが

良いですよね……、ブツブツ……。


……よしっ! 皆さん、

技の名前が決まりましたよ!」


「おぉ! 決まったか!?

……どんな名前だ?」


穏やかな期待の表情でサキが問う。


「私とサキさんの記念すべき

初めての連携技の名前は……」


「技の名前はっ!?」



「技の名前は……



『ふたりのエクスタシー』 !!



ですっ!!」


(注:『エクスタシー』とは

→快感が最高潮に達して

無我夢中の状態になること)


(……なっ!?)


サキは目を点にして硬直した。

そして数秒後、セドラを問いただす。


「待て待て待てっ! おいっ! セドラ!

どんだけ恥ずかしい名前付けてんだよっ!!

……そのっ! 何て言うか!

アレみたいになってるだろっ!?


……それっ!! 叫ぶのかっ!?

真剣な戦闘中にっ!

その名前を叫ぶのかっ!?」


サキはセドラの首元を掴み

ブンブンと振り回している。


「いやんっ! セドりん! そんな名前!

…… 私、ゾクゾクしちゃうっ!」


「ユナ! お前は黙ってろ!」


「セドラ、お前らしい情熱的な名前だな。

良いと思うぞ!」


「テルアキ! お前も黙ってろ!」


「ユナさん、テルアキさん、

ありがとうございます。

……サキさん、皆さんに喜んでもらえる

名付けが出来て良かったです」


セドラは嬉しそうな笑顔でサキを見つめる。

その笑顔にサキは何も言えなくなった。


(……セドラ!

お前もかっ!? お前もなのかっ!?)


そして、サキは地面にしゃがみこみ、

頭を抱えながら叫んだ。


「ああっ! もうっ!

お前ら、最悪だーーっ!!」


──こうしてセドラとサキの連携技に

情熱的な名前が付いたのであった……。


その日の夜、

俺とユナはいつも通り竹林の小高い丘で

魔法の熟練度上げをしていた。

すると、セドラがやってきた。


「あ、セドりん。今日は試験お疲れ様」


「ありがとうございます。

お2人も魔法の練習、精が出ますね」


「これは強くなる為の日課だからな。

ところでセドラ……、

観光客を迎える準備も一通り済んだし

俺達は明日、この街を発つ事にしたんだ」


「そうなのですね。それは寂しくなります。

そして……、サキさんも

行かれてしまうのですよね」


「ああ。でもセドラ、このまま

サキと離れ離れになって良いのか?」


「テ、テルアキさんっ!?」


「あまり横恋慕をする気は無いが、

伝えたい気持ちがあるなら

ちゃんと伝えた方が良いと思うぞ」


「私もそう思うよ。

サキちゃん、セドりんの素直な気持ち

聞きたがってると思うなぁ」


「……そ、そうでしょうか?」


「ああ。明日には街を出てしまうのだから、

お前の真っ直ぐな気持ちを伝えてみろよ」


「うん。私も応援してるよ」


「わ、分かりました……。

頑張ってみます」


こうして俺とユナはセドラを残し

竹林の丘を後にした。


「僧侶様っ!

明日のセドりん、楽しみだねっ!」


「何だか嬉しそうだな。

でも興奮して2人の邪魔するなよ」


「分かってるよぉ」


──出発の朝を迎える。

街を出る俺とユナ、サキを

皆が見送りに来てくれた。


長老、セザム寺長、セドラ、

……そしてセドラの同僚達数名だ。


「テルアキよ、世話になったな。

この街の為に諸々考案してくれた事、

感謝しておるぞ」


「テルアキ君、ユナ、サキ。

皆、元気でな。体が疲れたら

いつでも温泉に入りに来ると良い」


「長老、セザム寺長、お世話になりました」


俺達が別れの挨拶をしていると、

セドラが複雑な面持ちで前に出てきた。


(……来たっ! セドりん!!)


ユナは両頬に手を当てて

興奮を抑えられないでいる。

セドラは深呼吸し、サキに声をかける。


「サキさんっ!!」


「わわっ! びっくりするだろ。

大きな声を出すなよ」


「サキさん! あのっ……

お伝えしたい事があります!!」


「えっ? な、何だよ……」


サキはセドラの様子で物事を察し

照れながらセドラと向き合った。

その様子を周囲の全員が静かに見守る。


「サキさんっ! 私はっ、私はっ!」


「な、何だよ? はっきり言えよ……」


(……セドりん! 頑張れっ!!)


ユナを含め、皆がセドラを応援する。

そして、セドラは一瞬間を置いた後、

耳を疑う信じられない告白をした。


「私はっ! あなたとっ……!

○○○(アノ行為)をしたいですっ!!」


(なっ! 何っ!?

セドラ!? なんて事をっ!!)


俺とユナは時が止まったかの様に

硬直したが、セドラの同僚達の反応は

対照的だった。


『おぉ! セドラッ! よく言った!!』

『セドラ先輩! カッコイイですっ!』


(ええっ!?

同僚の修行僧達は喝采してるっ!?)


俺とユナ、長老とセザムは

セドラの告白に凍りついていたが、

同僚の修行僧達はセドラの告白を

やんややんや……とはやし立てていた。

セドラもその喝采に手を振り応えている。


一方、サキは顔から火が出る程の

真っ赤な顔で下を向き、

両手を握り締めてプルプル震えている。


「おい、セドラ……。

これはアタシに対する嫌がらせか?

それとも何かの罰ゲームか?」


「えぇっ!?

嫌がらせだなんて、とんでもない!」


「……じゃあ、今のは一体何なんだ?」


「それは……、サキさんが旅立つ前に

私の真っ直ぐな気持ちを伝えた方が良い!

……って、昨夜テルアキさんがっ!」


「……ちょちょ!

ちょっと待て! セドラ!

何でそこで俺の名前が出るんだよっ!?」


「だってテルアキさん! 昨夜、

私にアドバイスをくれましたよね!?

サキさんに真っ直ぐな気持ちを

伝えるべきだって!」


……サキがおぞましい顔つきで

俺を睨みつける。


「ほぅ……。つまりこうなったのは

全てテルアキのせいなんだな」


「ちょ、ちょっと待て!

サキ、違うぞ! 今、お前はきっと、

……何か壮大な誤解をしている!!」


「あぁっ!?

何が誤解なんだよっ!?」


サキのおぞましい怒りに

俺は堪らず、走って逃げ出した。


「あっ! 逃げるなっ!

待てコラーーッ!!」


走って逃げ始めた俺に

サキは狙いすまして矢を放つ。


「わっ! バカッ! 本気で狙うな!

お前の弓矢は当たるんだぞ!」


「本気で狙ってるんだよ! バカヤロー!

逃げるな! 待てーっ!!」


「あっ! 2人とも待ってー!

皆さーん! お世話になりました!

お元気でーっ!!」


ユナが街の皆に手を振りながら

俺とサキを追いかける。

セドラは走ってゆく3人の姿を

暫く眺めていた。


(……サキさん、どうかお元気で!)


そして、

セドラの告白から一部始終を見ていた

長老とセザムが小声で話し合う……。


「長老、先程のセドラの告白と

賞賛する修行僧達の反応……、

ご覧になりましたか?」


「……うむ」


「もしかして……、

この街から若い女性が居なくなったのは、

彼らの異性に対するアプローチ方法に

問題があったのでは?」


「……うむ。セザムよ。

見習い僧の修行内容に

『異性との接し方』という項目を

追加する必要がありそうじゃの……」


──こうして長老とセザムは

この街が抱える「嫁不足問題」の

本質を垣間見たのであった……。


そして俺達はグラチネの街を発ち

鉱物資源が豊富な火山近くの

城塞都市「グリエール」へ向かってゆく。

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