第5話

 翌日、小雨の道に色とりどりの傘が揺れていた。会社に着くと今日は課長に呼ばれる。そんな呼び出しに、今日もか――なんて私の呟きを拾った課長は、「今日じゃなくて今日だろ?今日は俺がコーヒー買ってやるよ」


 そう言ってフリースペースの自販機でコーヒーを買うと、ほれ、と言って私にそれをくれた。


「立花さ、まだ辞める気ないんだろ?」

「課長も早く寿退社しろって言うんですか?」


 課長は自分の分のコーヒーを買いながら、違う、と言った。


「あとさ二年、いや一年でもいいからさ頑張れよ」

「え?」

「この昭和気質におかしいと感じてる連中でさ、ちょいと改革を起こそうって話してんだよ。社長も自分はあと一、二年だって言ってるしな。だから部長や上に何言われてももう少し踏ん張れ、な?」

「わ、たし、……まだここにいていいんですか?」

「立花の仕事は認めてるよ。お前の仕事を新人に任せるなら三人くらいに振り分けないといけないって俺は考えてる」

「課長……」


 雨で曇る窓のように視界が滲んでいく。


「俺も課長に賛同」

「僕もです」


 はっと振り返るとそこには阿部さんと河西くんが笑っていた。


「古くて固い頭の奴に負けんなよ!」

「ありがとう」


 雲と雲の隙間から一瞬光が差し込んだ。






 今日も丁寧にかつスピーディーに、ミス一つなくを目標に業務をこなす。


「美也子先輩、ここが分からないので教えてください」

「いいよ〜」


 お局様って言われてもいい。みんなが気持ち良く働ける職場であるよう、そして後輩に慕われるよう笑顔で対応しよう。


「それはね、こっちの――」


 なんて教えている横を通った河西くんが誰にも気付かれないよう、こっそり飴を私のデスクに置いて行く。飴のお礼にまた呑みに誘ってみようかな、なんて考えながら、雨降る窓の外を見た。




 まだ雨はやまないけれどもらった飴が雨の憂鬱さを甘く溶かしていく。

 もうすぐ晴れ間が見えそうな予感……。



 今日の天気、雨のち飴




〈了〉




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今日の天気、雨のち飴 風月那夜 @fuduki-nayo

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