第16話 仲間

──俺達は巨大カマキリを退治し、

安堵のひと時が流れていた。

山小屋からセップが出てくる。


「テルアキ、ユナ、サキ、

ご苦労じゃったな。

この山小屋を守ってくれた事、

礼を言わせてもらうぞ」


「いえ、当然の事です」


「今日は戦闘で疲れたであろう。

大したもてなしはできぬが、

今夜はここで休んで行くと良い」


「わぁ、良いんですか?

ありがとうございますっ!

サキちゃん、一緒に寝よー!」


「馬鹿かお前はっ!

何でそうなるんだよ!!」


「ほっほっ。ユナ、

サキと仲良くしてやってくれ」


──こうして俺とユナは、

セップの山小屋で一晩泊まる事になった。

夕食を終え、夜を迎える。

俺とユナは警戒の為、

山小屋の周囲を見回りしていた。


「僧侶様、ココは星が綺麗だね」


「ああ、そうだな。

街に比べると明かりが少ないからな。

ちょうどあの辺りに

2人座れそうな大きな木の枝があるな。

上って星でも眺めよう」


俺はユナの腕を掴み、

ムーブを使って木に上り、

大きな枝に座った。

2人で星を眺めて話をする。


「僧侶様? 端っこに近いと怖いから、

……もう少しそっちに寄るね」


ユナは俺と肩が触れ合う位の位置に

距離を縮めた。


(……なっ!? ち……近いっ!?)


俺は緊張と喜びを悟られないように、

星空を見上げる。

ユナが会話を続ける。


「この綺麗な星空も、

魔物が増えたら安心して

見られなくなっちゃうんだね」


「そうだな。俺に魔王討伐の協力が

どこまでできるか分からないけど、

少しでも役立てるよう頑張らないとな」


「僧侶様ならきっと大丈夫だよ。

すっごく強くなって……、勇者様と一緒に

魔王をやっつけちゃったりして」


「おいおい、簡単に言うなよ。

でも今日、クランの毒の治療をして

自分の力不足を思い知ったよ。

まだまだ修業と経験を詰まないとな」


「うん、そうだね。

僧侶様が頑張るなら、私ももっと頑張るよ。

目指せ! 大魔法使い!! みたいな」


「ははっ。そうなると良いな。

でも、今日俺は1つ決めた事があるんだ」


「何を決めたの?」


「魔法は、

キャラクターLvに応じた『魔力』と

魔法の使用回数に応じた『熟練度』を

上げることで威力が増すだろう?」


「うん、そうだね」


「だから、俺は今日から毎晩眠る前に、

MPが無くなるまで魔法を使って

熟練度を上げていこうと思うんだ。


そうしたら、毎日少しずつでも

『熟練度』を上げられるだろう?」


「そっか。努力の積み重ねは大切だもんね。

そういう努力ができるのは凄いなぁ。

……ねぇ、僧侶様?」


「うん? 何だ?」


「何か……、カッコイイよっ」


ユナの笑顔が俺の心に突き刺さる。


(……なっ!? か、可愛いっ!?)


「……ば、馬鹿っ!

そういう台詞をいきなり言うんじゃない!」


「あはは。

僧侶様、ちょっと照れてるぅー」


ユナは人差し指で俺の胸元を

ツンツンと押しながら笑顔を見せる。


「……あ! 当たり前だろっ。

お前みたいな可愛い女の子に、

そんな事を言われてっ!

……普通で居られるかっ!」


「わわわっ! 僧侶様こそ、

いきなり何言っちゃってるのっ!?」


「お返しだよ。どうだ?

不意にこんな事を言われたら照れるだろ?」


「……もぅっ! 僧侶様の意地悪っ!」


ユナは顔を赤くし、下を向く……。


(もぅっ、僧侶様、

『可愛い女の子』だなんて!

……ズルイよっ)


「ははっ。

さて、そろそろ山小屋に戻るか。

周囲に魔物も居ないみたいだしな」


──その頃、

サキはセップの部屋の前に居た。


「セップさん、サキです。

お話したい事があるのですが……」


「サキか? 入りなさい」


……ガチャ。

サキが扉を開けて部屋に入る。


「どうかしたかの?

こんな夜に改まって……」


「セップさん、あの、アタシ……。

ココを出て行こうと思います」


「そうか。もう成人の年齢を超えたからな。

愚問かも知れぬが、

ココを出てどうするのじゃ?」


「はい、あいつら……、テルアキとユナに

ついて行こうと思います」


「テルアキとユナは何と言っておる?」


「……いえ、

まだ2人には話していません」


「そうか。良い返事が貰えると良いな。

ワシの方は了解じゃ。

そろそろ2人も戻って来るじゃろう。

早速、話してみると良い」


俺とユナは周囲の見回りを終え、

セップの部屋に戻った。


「セップさん、ただ今戻りました」


「テルアキ、ユナ、入りなさい」


2人で部屋の中に入る。


「周囲に魔物は居ませんでした」


「うむ、ご苦労じゃったな。

テルアキ、ユナ……、

サキから大切な話があるそうじゃ」


「えっ? そうなんですか?

サキ、どうかしたのか?」


「あ、あぁ……、その、何て言うか……」


「うん?

どうしたの? サキちゃん」


サキは少し照れながら、

目を閉じ、下を向いて大きな声を出した。


「……あぁっ、もぅっ! ……頼むっ!

アタシをっ、お前らの仲間にしてくれ!

お前らと一緒に行きたいんだよっ!」


「えっ!?」


「サ、サキちゃん!?」


俺とユナは互いの表情を見た。

それだけで答えの確認は充分だった。


「サキ! そう言ってくれてありがとうな。

これからよろしく頼むぞ!」


「わーいっ、サキちゃん! 大好きー!」


「わっ、ユナ! 抱きつくなっ!」


3人のやりとりを見ていたセップも

喜びの表情を浮かべている。


「ほっほっ。サキ、良かったのう」


「セップさん、アタシ、アタシ……」


「サキ、皆まで言うな。

成人になれば出ていくのが

ココの決まりじゃ」


「うぅ……セップさん…。

今まで……育ててくれて

ありがとうございましたっ!」


「……うむ。そのひと言だけで充分じゃの。

サキ、お主は優しい子じゃ。

今まで小さな子供達の世話を

沢山してくれてありがとうな。

これからお主には

様々な出会いがあるじゃろう。


お主を大切に想う者や愛する者……、

お主が大切に想う者や愛する者……、


それら全てがお主の宝じゃ。

出会いと人を大切にな。

……いつか、お主に大切な家族が出来て、

儂に会わせてくれる日が来ることを

楽しみにしておるぞ」


「……うぅ、セップさん。分かりました!」


「テルアキ、ユナ、

サキの事をよろしく頼むな」


「はい! セップさん」


「他の子供達には明朝伝えようかの。

今夜はゆっくり休むと良い」


「わーいっ! サキちゃん! 一緒に寝よー!」


「だからっ! 何でそうなるんだよ!」


──翌朝、セップは子供達を集合させた。


「みんな、おはよう。

突然じゃが、サキの話を聞いてくれ」


サキは皆の前で深呼吸し、

ゆっくり話し始める。


「皆……、いきなりで済まないけど、

アタシはココを出ていくことにした。

これからは、テルアキ、ユナと3人で

冒険をしようと思う」


「えぇっ!? サキ姉ちゃん、

行っちゃうの!?」


「そんなっ! 寂しいよっ!!」


子供達に囲まれるサキ。

みんな別れを惜しんでいる。

そんな中、クランが俺の方にやってきた。

昨日、毒の治療をした女の子だ。


「テルアキお兄ちゃん!

昨日は魔法で治療してくれてありがとう!

もうすっかり良くなったよ」


どうやら毒の症状は完治している様だ。


「私、お勉強好きなんだけど……、

いっぱい勉強したら、

テルアキお兄ちゃんみたいに

魔法を使える様になるかなぁ?」


「うーん……どうだろう?

でも、魔法を使える様になると良いな。

しっかり勉強するんだぞ」


俺はクランの頭を

優しく撫でながら笑顔で言った。


「そしたらね!!

私も僧侶になって、……それでねっ!!


……お兄ちゃんのお嫁さんになるのっ!」


(……なっ、何っ!?)


クランは俺の袖を掴みながら、

飛びっきりの可愛い笑顔を俺に向ける。


「……えへへ。

良かったね、僧侶様っ!

女の子にプロポーズされちゃったよ?」


………ゴゴゴゴッ。


笑顔のユナから、

不穏な雰囲気が感じられる……。


「……おい、ユナ。

俺の足を踏むな。そして、その足で

強めにグリグリするのをやめるんだ」


「……うん? あれ?

何かね……、そうしたい気分なの……」


俺達の様子に気付いたサキが寄ってくる。


「ははっ。良かったなぁ、テルアキ。

クランは今でもこんなに可愛いから……、

将来はきっと凄い美人になるぞ」


「なっ!? サキ!

お前も変な事を言うなっ。

……で!ユナは俺に向けてブリザードを

撃とうとするのをやめろっ」


「……あれ? うーん、何て言うかね……。

僧侶様、照れてて顔が暑そうだから。

冷たいの欲しいかな? ……と思って」


皆との挨拶を済ませ、

セップがその場をまとめる。


「ほっほっ。皆、サキと別れの挨拶は

済んだようじゃの。サキ、元気でな。

たまには顔を見せに来なさい」


「セップさん、ありがとうございます!

では、そろそろ行きます。

皆っ! 元気でなーっ!!

セップさんの言う事をよく聞くんだぞ!」


「サキ姉ちゃん! バイバイー!」

「サキ姉ちゃん、元気でねーっ!!」


──こうして俺とユナは

新しい仲間『サキ』と共に、

港町ブレゼスを目指すのであった。

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