第14話 山の危険

──俺達は茶を飲みながら

サキ、セップと話をしていた。


「ところでセップさん、

あの壁に貼ってある『生活の心得』って

何ですか?」


「あれは、ココで生活する子供達の

ルールみたいなものじゃな。

毎日、子供達に読ませておる。

サキ、いつもの様に読んでみてくれ」


「はい、セップさん。


1、人の体と心は傷つけない。

2、人から物を奪う時は感謝を忘れず、

余裕のある者から最低限の量で行う。

3、人としての道を外れてはならない。


です!」


(……えぇっ!? 何か、2番と3番が

矛盾してるような気がっ!?)


「……という訳だ。 さっきの強奪行為も

アタシは短剣を抜いたが、

お前達を傷つけるつもりはなかったぞ」


(……いや、何か納得出来ない!?)


「ほっほっ。

意見は様々あるじやゃろう。

だが、孤児が成人して街で生活するには

それなりに度胸と積極性が必要でな。

そう言うつもりで言い聞かせておる。


勿論、成人してからの盗みは御法度じゃ。

それはココを出ていく時に

しっかりと伝えておるぞ」


「……そうなんですね」


(いやっ、

それでも何だか納得できない!?)


──話をしていると、

10歳位の男の子と女の子が

慌てた様子で小屋に入ってきた。


「『ボレ』、『モリーユ』、どうした?」


……男の子は『ボレ』、

女の子は『モリーユ』と言う名前の様だ。


「セップさん! 大変!

『クラン』がっ……、麻痺毒キノコの

トルペ茸の胞子を吸っちゃった!」


「何っ! それは本当か?」


どうやら、『クラン』という名前の

女の子がキノコの毒に

侵されてしまったらしい。


「うん! 3人でキノコ採りをしてたら

クランが転んで……、

そしたら、そこにトルペ茸が生えてて

顔に当たっちゃったんだ!

その後、苦しみ出して……」


「サキ、解毒のハーブを

持ってきてくれ。ボレとモリーユは、

クランをココに運びなさい」


「分かりました!」


クランは意識もうろうで苦しんでいる。

セップは煎じたハーブを湯に入れ、

その薬液をゆっくりとクランに飲ませる。


「即効性は無いからのう。

暫くは様子見じゃな」


「あの……、俺の魔法『キュア』を

かけてみても良いですか?

状態異常に効く魔法です」


「おぉ、それはぜひ頼む。

解毒のハーブでは完治まで

まる1日はかかるからのう」


「クランちゃん、いくよ。

……キュア!」


クランの体が優しい光に包まれる。

すると、クランの表情が少し明るくなった。


「……お兄ちゃん、ありがとう。

今の温かいので、少し楽になったよ」


その後、2回キュアをかけたが

クランの症状は変わらなかった。


(くっ、完治できない。

俺のキュアでは威力が弱いのか?

もっと魔力と熟練度を上げないと……)


クランの治療を終え、

ボレとモリーユは

キノコ狩りの続きに出て行き、

俺とユナは、サキと外で話をしていた。


「テルアキ、クランの治療してくれて

ありがとうな」


「いや、完治出来なかったし。

まだまだ修行が足りない……と感じたよ」


「ところで、

サキちゃんは16歳なんだよね?

この国では15歳で成人してる事になるけど、

……これからどうするか決めてるの?」


(……なっ!?

『サキちゃん』って呼んだ!?)


サキの事を遠慮なく『ちゃん』付けで

呼ぶユナの態度に、俺もサキと驚く……。


「……おい、ユナ。

お前は何でアタシを

『ちゃん』で呼んでるんだ?」


「うん? 私15歳でサキちゃんと歳近いし。

呼びやすいかなっ? ……と思って」


「……サキ、諦めろ。

ユナはこういう性格なんだ」


「ふん。まあいい。

そろそろココを出ていかないとな。

街で狩人の登録でもして

生きていくつもりだ」


「そっか……。サキちゃんなら

弓も上手そうだし、やって行けそうだね」


「まぁ、ぼちぼちやっていくさ。

……さてと、お喋りは終わりだな。

正面から魔物の気配だ。これは、

巨大化したイモムシの群れ……だろうな」


すると、後方から

ボレとモリーユの2人が走ってきた。


「サキ姉ちゃん!

後ろの方! 左右から魔物がやってくる!」


「何っ!? 正面と、左右の後方から

同時にだとっ!?」


「うん!

右後方は木の人形みたいな魔物が数体、

左後方は巨大アリの群れだよ」


「近頃魔物は増えているが、

こんなのは初めてだなっ。

ボレ、モリーユ! 武器を取ってこい!

テルアキ、ユナ、一緒に戦ってくれるか?」


「勿論だ!」


武器を持ったボレ、モリーユが戻る。

ボレはボウガン、

モリーユは斧を持っている。


「僕とモリーユも戦うよ!」


「2人とも戦えるの!?」


「うん! 僕は武器作りと扱い方を

セップさんから教わってるんだ。

このボウガンも自分で作ったんだよ!」


「凄い! モリーユちゃんも!?」


「私は力が強いみたいで……、

農作業で畑を耕すのが好きなんですけど、

戦闘の時は斧で戦います!」


「そうだよっ。

モリーユは腕力が凄くって、僕達の中では、


『メスゴリラ』!


……って恐れられてるんだ!」


……ドカッ!!


「ぐわぁ!!」


モリーユの拳がボレを地面に沈める。


「あんたは余計な事言わないのっ!

ほらっ! そんな所で寝てないで、

さっさと起きなさい! 戦うわよ!」


(いやっ、たった今ボレちゃんを寝かせたのは

モリーユちゃんのような気がっ!?)


そんなやり取りの中、

俺は戦力分配を考えていた。


「さて、戦力をどう分けるかだな……。

サキ、正面のイモムシは1人で行けるか?

お前の弓と短剣なら

柔らかい体に効きそうだ」


「任せろ、1人で問題ない」


「なら、俺は右後方の木の魔物だな。

エアーで戦えるだろう。


ユナ、ボレ、モリーユは3人で

左後方のアリを頼む。

ユナ、アリは寒さに弱いから

ブリザードで戦うんだぞ」


「うん、分かったよ、僧侶様っ」


──3箇所でそれぞれの戦いが始まる。

正面、サキvs巨大イモムシ


「1、2、3、……全部で4匹か」


最初に茂みから出てきた巨大イモムシが

サキに向かって口から糸を吐き出した。


サキは横に飛んで側転しながら回避し、

着地と同時に矢を放つ。


……バシッ!


矢は巨大イモムシの胴体を貫通し、

巨大イモムシは消滅した。


「まず1匹!」


続いて別の巨大イモムシが

サキに飛びかかってくる。

サキは短剣を抜きながら、

交わすと同時に短剣を胴体に突き刺した。


巨大イモムシは

飛びかかる自身の勢いで

そのまま斬られる結果となり……消滅した。


「2匹!」


続いてサキは

近くにいた巨大イモムシに駆け寄り、

ジャンプして短剣を頭部に突き刺した。


「3匹!」


その時、最後に残った巨大イモムシが

側方からサキに向かって

粘液を吐き出したが、

サキは予測していたかの様に難なく回避し、

狙いすまして矢を放った。


「4匹っと。よし、これで終わったな」


こうしてサキは

危なげなく魔物を退治した。


──右後方、テルアキvs木の魔物


「接近されると厄介だからな。

先制でいくぞ!

……エアー! そっちも……エアー!」


茂みの中から近付いてくる木の魔物に

空気の刃が命中し、

木の魔物はバラバラと崩れて消滅した。


……次の瞬間、

茂みの中からテルアキに向かって

木の魔物が飛びかかって来た。


「プロテクトウォール!」


──バンッ!


木の魔物は防御の壁に弾き返され、

宙に舞った。


「エアー!」


テルアキの魔法が命中し、

木の魔物は消滅した。


「もう1匹! そこに居るな!」


茂みに隠れていた木の魔物は

テルアキに気付かれると、

そのまま逃げて行った。

こうしてテルアキも

危なげなく魔物を退ぞけた。


──左後方、

ユナ・ボレ・モリーユvs巨大アリ


斧を構えたモリーユが言う。


「ボレ!

アリは接近攻撃しか出来ないから

近づかれる前にアンタのボウガンで

どれだけ倒せるか? ……が重要よ!

しっかり狙って!」


「分かってるよ!」


すると、茂みの中から

5匹の巨大アリが順に姿を現した。


「まず私から! ブリザード!」


ユナのブリザードが巨大アリの身体を

凍らした……が、ダメージが足りず

消滅はしなかった。


──バシッ!


ボレが放ったボウガンの矢が

凍りついた巨大アリを射抜き、

巨大アリは消滅した。


「ユナさん!

動きを止めてくれたら狙うのは簡単だよ!

どんどん凍らせて!」


「オッケー、ボレちゃん!

……ブリザード! ……ブリザード!」


──バシッ! バシッ!


同じ要領で

更に2匹の巨大アリが消滅した。


「ブリザード!」


3人に近付いてきた巨大アリを凍らせ、

今度はモリーユが

その身体を斧で叩き割った。


──ズドンッ!


「これで最後! ……ブリザード!」


最後の1匹もモリーユが

斧でトドメを刺した。


最初に戦いを終えたサキは、

他の不利な戦闘に加勢すべく

2箇所の戦況を確認していた。

しかし、どちらも間もなく戦闘を終えた。


(……テルアキの奴!?

これはただの偶然か?

それとも、戦闘がこうなると

分かってて戦力を分配したのか?


ボレとモリーユは凍らせた

巨大アリに攻撃しただけだった……。

子供2人が最も安全に戦えていたぞっ!?)


俺達は安堵の笑顔を浮かべ、

中央に集合して皆でハイタッチをしながら

勝利を喜ぶ。


「よし、皆終わったみたいだな」


「やったね! 皆っ!!」


──こうして俺達は魔物の包囲から

山小屋を守る事が出来た。

しかしこの後、更なる脅威が

山小屋を襲うことになる……。

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