第19話 立案

──俺達はユイトルに案内された

各自の部屋を整理し、

午後はブレゼスの街を散策する事にした。


「サキ、この街には何度か来た事が

あるんだろ? 案内してくれよ」


「……ああ、わかった」


──俺達はサキの案内で街を散策し、

夕食はユイトルの店でとる事にした。

美味しそうな魚料理がテーブルに並ぶ。


「んふっ! このお刺身も美味しい!

ザバって生でも美味しいんだね!

こっちの煮魚もたまらないーっ」


「ユナ、ちゃんと野菜も食べろよな。

魚ばっかりじゃバランス悪いぞっ」


「ははっ。

ユナは顔に似合わず肉食だな」


「うん! サキちゃんっ。

私、お魚もお肉も大好き!」


仕事を一区切り終えたユイトルが

俺達の席に来て話をする。


「ほんと、チビの割に

食い意地だけは一人前ね」


「ああっ、ユイトルちゃん!

またチビって言った!

私とそんなに身長変わらないのにっ!?」


「良いのよ。あんたは何て言うか、

……存在感がチビなのよ」


「ひっどーいっ!」


(……この二人、

仲が良いのか? 悪いのか?)


「なぁ、ユイトル、

この街に酒が飲める店はあるか?

せっかく街に来たし、

アタシは久々に飲みたい気分なんだが?」


「あるわよ、サキ。

オススメの店は……、こんな所かしら。

近所の店を2つ書いておいたから、

あとは店の前で雰囲気を見て決めなさい」


「おぉっ、ありがとな。

ユナも一緒に行くか?

たまには外で飲むのも楽しいぞ」


(……えぇっ!? ユナが外で酒をっ!?)


「……うーん、楽しそうだね。

僧侶様、サキちゃんと行ってきても良い?」


(ユナとサキが2人で夜の街にっ!?)


俺は言葉にならない不安にかられたが、

断る理由を見つけられなかった。


「あ、ああ……。

き、気をつけて行ってくるんだぞ。

俺はちょっと考え事したいから……、

ココに残るよ」


「あははっ、テルアキッ。

なんて顔してるんだよ。大丈夫だって!

アタシとユナが2人で飲んでて、

ナンパなんてされる訳ないだろっ。

そんな心配するなって!」


サキはおどけながら

俺の背中をバンバン叩く。


「い、痛いっ! べっ、別に

そんな心配してるんじゃないぞっ」


不安げな顔をする俺の隣で

ユイトルが無神経に問い掛ける。


「テルアキとユナは付き合ってるの?」


……ブフォッ!!


あまりに唐突な質問に

俺とユナは口にしていた茶を吹き出した。


「ユ、ユイトルちゃん!?

何言ってるの!?

……そんな訳ないでしょっ!?」


「そ、そうだぞ、ユイトルッ!

びっくりする事を言うなよっ!?」


「……ふーん、そうなのね。まぁ、良いわ」


「さて、飯も終わったし。

ユナ、早速行くぞっ」


──ユナとサキは飲みに出かけた。

俺は食事の片付けを手伝い、

ユイトルから茶を貰った。


「テルアキは料理が出来るのね。

片付けの手際を見れば分かるわ」


「ああ、もと居た世界では

家がレストランだったからな。

それもあって、料理は好きなんだ」


……俺は情報収集も兼ねて

ユイトルと様々な話をした。

滞在中、朝食作りの為に

朝の時間は厨房を借りることも了承を得た。


「ユイトル、ありがとう!

俺は料理をしてる時は楽しくて、

良い息抜きになるんだよ」


「厨房貸すくらい、お安いご用よ。

明日は初めてだから、

私も一緒に朝食作るわね」


「ああ、それは助かるよ。

ユイトルはいつも涼しい顔をしてるけど、

……本当は優しいんだな」


ユイトルが少しだけ顔を赤らめる。


「なっ!? 馬鹿ねっ。

そんなんじゃないわよっ!」


「よし、じゃ俺はそろそろ行くよ。

今日はまだMP残ってるから、

魔法の熟練度上げるために、

外でちょっと魔法の練習して来る。

今日は色々とありがとうな。おやすみ」


「へぇ。流石、

空からやってきた伝説の僧侶ね。

そういう努力の積み重ねを

できる男は……悪くないわよ」


「ははっ。ユイトル、俺に惚れるなよ」


(……っ!?)


そう言いながら俺は店を出て

魔法の練習ができる海辺に向かった。


俺が最後に言った冗談に対して、

てっきりユイトルが「馬鹿なのっ!?」と

ツッコミを入れてくるだろう……

と思ったが、そのツッコミは無く

通じない冗談を言ってしまった事に

少し気まずさを感じた。


俺は巨大サメの退治方法を考えながら

MPが尽きるまで魔法を撃った。

海中の巨大サメに対して

エアーで攻撃できるかもしれない……と

海中に試し撃ちをしてみたが、

空気の刃は海中の浅い所ですぐに消滅した。


またムーブで巨大サメを

浮かせて陸地に上げる……事も考えたが、

ただの大木や、運動性のない

巨大アイスジェルならともかく、

あれだけの巨体かつ、

運動性と力を持った生物を

ムーブで海中から引き上げるのも

難しいだろう……と思われた。


(……さて、どうしたものか?

麻痺とか眠りの魔法あれば良いのだが)


──魔法を撃ち終えて部屋に戻ろうとすると、

居酒屋から戻るサキ、ユナとはち合わせた。

2人は楽しい時間を過ごせた様で

かなり仕上がっていた。


「あははっ、僧侶様っ。ただいまーっ!」


「おうっ、テルアキ!

お前も出かけてたのかっ??」


「2人とも楽しんだみたいだな。

階段、気をつけて登れよ。

朝食は俺が作るから、また明日の朝、

1階の食事屋集合な。おやすみ」


「うん、僧侶様っ。ばいばーい!」


(あんなに酔ったユナは初めて見たが、

あれはあれで可愛いいんだよな……)


ユナの屈託のない笑顔を思い返しながら、

俺は幸せな気分で眠りについた。


──翌朝、俺が1階食事屋の厨房に入ると

暫くしてユイトルがやってきた。


「おはよう、ユイトル。

一緒に朝食作ってくれてありがとうな」


「おはよ。……別に良いわよ」


俺とユイトルは朝食を作り始めた。

手際の良い者同士、

互いに気持ちよく作業をすることが出来た。

朝食を作る中、ユナとサキが入ってきた。


「僧侶様、ユイトルちゃん、おはよー」


「テルアキ、ユイトル、おはよ。

お前ら……、早いんだな」


テキパキと作業を進める俺とユイトルを

ユナは少し複雑な顔で眺めていた。


(僧侶様、何だか楽しそう……。

ユイトルちゃんと一緒に料理するの、

楽しいのかな……?)


ユナの複雑な顔を見て、

サキがユナに声をかける。


「ユナ、朝からそんな顔するなよ。

テルアキは料理が好きなだけだし、

何も不安になることないだろ」


「サ、サキちゃん!? 別に私はっ!」


(……でも、僧侶様。あんな楽しそうな顔で

女の子の隣に立ってたら……何か複雑だよ)


「よーし、朝食出来たぞ。

2人とも昨夜は楽しかったみたいだからな。

朝食は焼き魚をほぐし身にした、

出汁茶漬けだ」


「わぁ、美味しそうっ!

僧侶様、ユイトルちゃん! ありがとう!


お魚を串に刺して焼いてたから

串焼きかなぁ? ……と思ったけど、

身をほぐして食べやすくしてくれたんだね」


「ええ。礼には及ばないわ。

それにしてもテルアキの

料理の腕には驚いたわよ。

僧侶にしとくには勿体ないわね」


(……えっ!? ユイトルちゃんっ!?)


「ははっ。ユイトル、ありがとな。

昨夜2人はだいぶ飲んだみたいだから、

茶漬けの方が食べやすいと思って」


「ああ、そうだな。うぅ……。

食べやすくて助かるよテルアキ」


サキは若干、昨夜の酒が残っている様だ。

食事を進めるユナとサキを見ながら

俺はホッと一息つく。


(やっぱり串焼きより

ほぐし身にして良かったな……。


……うん? ……串焼き??


……串、焼き……!?)


俺は朝食の調理工程を事を思い出し……、

そして、思わず大きな声を上げた。


「あぁっ! そうだっ! これだっ!

……串焼きだっ!!」


俺が大声を上げてバッと立ち上がる様子に

ユナとサキが驚く。


「わわわっ! 僧侶様っ!? 大丈夫!?」


「テルアキ!? 突然どうしたんだ!?」


「ああ、すまない。

でも……、思いついたぞ!

巨大サメを退治する方法を!!」


「えぇっ!? テルアキ、本当なの!?」


「ああ!

ユイトル、皆の意見を聞きたい。

代表のクルベットさん、カルマールさん、

3姉妹の皆と……あと、主要な漁師さんを

集めて相談に乗ってもらえるか?」


「良いわよ。

早速クルベットさんの家に行って

伝えてくるわ」


「頼む。あと、戻ったら

用意して欲しい物があるんだ」


俺は巨大サメの退治方法を説明するのに

必要な物をユイトルに伝えた。


「そんなので良いの?

簡単よ。すぐに用意できるわ」


── クルベットの家から戻ったユイトルは

俺が伝えた必要な物をすぐに用意してくれた。


「ユナ、サキ、ユイトル。

お前達には先に、

巨大サメを退治する方法を説明しておく。

率直な意見を聞かせてくれ」


……俺は3人に、思いついた

巨大サメの退治方法を説明した。


「僧侶様っ、これは大作戦だね!

この街の人達にも協力してもらうなんて!」


「凄いなっ! テルアキ!

この方法なら、いけるんじゃないか!?」


「私も協力するわ。

あとは、街の皆が何て言うか? ……ね」


──こうして俺は、

思いついた巨大サメの退治作戦を

ブレゼスの皆に説明し、

判断と協力を仰ぐ事にしたのであった……。

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