ポッシの山道編

第13話 山の出会い

──冒険出発の朝、クルガーヌの家。


「クルガーヌさん、スリーズさん、

今までお世話になりました」


「ああ、元気でな!

困った事があったら遠慮せずに言えよ!

木で出来るモノなら

何でも作ってやるからなっ!」


「……テルアキ、

ここは自分の家だと思って

いつでも帰っておいで!」


「ありがとうございます!

……ところで、シクルは?」


「あの子ったら、すねちゃってねぇ。

……連れてくるよ」


スリーズがシクルを家の奥から連れてくる。

目は真っ赤に腫れあがり、

沢山泣いた様子が伺える。


「……シクル! 元気でなっ。

いい子にするんだぞ」


──ドンッ!


シクルは俺の腹を思いきり叩いた。


「どわっ!?」


「お兄ちゃんのバカッ! 大っ嫌い!」


「こら! シクル!!」


俺はしゃがんでシクルの頭を撫でた。


「ごめんなっ。

用事が終わったら必ず帰ってくるから!

そしたらまたトランプしような」


「うぅっ……うっ……。うわぁーーん!!

約束! 約束だからねーーっ!!」 


俺はシクルと指切りで約束し、

クルガーヌの家を発った。


──ユナと合流し

ロティール西の城門へ向かう。


「ユナ、西の城門で

レギム大臣と待ち合わせてるんだ。

何でも、旅の餞別として

渡したい物があるんだとさ」


「……そうなの? 何か良いものかなぁ?」


「居たぞ。あそこだな。

レギム大臣! おはようございますっ!」


「おぉ、テルアキ殿、ご苦労じゃな。

……そちらはユナであったか?

そうか、一緒に冒険に出るのだな」


(……えっ!? この大量の荷物はっ!?)


レギム大臣の傍らには

リヤカーの様な台車があり、

根菜類、干し肉etc……日持ちする食料や、

子供用の古着が荷台一杯に積まれていた。

その内容に俺は戸惑う。


「……えっと、大臣、この荷物は?」


「うむ。旅の選別じゃ。

遠慮せずに受け取ってくれ」


「いや、その、何て言うか……。

ポッシの山道を抜けてブレゼスの街までは

歩いて夕方には着きますよね?」


「そうじゃ」


「それなのに、この大量の荷物は?

しかも保存食ばかりだし、子供服まで……」


「なに、念のためじゃよ。

不要であれば山道で台車ごと捨てても

構わぬから持っていってくれ。

台車は木製じゃ、山に捨てても

いずれ土に帰るであろう」


「は、はぁ……。そうですか」


(……正直! 邪魔なんですけどっ!)


「それと、もう1つ。

ポッシの山道近くにワシの兄、

『セップ』という男が住んでおる。

もし会うことがあったら、

兄が好きなこの酒を渡してほしい。

会わなければ、ブレゼスの街で

お主らが飲んで良いぞ」


「その……、セップさんって

どんな方なんですか?」


「儂の前任の大臣でな。

退任後は山小屋を建てて

家中の本を持って行き、読書をしながら

山で静かに暮らしているのだ」


「分かりました。途中で探してみます」


「出来ればで構わんぞ。

儂も詳しい所在は知らぬからな」


──こうして俺とユナは

大量の荷物と共にロティールを後にした。

平地を抜け、山道にさしかかる。


「ふぅーっ、流石に上り坂は重いな。

ユナ、ちゃんと押してくれてるか?」


「うん、ちゃんとやってるよ」


……後ろを振り返り確認すると、

俺はその光景に驚愕した。


(……なっ!?)


「って、おい!

何でお前が荷台の上に乗って

フレンチトースト食べてるんだよっ!?」


「えへへ。昨日、

マイスさんのお店で買ってきたんだ。

僧侶様も食べる?」


「ってこら! 遠足か!

道理で途中から重たく感じた訳だ!

つか、お前っ! ……体重何キロだよっ?」


「ばかっ!

そんなの言う訳ないでしょ!」


「ははっ。でも登り坂は重いから

そこから降りてくれ」


「はーい。仕方ないなぁ。

それにしても、大臣は何でこんなに

沢山の物をくれたんだろうね?」


「どう考えても多すぎるよな。

でも、大臣は


『不要なら山で捨てても構わない』


……と言ってたし。

最悪、捨てたとしても自然破壊には

ならない物ばかりだしな」


「それでも捨てちゃうのは勿体無いよね」


──山道の途中で何度か魔物と遭遇したが、

退治しながら進んだ。

俺達はそのまま山道を登り、

頂上辺りに到着した。

これまで人とすれ違うことはなかったが、

反対側からローブを羽織った女が歩いてくる。

ユナが女に挨拶をする……。


「こんにちは」


「……」


女は返事をせずに

そのまますれ違おうとしたが、

足元につまずき、ユナにもたれ掛かった。


──ドンッ


「……ごめんなさい」


「うん。大丈夫かな? 気を付けてね」


その時、異変に気づいた俺は

立ち去ろうとする女に聞こえるように、

……少し大きめの声でユナに言った。


「ユナッ!

ポケットに入れてた物は有るか!?」


「うん、飴ちゃんが入った袋がココに……

あれっ!? 無い!? 無いよっ!?」


女が驚いて口を開く。


「はぁ!? 高価な物かと思ったら、

ただの飴ちゃん……って何だよ!?」


「おい、そこの女!

ただの飴ちゃんでもそれはユナの物だ。

返せ!」


「ちっ、仕方ねーな。ほらよっ」


女は飴が袋をユナに投げた後、

ローブを脱いだ。

見た目は15~16歳、

短髪、スリムで身軽そうな女だ。

すると女は、腰に携えた短剣を抜いて

俺達に向けてこう叫んだ。


「おい! アタシは盗賊だ!

全部とは言わないから、

お前らに必要な分の食料だけ確保して……、

余りの分は置いて立ち去れっ!」


(……えぇっ!?)


女の言葉に、

俺とユナは互いに目を合わせ頷く……。


「わかったよ。じゃあ……、

このリヤカーごと置いていくからなっ」


「盗賊さん、あんまり悪い事しちゃ

ダメだよー。またねー!」


「ふぅ、やっと身軽になったな」


「そうだね、僧侶様っ。

あっ、見てー! 綺麗な蝶々が飛んでる!」


「ユナ! 走ると危ないぞ」


リヤカーを手放し、

身も心も軽やかになった俺達は

明るくその場を立ち去ろうとした……が、

女が叫んだ。


「……って、おおいっ! ちょっと待てっ!

何か調子狂うわーーっ!!」


「はぁ? 何だよ?

立ち去れ!……って言ったり

待てっ!……って言ったり」


「いやっ、流石に食料山積みの

リヤカーごと置いていかれたら

びっくりするだろっ!」


「まぁ、気持ちは分かるが。

ところで女、俺達はこの辺に住んでる

『セップ』って男性を探してるんだが

知らないか?」


「何っ!?……お前ら、

セップさんの知り合いか?」


「知ってるのか? 案内してくれよ。

セップさんの弟、レギム大臣から

荷物を預かってるんだ」


「知ってるも何も、一緒に住んでるぞ」


「えっ!? セップさんって

盗賊さんなの!?」


……俺もユナも驚きを隠せない。


「いや、違うな。セップさんは

身寄りのない子供達に勉強、農作業、

狩りetc……を教えながら

面倒を見てくれてるんだよ」


「へぇ……、立派な人なんだね。

でも、あなたは今、盗賊まがいの

強奪をしようとしてなかった?」


「う、うるさい!

案内してやるからついて来い。

それから、アタシは『サキ』だ。

これからは名前で呼べ。


──山道を外れ、しばらく歩くと

セップの山小屋にたどり着いた。

山小屋は3軒建っており、

井戸や畑、飼われた山羊の姿も

見受けられる。


「セップさん! 戻りました!

それから……、お客さんです!」


「サキか、おかえり。

儂に客とは珍しいのう……」


現れたのはレギム大臣に少し似た

白髪の老人だ。


「セップさん、初めまして。

俺は僧侶のテルアキ、

こちらは魔女のユナです。

レギム大臣から、このお酒をセップさんに

……と預かりました」


「おぉ、これはご苦労であったな。

このリヤカーの食料や子供服も

お主達が運んでくれたのか?」


「……ええ、まぁ。結果的にそうです」


「ふむ。弟には感謝だのう。

言葉足らずの弟の事だ。

特に何の説明も無く

この荷物を運ばされたのではないか?」


「えぇ、まぁ、そんな感じです」


「それはすまなかったな。

茶でも飲んで休んで行くといい。

サキ、茶の用意を頼む」


こうして俺とユナは

茶をご馳走になりながら

セップ、サキと話をした。


「セップさんは凄いんですね。

大臣引退後に、身寄りのない子供達の

世話をしてるなんて……」


「何、大した事ではないよ」


「いや、セップさんは凄いんだぞ。

子供達の適性を見極めて、

その子が得意な能力を伸ばして……、

成人になったら

その道で困らない様に育ててるんだ。


農業、勉強、狩り、武器作りetc……、

何でも教えてくれるんだぞ。

アタシは弓や短剣を使った

狩りの技術を沢山教わったんだ」


「ほっほっ。本好きが高じてな。

基本の知識だけはもっておるかの」


──こうして俺達はポッシの山道で

自称盗賊の少女『サキ』、

レギム大臣の兄『セップ』と

出会うのであった。

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