第18話 港の三姉妹と聖白の守り神

──3姉妹の長女、スキーユは

サンダーの魔法を撃った。

驚きを隠せない俺とユナをよそ目に

サンダーは海上の海鳥をかすめ、

海面に落下した。


「見てて! ……そろそろ来るわよ」


すると、落下した海鳥めがけて

大きな黒い影が近づいて来た。


……ザブーンッ!


その巨体は大きな口で海鳥を丸呑みし、

すぐに海中に潜って消えた。

その巨体は全長10mを超える事が

容易に想像できた。


「でかいっ!? スキーユさん、あれって

どのくらいの大きさなんですか?」


「ざっと15m位かしら。

正確に計測した人なんて誰も居ないけどね。


あの巨大サメのせいで

外洋に出られなくなって、

私達は巨大サメが入って来ない浅い所で

漁をするか、波止場から釣りをするか……

程度の漁業しか出来なくなったの」


「……えっと、魔物のことも含めて、

いろいろ聞いて良いですか?」


「ええ、何でもどうぞ」


「まず、サンダーの魔法についてです。

……びっくりしましたよ!

3姉妹の皆さん全員使えるんですか!?

覚える為の魔法の書は

どうやって手に入れたんですか!?」


「ええ、3人とも使えるわよ。

魔法の書は……、ユイトル、

あなたが貰ったのだから説明して」


「ええ。……あれは、3年位前かしらね。

ポッシの山道に山菜を取りに行ったら、

山道の入口で老人が倒れてたの。

何でもその老人は、

ロティールの街で仕事を引退した後、

山小屋を建ててひっそりと

暮らそうとしてたらしいんだけど、

水も食料も無くなってしまって、

ブレゼスに来る途中の道で

空腹で倒れてたのよ」


……俺、ユナ、サキは目を合わせる。


(……それっ!? セップさんじゃ!?)


「……で、港に運んで食事をあげて、

食料も恵んであげたのよ。

そしたら後日、お礼に……って

魔法の書『サンダー』をくれたのよ」


「でも、3姉妹の皆さんは漁師であって

魔女ではないでしょう?

どうしてその老人は

3姉妹の皆さんが魔法が使える

……なんて分かったんですか?」


「それも、その老人が言ったのよ。


『君達3人は魔法使いの魔力を持ってる、

人の適性を見る目には自信があるから、

騙されたと思って

これを読んで覚えてみなさい。

港で生活するなら電気の攻撃魔法は

有事の時に役立つだろう』


……って」


(……やっぱり! セップさんだっ!!)


「でも、セップさん……、いやその老人は

ブレゼスとロティールの魔法書店では

売ってない『サンダー』の魔法の書を

どうして持ってたんですか?」


「それはね。

街から山に引っ越す時に、

書庫に眠ってた家中の本を

ごっそり持ち出したらしいんだけど、

本が沢山あり過ぎて

その中に貴重な魔法の書があることに

気付いてなかったみたいよ。


山小屋で本の整理をしてたら見つけた

……と言ってたわ」


(セ、セップさん……)


「で、私達3姉妹が順番に

サンダーを覚えて、魔法の書を著して、

……を繰り返して

3人とも使えるようになったわけ」


「で、でも! もっと魔法の書を著して、

魔法書店に納品したりしないんですか?」


「私達は漁師であって

魔法書店員ではないわ。

そんな面倒なことしないわよ」


(……なっ!?

サンダーの魔法を独占してるっ!?)


俺とユナはその会話に、

目を見開いて、ただただ驚いていた……。


「……なるほど、分かりました。

次に巨大サメについてです」


「ええ、分かってることは

何でも答えるわ」


「巨大サメにサンダーを撃って

退治することはできないんですか?」


「それは試したけどダメだったわ。

海面に現れた時にサンダーを

直撃させても、致命傷にならずに、

すぐに海中に逃げていくの。

私達の魔力が足りないのか、

電撃が海水に拡散してしまうのか……。

少しはダメージを受けてる様には

見えるのだけどね」


「巨大サメに対して

他に試したことは何かありますか?」


「ええ。

網と罠で捕まえようとしたけど、

破られてダメ。

モリを沢山刺して倒そうとしたけど、

とても近づけなくてダメ。

弓矢で攻撃しても身体の表面に

矢が刺さるけど、ダメージ不足でダメ。

……普通の漁で出来ることは

一通り試したけどダメだったわね」


「街の入口に大きな銛が

飾られてましたが、アレを突き刺そう……

なんて事はしてないですよね?」


「……ふふ、それは無理ね。

アレは街の象徴的な飾りなの。

お祭りの時、力自慢大会で

持ち上げる為だけの物だわ。

長さ3m、重さ200kgを超える

防錆加工を施した鉄製よ」


「流石にそれは投げられませんね……」


(……この話で分かった事もある。


サンダーの魔法でも弓矢でも

少しはダメージを与えられるみたいだな。

攻撃力が足りてないだけで、

全く歯が立たない……訳ではなさそうだ)


俺は頭の中で状況を整理していると、

3姉妹の父で漁師長の

カルマールが話し始めた。


「さて、魔物の話は一旦終わりだな。

もう一人、俺達の大切な家族を紹介しよう。

クロビス、『オリオル』の食事を

持ってきてくれるか?」


「もう持ってきてるよ、父さん」


クロビスは商品にならない小さな魚や

形の悪い魚がいっぱいに入った樽を

運んできた。

ユナが不思議そうな顔で樽を見つめる……。


「えっと、ごれがお食事?

なんだか、アザラシのご飯みたいだね」


「ははっ。アザラシか。

それはちょっと残念だな。

『オリオル』ー! 今日の食事だーっ!」


カルマールは魚を掴み、海へ投げ入れた。

すると、大きな生物が海中から近づいて来た。

そしてその生物は

投げ入れられた魚を口に挟みながら、

5m程の長い首を海中から現した。

真っ白で神々しいその姿は

『聖白の守り神』と称されるのに

ふさわしい容姿だ。


(……なっ!? この生き物は一体!?

俺が元居た世界で、昔絶滅した恐竜の

首長竜みたいだぞっ!?)


「クウゥーーッ! クウゥーーッ!」


『オリオル』と呼ばれた首の長い生き物は

愛らしい声で鳴きながら、魚を頬張っている。


「はっはっ。驚いたかい?

こいつは『オリオル』。

希少な海獣の一種だな。他の街では


『ブレゼスの港を守る聖白の守り神』


なんて呼ばれているが、

俺達にとっては家族同然だ。

囲い込み漁を一緒に

手伝ってくれたりもするんだ」


そう言いながら、

カルマールはポンポンと魚を海に投げる。

オリオルは回転したりジャンプしたり……と

遊びながら魚を口でキャッチしている。


「きゃーっ!

オリオルちゃんって言うの!?

……可愛いっー!」


オリオルはそう叫ぶユナに

長い首を近づけ、頬を擦り寄せる。

ユナもそれに応えて頭を撫でた。


「もうっ!

なんて可愛いのっ。ヨシヨシッ!」


「オリオルが初対面の部外者に

なつくなんて珍しいな。

きっと気に入られたんだな。

こいつは賢くて、

俺達の言葉も理解するから、

話しかけてみるといいよ」


「そうなんですか!?

オリオルちゃん、凄いんだね!

ヨシヨシッ」


「クゥーーッ、クゥーーッ」


「えっと、じゃぁ……

オリオルちゃん、『4+3』はいくつ?」


「クックッゥー!」


「えぇっ!? 凄いっ!!

オリオルちゃん!『7』で正解っ!

計算も出来ちゃうのね!

なんて賢いのっ!? ヨシヨシッ!」


(……なっ!?

今の鳴き声! 『7』だったのかっ!?)


呆然とする俺にカルマールが尋ねる。


「ところでテルアキ君、

暫くこの街に滞在するのかい?」


「ええ、そのつもりです」


「なら、

ユイトルの店の2階を使うといい。

ちょうど何部屋か空いてるから、

自由に使ってくれ」


「本当ですか!?

ありがとうございます!」


──こうして俺達は

暫くこの街で滞在することになった。

ユイトルと一緒に

俺、ユナ、サキの3人は食事屋に戻る。


「なぁ、ユイトル、

俺達が昼に食べた魚のザバだけど、

どうしてロティールの街に

出回らないんだ?

あんなに美味い魚なら、

歩いて1日の隣街に出回っても

良さそうなものじゃないか?」


「……良い質問ね。

確かにその通りだけど、問題があってね。

ザバは足が早くて輸送出来ないの。

『ザバの生き腐れ』って言葉が

あるくらいなのよ」


……ユナが不思議そうな顔で聞き返す。


「足が早い……ってどういう事?

海の中で早く泳げるとか?」


ユイトルが涼しい顔で

ため息混じりに答える。


「……はぁ。

何にも知らないのね、このチビ女は」


(……っ!? チビ女って言った!?)


「まぁまぁ、ユイトル。

穏やかに頼むよ。ユナ、足が早いってのは、


『短時間ですぐに傷んでしまう』


……って意味だ」


「ふーん、テルアキは知ってるんだ?

なかなか見どころがあるわね。

……まぁ、そういうことよ、チビ女。

例えば、鮮度を保つために

費用をかけて氷を沢山用意して、

それをわざわざ1日かけて輸送して……

なんて事をしたら割に合わないのよ」


「あんなに美味しいお魚なのに……、

何だか残念だね。ロティールでも

食べられたら良いのになぁ」


「全く、欲求に素直な女ね。

でもそれは無理なのよ。諦めなさい」


(ザバが傷まない様にできたら

ロティールでも食べられれるよな。

こんなに素晴らしい食材、

……何とか問題を解決できないものか?)


「……さて、着いたわね。

2階にある部屋の鍵はこれよ。

外の階段を上れば部屋に直接入れるから、

1階の私と食事屋の事は

気にせず出入りしてね」


「ユイトル、ありがとう!」


──こうして俺達はブレゼスの街に滞在し

巨大ザメ退治を検討する事になった。

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