愛を伝える。

 基本的で、ありきたりなコミュニケーション。その大事さを知ったのは、彼と出逢ってからだった。


「おはよう?」


 声をかける。

 彼。

 聞こえていない。


 そっと、袖にふれて。ほんの少しだけ、引っ張る。


 彼。無表情だった顔が、こちらを向いて、少しだけ軟らかくなる。


「おはよう?」


 口を大きめに開けて。聴こえなくても、分かるようにはっきりと動かす。


「おはよう」


 彼の返答。そして、やさしい笑顔。


 さあ。

 学校に行こう。


 あなたと一緒に。


「退院。おめでとう」


「ありがとう。もうどこも痛くないし、大丈夫です」


「よかった」


「好きよ」


 返答を待つ。


 彼。笑顔。


「うん?」


「好き」


 彼。応答はなかったけど。


「大好き」


 顔が朱くなっているので。どうやら、伝わったらしい。


「ぼくもすき」


 返ってきた声は。小さいけど、やさしかった。

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