最終話
母スィレーラに会いに、沢山の貴族が集まった。
それは派閥など関係なく、ただ母に会いたいというだけの理由でだ。その中に、仇敵ドリー伯爵の姿もあった。彼女は驚いたことに、母に一目会うと涙を流しながら喜んでいた。ドリーと母は学友で親友だったんだそうだ。
ドリー以外にも多くの有力貴族が集まってくる。さすがにここまで母が愛されているとは思いもしなかった。
ドリーとは、生涯の敵になるはずだった。
もしリリアを計画通り殺していたのなら、次の敵はドリー伯爵だった。当時の癇癪持ちの私なら確実に負けていただろう。そして、国を道連れに大騒動を起こしていたに違いない。
そのドリー伯爵と、もう争い合う必要はない。
女性派閥の面倒なところは、利害ではなく感情のぶつかり合いのところだ。故に国家を巻き込みドロドロしてしまうのだが、いいところは邂逅してしまえばそれまでなのだ。
「あっ、あの女っ、スィレーラ様にベタベタとっ。エレステレカの言う通り、禄でもない女だわっ!!」
レンスマリーは顔を真っ赤にしている。変なところで別の確執が生まれたようだが、まぁこれはほっとこう。
ほっとくのが一番だ。
トロスは介入してボロを出した。事あるごとにトロスの影がちらついてきたものだ。
あれこれ考えすぎない方がいいんだろう。世の中ままならないものだ。
「どうしてすぐ死ぬんですかっ!!!」
そして、リリアに怒られた。
貴族が集まるという事で様子見で帰って来たわけだが、ついでにリリアをお茶に誘った。当然彼女は来てくれたわけだが、とてもご立腹だった。
「え、えっと、生きてます」
「ボクが助けなければ死んでましたよねっ!!」
テーブルをダンっと叩かれ、思わずびくっとなってしまうエレステレカだった。
「今回だけで何度死にかけたんですか!」
「私だって死ぬ予定じゃなかったのよっ!」
「そんな予定立てないでください!」
お願いですから、何もしないで、じっと、じっとしててくださいっ。
リリアは泣きそうな顔で懇願してきた。ひどいっ、そんなことを言われても私の中ではじっとしているつもりなのに・・・
「ダイア領、大変だったみたいじゃない。生きていてくれて嬉しいわ」
「・・・露骨に話題をそらそうとしますね」
「ま、まぁまぁ! 大変だったんでしょ?」
「大変でしたよ! ええっ!!」
彼女らしくもない、ひどく疲れた表情を浮かべていた。
ドラゴンは人間と慣れ合う事はない。
ドラゴン同士ですら慣れ合わない合わない種族だというのに、人間と共存などできるはずもなかった。エルフやドワーフは厄介事を連れてきたと人間に敵意を向けてきて、一触即発の状況になっていたらしい。
だが、それを過去にする出来事が起きた。
ドラゴンの長、黄金のドラゴンが訪れてから事態は大きく変わった。山よりも巨大な黄金のドラゴン、それに負けぬほど巨大な化け物が海から現れた。タコとイカと人間が混ぜ込まれたような巨大な生物は、当たり前のように戦い始めた。
それはもう、天変地異だった。
風は森や町を薙ぎ払い、大地は割れ、暗雲が立ち込め稲妻が落ち続けた。人間はもちろん、ドラゴンたちですらこの地獄の中ではなすすべがなかった。
その戦いは7日間続いた。
ダイア領の人間は半数を失い、ドラゴンは3分の1になっていた。エルフとドワーフはうまく隠れていたようだが、かなりの数を失ったそうだ。
戦いは黄金のドラゴンが勝利したらしく、地形が変わった場所でのんびり欠伸をしていたそうだ。
ドラゴンと人間は、その様子を見て、なんというか、なんと矮小なことで争っていたのだろうと感じたそうだ。今は生き残れた者どうし、種族の垣根を越えて新たな街づくりをしているらしい。
「聞いてたより壮絶な状態だったのね」
こちらも死にかけていたが、リリア方面も命がけだったようだ。確かに顔つきが、えらく草臥れて見えた。
祝福された血とは、厄介事が遠のくわけじゃないようだ。必要な場所に必要に応じて居ることができる、そういうものなのかもしれない。そう考えると、祝福されてるからと言ってあまりハッピーとは言えないな。
「立ってっ!」
「はいっ!?」
リリアの一喝に思わず立ち上がってしまう。
すると、リリアは迷わず抱き着いてきた。
「ちょっ、なに?」
「多くを救うために、少数を殺しました」
彼女の腕に力がこもる。
「それに、エレステレカ様を救うために子供や女性も殺しました。ボクの手はもう、血に染まっています」
「・・・」
エレステレカは、その小さな体を強く抱きしめ返した。
血で汚さぬために彼女と距離を置いていたはずなのに、今は腕の中で小さくなっている。こうなっては彼女を突き放すことなどできない。
何もしない方が上手く行くなんて思っていたが、あまり祝福された血を持つ者を自由にさせていては危険なんじゃないか? ちょっと怖いエレステレカだった。
悪役令嬢は燃え尽き症候群2 新藤広釈 @hirotoki
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