第15話 パーティ

──俺達は山小屋を囲んだ魔物を退治した。

誰も怪我をしていない事を確認し、

ほっとひと息をつく。


……ズドンッ、ズドンッ


すると、遠くの方から

不気味な足音が響いてきた。


「デカいのが近づいてるな……。

ユナ、これを使え」


俺はユナにMP回復薬を渡し、

自分にも使用した。


「ボレ、モリーユ、今度のはヤバい!

お前達は小屋の中に居るんだ!」


サキは2人を小屋の中に避難させる。


「うん! サキ姉ちゃん、気をつけてね!」


「テルアキ、ユナ、すまないな。

アタシ達の山小屋を守る

戦いに巻き込んで……」


「気にするな。人助けは僧侶の仕事だ」

「うん、サキちゃん、大丈夫だよ」


……ズドンッ、ズドンッ


魔物が姿を現す。

高さ5m程、巨大なカマキリの魔物だ。


「カ、カマキリさんっ!?

……おっきい!?」


……ギシシシッ!


巨大カマキリは、

羽根をバタつかせながら飛び上がり、

ユナに向かって接近し、

大きな鎌を振り下ろした。


……ブオォーーン!!


「きゃぁっ!」


「ユナッ! 危ないっ!

プロテクトウォール!」


……バチィィン!!


俺は防御の壁で

巨大カマキリの大きな鎌を受け止めた。


「……なっ!?

こんなのまともに喰らったら

ひとたまりもないなっ!?」


サキが鎌の攻撃に驚きながら、

反撃の矢を放つ。


……カーンッ!


巨大カマキリの正面に飛んだ矢は、

鋭い鎌によって払いと落とされた。


「これならどうだ! エアー!」


……カンッ! カンッ!


サキの矢と同じく、空気の刃も

鋭い鎌によって防がれてしまった。


「私も行くよ! ファイア!!」


……ブオォォーン!


巨大カマキリの足元から腹部にかけて

魔力の炎が襲うが、巨大カマキリは

羽根をバタつかせ上にジャンプし、

風圧で炎を消しながら上手く交わした。


俺は状況を確認しながら作戦を考える……。


(厄介なのは鎌と羽根だな。

まずは羽根を破壊して

飛べなくするべきか……)


「ユナ! サキ!

まずはコイツの羽根を何とかするぞ!

飛べなくすれば対処しやすいからな!」


「うん! 僧侶様!」


「わかった!

……で、どうするんだ!?」


「合図をしたら、

ユナは先と同じ様にファイアを撃って

コイツを上にジャンプさせてくれ!」


「分かったよ、僧侶様!」


「サキは、俺がスピードの魔法で

お前の素早さを上げるから、

コイツが羽根を使って飛んでる間に、

高速移動しながら多方向から

コイツの羽根を矢で撃って壊してくれ!」


「高速移動って……! 魔法の力で

そんなに速く動けるのかよ!?」


「あぁ!

お前の元々の素早さに

スピードの効果が重なれば、

きっと大丈夫だ!」


「でも、僧侶様っ? コイツが飛べるなら、

サキちゃんの矢も空中で

避けられちゃうんじゃないの?」


「それは問題ない!

カマキリが飛ぶ時ってのは……、


足でシャンプして

羽根を使ってそのまま真っ直ぐ飛ぶ


……程度の飛行能力で、

羽根による上下移動や旋回みたいな

飛行は殆どできないんだ!」


「そうなんだね!?

流石、僧侶様っ! よく知ってるね!」


「あぁ! まかせろ!

以前、ロティールの資料館で

昆虫図鑑をコンプリート読破したからな!」


「ふーん、そうなんだ?

……って、ちょっと待ってよ!! それっ!!

私が資料館で魔女認定試験の

勉強してた時でしょ!?

私が真面目に勉強してた隣で

何の本を読んでたのよっ!!」


「……何!? って、生物学の勉強だろ!

昆虫の生態ってのは学ぶ事が多いんだぞ!」


会話の途中、巨大カマキリが

大きな鎌をサキに向かって振り下ろす。


……ブオォーーン!!


「どわっ!」


サキは後ろに飛び、

ギリギリの所で鎌の攻撃を回避した。


「おいっ、お前ら! 戦闘中だぞ!

ふざけてる場合か!?」


「すまないっ、サキ!

ユナッ! まずはコイツを倒すのが先だ!

……昆虫の生物学は、

その後でみっちり講義してやるからなっ!」


「それは要らないからっ!

でもっ! コイツを倒すのは賛成だよっ!」


「よし! 2人とも、行くぞ!

……スピード!」


スピードを受けたサキの体が

淡く白い光に包まれる。


(……何だ? これが魔法の力!?

体が……軽い!? これならやれるぞ!)


「ファイア!」


先程と同様、炎の攻撃が

巨大カマキリの足元から腹部を襲い、

巨大カマキリは羽根を広げてジャンプした。


……ブオォォーン!


「よし! やってやる!」


スピードの効果を受けたサキが

目にも止まらぬ早さで高速移動しながら

巨大カマキリの羽根に向けて

多方向から矢を放った。


……それはまるで

複数人が異なる場所から

一斉に矢を放った様な光景に見えた。

同時に放たれた様に見えた矢は、

その多くが巨大カマキリの羽根を射抜き、

巨大カマキリは飛行能力を失い、

フラフラと着地した。


(……マジかっ!? これが魔法の力っ!?

こんなに素早く動けるなんて!)


「サキちゃん!? 凄い!!」


……ギギギィッ!!


巨大カマキリは破壊された羽根を

バタつかせながらもがいている。

俺は巨大カマキリがもがいている間に

その側方へ走って移動した。


「よし! 当たれよ!? エアー!!」


……バシュ!


……グギギィッ!!


鋭い鎌の可動範囲外に撃ち込んだエアーは

巨大カマキリの腹部に命中し、

ダメージを与えた。

すると、巨大カマキリは俺に向かって

脚を使って突進してきた。


「どうやらもう飛べないようだなっ!?

プロテクトウォール!」


……バーンッ!


俺は突進からの鎌による攻撃を

防御の壁で防いだ。


「ユナッ! 次はブリサードで

こいつの脚を凍らせてくれ!


サキは、もう一度スピードをかけるから、

コイツの背後から接近して

腹部から頭にかけて短剣で斬り込むんだ!

鎌は後ろには振れないらかなっ!」


「わかった、テルアキ!」


「行くよっ!……ブリザード!」


巨大カマキリの脚が数本凍りつく。

脚が動かなくなった巨大カマキリは

体勢を崩し、その場で動く脚だけを使い、

前進を試みるが、移動できないでいる。


「サキ! 行くぞ!……スピード!」


スピードを受けたサキの体が

再び淡く白い光に包まれる。


「全く! 魔法ってのは凄いんだな!」


スピードを受けたサキは

トントンッ……と軽く足踏みをした後、

巨大カマキリの背後から

凄まじい速さで斬り込んだ。


……シュタッ!! ……ババババッ!


腹部から胸部に向かって

瞬時に何度も斬撃を叩き込み、

巨大カマキリの体液が周囲に飛び散る。


……ギギャァッ!


サキはそのままの勢いでジャンプし、

巨大カマキリ頭部の背後を取った。


「これで終わりだ!」


サキが放つ最後の剣撃が

巨大カマキリの頭部と胸部の細い節間を

正確に捉える。


──スパーンッ!!


サキの斬撃で

巨大カマキリの頭部が宙に舞い、

……そして、その身体は消滅した。


(これまで魔物とは

1人で戦うことが多かったが、

仲間と協力する事でこんなに大きな魔物も

倒せるようになるんだな……)


呆然と立ち尽くすサキに

俺とユナが声を掛ける。


「サキちゃん! 凄かったよ!」


「サキ! やったな!」


「あぁ! ありがとなっ!」


3人でハイタッチをして

喜びを分かち合う。

その姿を見て小屋から

ボレとモリーユが小屋から駆け出してきた。


「サキ姉ちゃん!

あの凄い技は何なの!?

弓でバババッって撃ったヤツと、

一気にバシバシ斬り込んだヤツ!!」


「あれはスピードっていう

素早さを上げる魔法を受けてやったんだ」


「魔法の力とサキ姉ちゃんの力の

合体技なんだね! 凄ーい!!

技の名前とかあるのっ!?」


見たことの無い鮮やかな攻撃に

ボレとモリーユは興奮している様子だ。


「技の名前か……。

テルアキ、どうなんだ?」


「……そんなの、考えてなかったな」


「ならテルアキが決めてくれよ。

お前の魔法で出来た技だからな。

まずは弓で素早く撃つ方の名前からだ」


「そうか、どうするかな。

分かりやすい名前の方が良いよな……」


ボレとモリーユは

素晴らしい技の名前に期待を寄せ、

目を輝かせている。

サキもまんざらでは無い様子だ。


「よし、決めたぞ! 技の名前は……」



「技の名前はっ!?」



「『ちょこまか蜂の巣アロー』 だ!」



(……なっ!?)


予想外のネーミングに

サキ、ボレ、モリーユは驚愕し

目を見開いている……。


「……どうだ? 気に入ったか?」


「……って、おおぃ!! 待て待て待てっ!

どう考えてもダサ過ぎるだろっ!

言いにくいだろっ!

しかも、『アロー』だけ

言語のイントネーション違うしっ!!

どんだけ頭悪そうなネーミングだよっ!」


「そうか?

良い名前だと思うんだが……」


「ああっ、もういい!ユナ!

素早く斬り込む方の名前は

お前が付けろっ!」


「……えっ? 良いの?

でも、実はもう思いついちゃってるんだ。

発表するねっ」


「ユナ、カッコイイのを頼むぞ……」



「技の名前は……、シンプルに……」



「シンプルに……、どんな名前だ!?」



「『めっちゃり』 だよ!」


(……なっ、ユナッ! お前もかっ!?

お前もなのかっ!?)


個性的過ぎるネーミングに

先程と同じく驚愕し、あんぐりと口を開ける

サキ、ボレ、モリーユの3人……。


「あはは、流石ユナだなっ。

伝わりやすいネーミングだ。俺は好きだぞ」


「えへへ。僧侶様、ありがとう!」


(この2人、最悪だっーー!)


──こうして、魔法を合わせた

鮮やかなサキの連携技に、

個性的な名前が付いたのであった……。

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