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 袖を、軽くふれて。ほんのすこしだけ、引っ張られる、気がした。


「ねえ」


 声をかける。


「うん」


 彼の声。


「わたしね。言ってなかった、ことが。あるの。聞いてほしい」


「うん」


 彼の声。小さいけれど。聞こえる。


「わたしね。アーティフィシャルヒューマンなの。人が作った人間。たまたま試験管で生まれた」


「うん」


「見た目は人と変わらないけど。わたし。ヒューマンエラーを起こさないの。それがね。わたし。いやで」


「うん」


「普通の人間でいたくて、正義の味方とか、自分の能力を活かした仕事とか、したく、なくて」


 喋るのが、つらくなってきた。


 彼の応答。ない。


「わたしね。でも。あなたの笑顔が、見たくて。あなたのことが、好きで」


 聞こえなかったのか。


「わたし。あなたのためなら、なんでもできる。ヒューマンエラーもこわくない」


 それとも、わたしの耳が、聞こえなくなったのか。もう、目はずいぶん前から見えていない。


「わたしね。あなたのことが」


 好き。


 好きよ。


 聞こえているかしら。


 聞こえなかったら、聞こえるまで。


 何度でも言うわ。


 あなたが好き。


 好きだから。


 また、いつものように。


 笑ってほしいな。


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