第12話 冒険

──巨大アイスジェルを倒した俺、

ユナ、アリコの3人は城に戻り、

アリマン王に戦果を報告する。


「アリマン王、

林に現れた巨大アイスジェルを

無事討伐してまいりました」


「うむ、皆ご苦労であった。

特にテルアキ殿に於いては、

想像を超える成長ぶりと成果に

驚かされるばかりだ」


「ありがとうございます」


「テルアキ殿は勇者召喚の儀式によって

現れた特別な存在。

勇者ではなく僧侶であったが

森林業支援や、既知の事件処理を

こなすだけでは勿体ないな」


「……いえ、俺なんてまだまだです」


「テルアキ殿、

そなたの力を見込んで提案だが、

今後は冒険をしながら

各地の特殊な任務に就いてもらえぬか?

そして来たる勇者召喚後、

その仲間となり魔王討伐の

一助となって貰いたい」


「俺が勇者と共に魔王討伐っ!?」


「そうだ。テルアキ殿なら

やり遂げられるのであろう……と

そう感じるのだ」


「あの、質問をしても宜しいですか?」


「うむ、申してみよ」


「勇者召喚の儀式は、

すぐに行われるのでしょうか?」


「うむ、勇者召喚の儀式を行うには

暦やその他、様々な条件が必要でな。

次に行われるのは184日後だ」


「そうなのですね。

……少し考える時間を貰えますか?

明日、返答に参ります」


「そうか。良い返事を期待するぞ」


──謁見の間を後にする。

俺よりも驚いていたのはユナとアリコだ。


「僧侶様っ、凄い!

勇者様と魔王討伐だって!!」


「テルアキ殿!

どうされるおつもりですか!?」


「いや、いきなり

勇者と魔王討伐って言われてもなぁ。

ひと晩、しっかり考えるよ。

ユナ、一緒に魔法書店に行っても良いか?

ミエルさんにも意見を聞きたいし」


「うん、良いよ。一緒に行こう」


──アリコと別れ、ユナと街並みを歩く。


(……俺が冒険に出て、

ユナと離れるのは嫌だしな。

もし俺が誘ったら誘ったら、

ユナは一緒に来てくれるだろうか……?)


(……僧侶様、冒険に出ていくのかな?

離れちゃうのは……寂しいな)


普段なら会話が弾む街通りだが、

今日は2人とも黙って歩き続けた。

ミエルの魔法書店に到着する。


……カランカラン♪


「ユナちゃん、おかえりなさい。

あら、テルアキ君も一緒ね。

魔物の討伐は上手くいったかしら?」


「はい、無事に討伐出来ました」


──俺はアリマン王からの提案について

ミエルに相談を持ちかけた。

ユナも一緒に話を聞いている。


「勇者様と魔王討伐か……。

申し訳ないけど、結論に関して

アドバイスは出来ないわ。

とても重要な事ですもの。

自分で答えを出すしかないわね」


「やはりそうですよね。

ミエルさん、ありがとうございました」


「でも、テルアキ君の心は

もう決まっているように見えるわよ。

冒険に出る事とは別の問題が

テルアキ君の中に有るんじゃないかしら?」


「えっ?」


「うふふ。

相変わらず考えてる事が顔に出るのね。

さて、あとは若い2人でじっくり話しなさい」


そう言い残すと、

ミエルは嬉しそうに席を立った。


「僧侶様? ……えっと、ミエルさんは

何を言いたかったのかな?」


「ああ、ミエルさんには敵わないな。

ユナ、実はもう結論は出ていて、

俺は冒険に出ようと思っているんだ」


「そうなの!? ……そっか。

それなら僧侶様とも暫くお別れだね。

ちょっと、……寂しいかなっ……なんて」


寂しさを隠し、無理な笑顔を作るユナ。

俺は大きく深呼吸をし、

ユナを見つめて伝えた。


「……ユナ。

俺と一緒に来てくれないか?」


「えっ!?」


「もう一度言うぞ。

ユナ、俺と一緒に来てくれないか?」


「僧侶様っ? 私で……良いの?」


「ああ、お前が良い。……と言うか、

ユナ、お前じゃないとダメなんだよ。

俺には、お前の代わりなんて居ないんだ」


「うぅっ……僧侶様っ」


ユナの目は少しだけ涙ぐんでいる。

しかし、その表情は不安が晴れ、

安堵に満ちた笑顔になっている。


「僧侶様っ。ありがとう!

私で良ければ……よろしくお願いします!」


「ああ、これから宜しくな」


……ミエルが店の奥から戻ってきた。


「さてさて、話は終わったかしら?」


「ミエルさん、私……、

僧侶様と一緒に冒険に出る事にします」


「……ええ。

そうなるだろうと思っていたわ。

テルアキ君、ユナちゃんを宜しくね。

ユナちゃんに何かあったら……

私が許さないわよ」


「はい! 勿論です!

命に代えても、ユナの事を守ります!」


「うふふ。その心意気は嬉しいけど、

テルアキ君、それは間違いね」


「えっ?」


「命に代えたらダメ。

……必ず、2人で戻ってきなさい。

いいわね?」


「ミエルさん、分かりました。

必ず、2人で元気に戻ってきます」


「うぅっ……、ミエルさんっ……」


ユナは隣で泣き始めていた。


「あらあら、ユナちゃん……」


ミエルがユナをそっと抱き寄せる。


「ミエルさんっ、

今まで、ありがとうございました!」


「ユナちゃん、

あなたが魔女認定試験に合格した時から、

いつかこの日が来ると思っていたわ。

これからは、テルアキ君と一緒に

沢山の事を見て、感じて、学んで……

しっかり成長してらっしゃい」


「……はいっ、ミエルさんっ。

うぅっ、ありがとうございますっ!」


──魔法書店を後にし、

クルガーヌの家に戻る。


「おぅ、テルアキ!

魔物退治ご苦労さん! 上手くいったか?」


「ええ、無事に討伐出来ました。

ところでクルガーヌさん、

お伝えしたい事があるのですが……、

出来ればスリーズさんも一緒にお願いします」


「どうしたんだい? 改まって……」


俺はアリマン王からの提案を受け、

冒険に出る事を伝えた。


「……そうか、テルアキは召喚の儀式で

空からやってきた伝説の存在だからな。

期待されるのも無理はない。

こんな小さな集落で働くより、

国の為に大きな任務をこなす方が

きっと良いんだろうな」


「そうかい、もう決めたんだね。

せっかく、可愛い息子が出来たと

思っていたのに……、寂しくなるよ」


「クルガーヌさん、スリーズさん、

今までありがとうございました!」


俺達の声に気づいたシクルが

部屋に入ってきた。


「お兄ちゃん! おかえりーっ!

トランプで遊ぼーっ!?」


「……シクル、ごめんな。

トランプできるのは、

あと数日だけになりそうなんだ」


「えっ? 何で?

……どこかに行っちゃうの?」


「ああ、冒険の旅に出る事になってな。

暫くココには戻って来られないんだ」


……シクルの動きがピタリと止まった。


「えっ? 何で……?」


……パタンッ。


シクルの手から

トランプが床に落ちる。

そして、 次第にシクルの目から

涙が溢れ出す……。


「うわぁぁー! ヤダー!!

お兄ちゃんとずっと遊びたいー!

ずっとトランプしたいのーっ!!」


「シクル、ごめんな」


「こらこら、シクル。

テルアキを困らせないで」


「うわぁぁーん! ヤダーっ!!

お兄ちゃん! どこにも行かないでーっ!!」


「シクル、ココにいる間は

沢山トランプするからっ!

だから……ごめんっ、ごめんなっ!」


シクルが泣き止むまでには暫くかかった。

その後、俺はシクルとトランプで遊び、

いつもの様に負け続けた。


──翌日、俺は提案了承の返答をする為、

アリマン王の元に向かった。


「そうか! 引き受けてくれるか!」


「はい、精一杯務めさせて頂きます」


「うむ、これは朗報だ。

テルアキ殿ならきっと

やり遂げられるであろう」


……こうして俺は冒険に出る事となった。

出発の手はずはレギム大臣が整えてくれた。

今後の工程をまとめると以下の様になる。


1、「ロティール」を西に出て

「ポッシの山道」という山道を抜け、

漁業で栄える港街「ブレゼス」に向かう。


2、「ブレゼス」から北上し

僧兵が修行する街「グラチネ」に向かう。


3、「グラチネ」から更に北上し、

鉱物資源が豊富な火山近くの

城塞都市「グリエール」に向かう。


この「グリエール」は、

魔王の住処である島「キュイール」に

最も近く、魔王討伐の拠点となる。

俺は魔王討伐の戦力となるべく、

経験と修行を積みながら

「グリエール」を目指す事になる。


俺が各地を巡る事は

事前に各地の代表者に通達が出され、

便宜を図ってくれるとの事だ。


──出発は森林業の後任僧侶が

派遣される明後日に決まり、

ユナにもそれを伝えた。


「レギム大臣、様々な手配、

ありがとうございます」


「礼には及ばぬ。ところでテルアキ殿、

明後日の出発の朝、

西の城門前に来て貰えるかの?」


「はい、それは構いませんが、

何かあるのでしょうか?」


「テルアキ殿に渡したい物があっての。

……大したものでは無い。旅の餞別じゃ」


「それはありがとうございます。

では、明後日の朝、

西側の城門でお待ちしてします」


──こうしてこの世界で

俺の壮大な冒険が幕を開けるのであった。

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