ガコン、という重い音とともに丸い筐体のハッチが開き、フロアに黄色い液体が流れてきた。筐体から大柄な男が転がり出てきて、フロアに倒れこむ。二体のテレプレゼンスロボットが近寄ってきてマニピュレーターを伸ばし、男のバイタルデータを取得し始めた。

 頭部に狐の顔を模したアバターのあるロボットが音声を発した。「閾値ぎりぎりですよ」

 もうひとつのロボットに付けられたニワトリのアバターが答えた。「ここじゃあ、それが正常値なんだよ。お前、新入りだな」

「はい。今日が初めてです」

「ま、早く慣れるんだな」ニワトリのアバターのロボットが、気を失っている男の両手をつかんだ。「お前、足たのむ」

「この人、本当にダイブしてたんですか。昔のゲームの世界に」

 狐の方が男の両足を持ち、二台のロボットは男をストレッチャーに乗せた。

「正確に言うと、こいつはいったんとある女性の意識に変換されて、そこからさらに、とあるゲームの世界にフルダイブさせられたんだ。そのあたり、レクチャー受けただろ」

「まあ、一応は。大学でもニューロティック・フルダイブについては学びました。でも、二段階のダイブはかなり危険なはずです」

「そうしなきゃ、こいつの深層心理に到達できないんだよ。場合によっては、さらにもう一層ダイブさせることもある」

「この人、いったい何の罪で、ここに?」

「囚人たちの情報は、俺達には一切開示されない。ただ、噂によると、ある種の思想犯らしい」

「思想犯?」

「どういう思想なのかは知らないよ。ちょっと、俺は上に報告するから――どうした?」

「いえ、生身の人間を見る機会があまりなかったので」

「まあ、パンデミック第三波からこっち、アバターを介さないコミュニケーションはほとんどなくなったからな」

「すみません。じゃあ、部屋まで移動させてきます」

 狐のアバターを搭載したロボットがストレッチャーを押して、その部屋を出ていった。

 ニワトリのアバターを搭載したロボットが通信を始めた。

「〇〇三五号、終了した。ああ、次は〇〇四八号だ。予定通り三時間後に。プログラムは――〇〇三五号と同じか。そう、あの皮肉なタイトルの。誰が付けたのか知らないけどな。『最後はかならず私が勝つ』。じゃあ、よろしく」

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