第11話 リベンジ

──俺とユナは2人が原因で発生した

巨大アイスジェルの討伐を

レギム大臣に申し出た。


「うむ、炎の魔法を使えれば

2人で事足りるかもしれぬが……。

ランティーユ殿はどう思われる?」


「はっ。アイスジェルの戦闘のみなら

2人で問題ないでしょうが、

道中魔物と遭遇することを考えると

武器を使える者も居た方が安心でしょう。


そこで提案ですが、

我が愚息、アリコを供に付ける

……というのは如何でしょうか?」


(……アリコ!?

久しぶりに聞いた名前だ。

アイツ、元気にしてるかな?)


「なるほど、

騎士が1人居るなら安心じゃろう。

アリコを呼んで参れ」


……程なくしてアリコが参上し、

アリマン王から命令が下る。


「テルアキ、ユナ、アリコよ。

明朝、森林業の林に向かい、

突如現れた巨大アイスジェルを

討伐してくるのだ!」


(突如、現れた訳じゃないんだけどっ。

俺達のせいなんです、ごめんなさい!!)


──謁見の間を出て、

アリコとの再会を喜ぶ。


「テルアキ殿、お久しぶりです!」


「おぉ、アリコ。久しぶり!

元気そうだな」


再会の挨拶をしていると、

謁見の間からランティーユが現れた。

彼女は王国騎士団長でもあり、

アリコの母でもある。


「曹長アリコ、確認する。

巨大化したアイスジェルに

有効な攻撃手法を答えよ」


「はっ。炎の魔法で小型化させ、

体の中心にある核が見えたら

武器による攻撃、またはそのまま魔法で

核を傷付け、消滅させます」


「宜しい。テルアキ殿、

アリコはまだまだ非力ですが、

身体だけは鍛えています。

必要なら、おとりでも身代わりでも

何でも使って下さい」


(……なっ! 本人の前でなんて事をっ!)


「母上、それは余りに……」


「黙りなさい、アリコ。

騎士が僧侶と魔女の供をする……

この意味を考えよ。

そなたがこの2人を守るのだぞ!」


アリコはすぐに厳しい表情になり

ランティーユに敬礼をした。


「はっ! 必ずお2人をお守りします!」


──翌朝、俺達3人は城門前に集合し、

アイスジェルの目撃情報があった林へ

ムーブで空を飛んで移動した。


「さてと、ここからは歩くか。

目撃情報の近くに着いたら、

空に上がって周りの様子を見てみよう。

凍ってる木が見つかるかもしれない」


林の中を3人で進む。

途中、何度か魔物に遭遇したが

アリコの活躍で魔法の使用は

最小限で進むことが出来た。


「王国の騎士さんって凄いんだね。

アリコさんがこんなに強いって

知らなかったよ」


「いや、私なんてまだまだです。

上官の戦いはもっと凄いですよ」


「よく考えたら、騎士、魔女、僧侶……

この組み合わせってバランス良いよな」


「うん、そうだね。

アリコさんが先頭で戦って、

私と僧侶様が後ろから攻撃と回復……って、

とっても戦いやすいね」


(魔法だけじゃなくて、

物理攻撃をできる仲間が居る

……って事も重要だな)


「MP切れにならないように

予めMP回復薬を幾つか買っておいたが、

これならアイスジェルとも

余裕を持って戦えそうだな」


「さすが僧侶様、準備万端だねっ。

前に私達がアイスジェルを

巨大化させちゃった時は

MP切れで倒せなくなって……それで

仕方なく林に飛ばしたんだったよね」


……緊張感のない笑顔で話すユナ。


(……って、おい! ユナっ!

それをアリコの前で言うなっ!)


俺とユナはハッと目を合わせ、

恐る恐るアリコの方を見る……。


「……あの、ユナさん?

今、何とおっしゃいました?

『私達が巨大化させた』、

『仕方なく林に飛ばした』……って?」


「や、や、やだなぁ、アリコさんっ!

き、聞き間違いだよっ!

自然をこよなく愛する私達が

木を凍らせちゃうアイスジェルを

林に飛ばすなんて、

そんな事、する訳ないでしょっ!?」


「そ、そうだぞ、アリコ!

へ、変な聞き間違いするなよっ!!」


「いや、MP切れからの文脈も

筋が通ってましたし、とても

聞き間違いとは思えない様な……?」


俺とユナは目を合わせて互いに頷き、

アリコの両脇から

脅す様な低い声でささやいた。


「……アリコさん? いい?

私達は今から、林に突如現れたアイスジェルを

王の命令で討伐するだけなの」


「そうだぞアリコ。

アイスジェルが現れた原因は謎なんだ。


もし報告書に変な事を書くなら……、

お前は今から全ての戦闘で

おとり役をする事になるぞっ。

しかも、ヒールはかけてやらないぞ」


「ひっ、ひぃぃー!!

それはっ、いわゆる……脅迫ではっ!?」


「馬鹿だなぁ。

俺達は僧侶と新人魔女だぞ。

王国騎士様に脅迫なんて

する訳ないだろう?」


「そうだよ、アリコさん。

変な事言ったら、ミエルさんの時みたいに

つま先から凍らせちゃうよっ。

でも私……、

氷の魔法は上手くないからなぁ。

一気に全身凍っちゃうかもっ」


(……この2人! 怖いっ!!)


「……わ、分かりました。

私は何も知りません。

粛々と任務を遂行します……」


こうして俺とユナは気持ち良く、

そして、若干1名は

釈然としないまま歩みを進めた。


アイスジェル目撃情報の辺りに到着し、

上空から周りの様子を確認する。

すると、もう少し進んだ辺りで

木が凍りついているのを発見した。


「あっちだ! 木が何本か凍ってる!」


警戒しながら進んで行く。

周りは冷んやりとした空気に包まれ

草木は凍りついている……。


「いかにも『氷の魔物が居ます!』

って感じだな。皆っ、気をつけろっ!」


……ズズズッ、スズズッ!!


不気味な音と共に林の奥から

巨大なアイスジェルが現れた。

俺達に向かってゆっくり近づいてくる。

その姿に、俺とユナは身構えて叫ぶ。


「よぉっ! 久しぶりだな!」


「今度は負けないんだからねっ!」


(……テルアキ殿! ユナさん!

『久しぶり!』とか『今度は負けない!』

とか言っちゃってますよっ!?)


巨大アイスジェルとの戦闘が始まる。


アイスジェルの体から

ムチの様にしなる触手が伸び

俺達に向かってくる。


……バチィーーンッッ!!


プロテクトウォールを唱えようとした

俺の前に出たのはアリコだ。


「触手の攻撃は私が盾で防ぎます!」


「分かった!アリコ、ありがとなっ」


……ビューーンッ!!


続いてアイスジェルが冷気の光線を放つ。


「マジックウォール!」


……ババンッ!!


光線がマジックウォールの壁でかき消される。

隙をついてユナが反撃する。


「ファイア!!」


……バンッ!


ユナのファイアが

アイスジェルの体を炎で燃やし、

その体は少し小さくなった。


「効いてるみたいだけどっ、

これはちょっと時間かかりそうだよ!」


……バチィーーンッッ!!


アイスジェルは攻撃を続けるが、

俺とアリコで攻撃を防御する。


「ユナッ! 高火力が必要なら、

……アレをやるぞっ!」


「そっか! わかったよ!

僧侶様、お願いっ!」


(……『アレ』とは?

この2人は一体何を!?)


不思議がるアリコの視線をよそに

俺は魔法を唱える。


「よし! 行くぞ!

……マジックウォール!!」


俺は魔法の壁をドーム型に作り、

アイスジェルの体を覆った。

正面の一部は穴を開けてある。


「今だ! ユナッ!」


「オッケー、僧侶様! ファイア!!」


魔法の壁の内側で、

ユナのファイアが激しく燃えさかる。


「まだまだ行くよっ!

ファイアッ! ファイアッ!」


ユナは立て続けにファイアを撃ち込んだ。

火力は一段と強化され、

業火がアイスジェルを包み込む。


「ゴゴォォッッ!!」


巨大なアイスジェルは

見る見る小型化していき、

そのまま炎の中で消滅した。


「やったな! ユナ!」


「うん! 僧侶様っ!」


ハイタッチで喜ぶ俺とユナの姿に

驚き……、かつ興奮しているのはアリコだ。


「……ちょ! ちょっと待って下さい!

今のは一体! 何なのですか!?」


「ああ、今のは俺とユナの連携魔法技だ。

魔法の壁を使って

ファイアの威力を上げたんだ。

考案したのはユナだぞ」


「えっへん。アリコさん、凄いでしょ?」


ユナが可愛くドヤ顔を見せる。


「凄いも何もっ……、

あんなの見た事ないですよ!

あのっ、技の名前とかあるんですか!?」


「技の名前?

……そう言えば考えてなかったな。

ユナ、格好良い名前付けてくれよ」


「えっ!? 私が付けていいの?」

「ああ、考えたのはユナだからな」


(……ワクワク、ユナさん!

この凄い技に一体どんな名前を

付けるのですかっ!?)


「……どうしよっかな。

これはオーブンでお肉を料理するのを

見てて思い付いたんだよね。


……よし、決まったよ!」


「ユナさんっ! 教えて下さい!!」


「技の名前はね……」



「技の名前はっ!?」



『炎で丸焦げオーブン焼き』!!



(………えっ!?)


ユナが決めた技の名前を聞き、

アリコはあっけに取られ

驚きの表情で立ち尽くしている……。


(……なっ!? ダ、ダサイッ!?

そして何だか歯切れが悪い!?)


「あははっ。さすがユナッ!

それ、分かりやすくて良いなぁ!」


「でしょ? あはは。

我ながらセンス有るよねー」


(……えっ? テルアキ殿、賛同した!?

と、戸惑ってる私がおかしいのか!?)


──こうして、アイスジェルを討伐し、

俺とユナの強力な連携技に

個性的な名前が付いたのであった。

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