最後は「し」という駅だった


最後は「し」という駅だった。広大なホームには、葬儀の座席が並んでいた。前方の遥か彼方から、数えきれない煙が、淡々と上昇していくのが見えた。「火葬場の煙?」と思った瞬間、場面は一気に切り換わり、無数のお墓が現れた。伝統的な和風の縦型、西洋風の横型など、様々なお墓が整然と地平線まで埋め尽くすかのように並んでいる。


それまで控えめに後ろについてきていた老紳士が、すぐ隣に来てゆっくりと話し始めた。


「ここまでの4つの駅を通じて、大まかな流れをご紹介しました。これらは、『人生』というもののごく一部です」。


私は静かに頷いた。


「どのように生きてゆくのか、死んでゆくのか。それは、環境の多様性、あなたの選択・自由・柔軟性・価値観の折り合いに左右されます。私の案内はここまでです。では、よい人生を」


見送る老紳士に感謝を告げ、メトロに乗った。

ゆっくりと穏やかに走るメトロ。

目指す先にある駅を、私はもう知っている。

そう、「たんじょう」と名づけられた駅だ。


車内の電光掲示板には、「あと、十月十日」と出ている。

しばしの仮眠をとるには十分すぎる時間だ。

私の瞼が静かに閉じていった。



----------------------------------------------------------------------------------


【 初出 】


2020年11月16日

ブログ

http://komasen333.blog.jp/archives/7855721.html


電子書籍

https://puboo.jp/book/131819

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Happy Birth 4 stations komasen333 @komasen333

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ