第20話 作戦会議

──俺は巨大サメを退治する方法を

説明する為、ブレゼスの主要関係者に

集合してもらった。


街の代表クルベット、漁師長カルマールと

その3姉妹スキーユ、クロビス、ユイトル、

そして主な漁船長達だ。


「皆さん、巨大サメを退治する方法を

考えてみました。今から説明しますので、

率直な意見を下さい」


「テルアキ君、

あの巨大サメを退治するなんて、

本当に可能なのか?」


クルベットが半信半疑の表情で問う。

他の皆も同様、不安げな表情をしている。


「……はい。

まずはこちらをご覧ください。

ユイトル、水槽を持ってきてくれ」


ユイトルは俺が事前に頼んだ物を

用意してくれた。

生きた魚が1匹入った水槽、魚をすくうタモ、

焼き魚用の金串、まな板……だ。


「巨大サメ退治のステップは次の4つです。


1、毒入りの餌で麻痺させる。

2、『ムーブ』の魔法で空中に浮遊させる

3、巨大サメに大きな鉄の槍を撃ち込む

4、『サンダー』の魔法でトドメを刺す


……です。


この水槽には全長40cm位の

生きたザバが入ってます。

皆さん、これを海で泳ぐ巨大サメだと

思って見ていて下さい」


俺はユイトルと水槽の前に立ち、

説明を続ける。


「ユイトル、まず水中のザバに

サンダーを弱めに撃ってくれ」


「ええ。……サンダー」


……ビビビッ!


サンダーによる電撃は

水槽の下部にいるザバにたどり着く前に

水中で拡散してしまった。

水槽全体に電撃が走ったため、

ザバは少し痙攣したが、

すぐに元気に泳ぎ始めた。


「このように、

海中の巨大サメにサンダーを撃っても、

大きなダメージは与えられません。

でも、今からやるように巨大サメに

電撃をよく通す金属の槍を刺して、

空中に浮かせた状態でサンダーを

撃ったらどうなるか……?

見ていて下さい。」


次に俺はタモでザバをすくい、

まな板の上で金串を刺し、

ムーブを使って空中に浮かした。


「ユイトル、先と同じ強さで

サンダーを撃ってくれ」


「ええ。……サンダー」


……ビビビッ!!


宙に浮いたザバを電撃が包む。

金串を通して体内にも電撃が走り、

身体の内側からダメージを受けたザバは

一瞬で死んで動かなくなった。


「このように、

金属の槍を通して、電撃を直接体内に

送る事で大ダメージを与えられます」


「なるほど……、

こうして巨大サメを退治するのか。

テルアキ君、概要は分かった。

具体的な方法、ステップ1~4かな。

説明してくれ」


「はい、クルベットさん。

まずはステップ1、

毒入りの餌で麻痺させる方法です。


巨大サメは肉を見つけると

丸呑みで食べます。

そこで、強力な麻痺毒を持った毒キノコを

ミンチ肉で作った餌の中に混ぜて

食べさせます」


「強力な麻痺毒を持った毒キノコ……って、

そんな都合の良いモノがあるのかい?」


「はい。

ポッシの山道に生えている

『トルペ茸』です。

胞子を少し吸っただけでも、

気絶てしまう強力な毒を持ってます。

そうだよな? サキ」


「……ああ。

近寄るだけでも危険な毒キノコだ。

あんなモノまるごと食ったら、

どんな巨体でもひとたまりもないぞ!」


「巨大サメには、これから毎日

決まった時間、場所に餌を与えて、

そこに餌があることを覚えさせます。

そして、作戦決行の日には

毒キノコ入りの餌を食べさせます」


「なるほど……。

ただ、そんなに危険な毒キノコなら

採集と調理にはしっかり防毒して

気をつける必要があるな」


「はい。作業は最大限の防毒をして

慎重に行います。

……続いて、ステップ2

ムーブの魔法で空中に浮遊させる

方法です。これは簡単です。


俺が小舟に乗って

麻痺した巨大サメに近づいて、

ムーブの魔法で空中に浮かせます。

これは波の影響を無くして、

次のステップ3で撃ち込む

槍を狙いやすくする為です」


このステップ2ついては

質問が出なかったので俺は説明を続けた。


「続いてステップ3、

巨大サメに大きな鉄の槍を撃ち込む……

方法です」


ここで質問をしたのは3姉妹の次女、

漁を担当しているクロビスだ。


「そこだよ、テルアキ。

ザバ程度の大きさなら金串で上手くいくが、

巨大サメとなると

私達が投げられるモリじゃ、

大きさが全然足りないぞ?」


「それについては、

お祭りの力自慢大会で使ってる街の象徴、

……あの大きな銛を使います。

ユナ、お前ならムーブで銛を

空高く浮かせた後、ムーブを解除して

そのまま落下させる事が出来るよな?」


「うん、練習はしてみたいけど、

出来ると思うよ」


「……何っ!?

魔法の力であの200kgを超える銛を

空高く浮かせられるのか!?」


「はい。

あの銛を30m位の高さに浮かせた後、

落下させて巨大サメを串刺しにします。

文献によると……、

高さ30mから銛が落下した場合、

刺さるまでの時間は約2.5秒、

刺さる時の速さは時速約90㎞です」


「へぇ……。30mの高さから落とすだけで

そんな速さになるんだなっ」


「はい。ロティールの資料館で読んだ

物理学の本に計算方法が記されてました」


「僧侶様、凄いっ。

お勉強好きなんだね!」


「……まあな。続いてステップ4、

サンダーの魔法でトドメを刺す……

方法です。


宙に浮いた串刺しの巨大サメに対して、

3姉妹の皆さんがサンダーを撃ちます。

ただ、威力は大きい方が良いので、

サンダーの魔法の書を

1冊著してもらって、ユナにも

サンダーを撃ってもらいます」


「うん、僧侶様っ! 私、頑張るよっ」


ここで3姉妹の長女、

スキーユが問題を提起する。


「ただ、誰が魔法の書を著すのか?

……が問題ね。

私は毎日の事務仕事があるし、

クロビスは書き仕事は苦手よね。

……となると、ユイトルかしら?」


「ちょっと! お姉ちゃん!?

私だってお店の仕事してるでしょ!

なのに何で私がこのチビ女の為に

魔法の書を著さないといけないのよっ!?」


(……ユ、ユイトルちゃん、酷いよぉ)


俺は予想外の問題発生に戸惑った……。


「そ、そこで問題が出るとは

思ってなかったですが……。

ユイトル、俺からも頼む。

ユナの為に……、いや、この街の為に

魔法の書を1冊著してくれないか?」


俺は真剣な眼差しで

ユイトルの顔を見つめて頼んだ。


(……ちょっ!? テルアキ!

そんな風に見つめられたら、

断れないじゃないっ!?)


ユイトルが照れながら

目をそらして答える。


「……し、仕方ないわね。

テルアキの頼みなら……やってあげるわよ。

チビ女、この私が魔法の書を

著してあげるんだから、

しっかり習得しなさいよっ!」


(ユイトルちゃん、

僧侶様のお願いなら聞いちゃうんだ……)


「……うん、ユイトルちゃん、ありがとう。

しっかり習得して、いっぱい練習して、

強いサンダーを撃てるように頑張るよっ」


──こうして巨大サメ退治作戦は

ブレゼスの皆に了承され、

実行される事となった。


「うむ、ではテルアキ君、

皆に具体的な指示を貰えるかい?」


「分かりました、クルベットさん

まずユイトルは『サンダー』の

魔法の書を著してくれ。

何日かかりそうだ?」


「そうね……、2日あれば出来るわよ」


「では、よろしく頼むよ。

次に、ユナは銛を浮遊させる練習だ。

サンダーの魔法の書が出来たら

習得と熟練度上げも同時進行な。

……これに3日費やそう」


「分かったよ、僧侶様」


俺は日数に制約がある事項を先に決めた。

この時点で作戦決行までに必要な日数は

最短で5日となり、皆も納得した。


「では皆さん、

作戦決行は5日後とします」


『おぉ! 5日後だな!』

『遂にあの巨大サメを退治できるんだな!』


船長達が希望に満ちた表情を見せる。

周囲の皆が賑わう中、俺は指示を続ける。


「クロビスさんと船長さん達は、

毒入り餌を作る為の

材料調達をお願いします。

5日間、毎日ザバ10匹分位の魚肉が

必要です。魚を捕まえて水槽かイケスで

活かせておいて貰えますか?」


「わかった。お安い御用だ」


「サキは『トルペ茸』を頼む。

採取は作戦決行の前日だ。

明日からは『トルペ茸』が

生えてる場所の確認をしてくれ。

……あと、万が一の事故に備えて

解毒用のハーブも一緒に頼む」


「OKだ。任せろ、テルアキ」


この指示に感心を示したのは

カルマールだ。


「テルアキ君、

万が一に備えて解毒用のハーブも

ちゃんと用意するとは……、

君は立案者として慎重で優秀だね」


「……ええ、何が起きるか

分かりませんので、念の為です」


「それに街の象徴……、あの銛を使って

この街を救ってくれると言うのが

我々にとってどんなに嬉しい事か。

これは素晴らしい作戦だよ!

……考えてくれてありがとう!」


「いえ、そんな……。

それでは皆さん、よろしくお願いします!

皆であの巨大サメを退治しましょう!」


『おおぉっ!』


街の皆が1つにまとまる……。

俺はこの皆の団結に

何とも言えない興奮と満足を感じた。


──こうして巨大サメの退治作戦が

動き始めるのであった。

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