恐夢荘の亡霊

あほくさ

第1話 終わりの始まり

「やべっ」

 その声と同時に乗っていたワンボックスカーが変に揺れはじめた。異変を感じて車から降りると、タイヤにネジのようなものが刺さった跡がある。

「やっちまった…どうすればいいんだ」

 乗っていた2人のうちの1人が言う。ここは山麗の村からのびる道から外れた場所だ。ここから戻るのは難しいと、ドライブ経験のない彼らでもすぐわかった。

「仕方がない、ちょっとだけ下の方に歩いてみるか」

 2人は、草をかき分けながら獣道を下っていった。


 彼らが道無き道をしばらく進んでいくと、開けた場所に出た。

「登ってきたときにはこんな場所なかったはずなのに…」

「良いだろう。引き返すこともできる、進んでみよう」

 そこは崖になっていて、辺りを一望できた。そうこうしているうちに、日は暮れ始めて夜が迫ってきていた。

「今日は野宿か」

 持っていたライターの火を木の枝にうつして焚き火をつくる。

「飯はどうするんだ。こんな予定じゃなかったからもってきてないぜ?」

 1人が戸惑いながらもう1人に言った。

「バカ野郎。今日のうちはオレの分を分けておいてやるが、

 明日からは自分でなにか取ってこいよ」

 2人は焚き火で暖まりながら半分になったカロリーメイトを口に運んだ。

「分けてもらったお礼に見張り頼むぞ」

 あくびをしながら持ち主悠は言い、そのまま眠ってしまった。


 実は彼らは、道を外れていることに気がつかなかった。というよりは、2つに分かれている道に差し掛かったとき、間違った方の道に進んで、それが正しいと全く疑わなかったのだ。すなわちこの問題の責任は彼らにあるのだが、そのせいで、前代未聞の事件に巻き込まれることになってしまった。


「ふぁ…よく眠った」

 悠は目を開けた。ここは山の中の焚き火の近くだったはず。そう思って立ち上がり、目を擦ってあたりを見回してから気がついた。ここはとは違う。背筋が凍る。胸の中にさあっと風が吹き抜けた気がした。

「あいつは…?」

 先ほどまで自分の横にいたはずの"あいつ"は、ここにはいない。悠は半ば諦めながら自分のいた部屋を探索してみた。

「洋館風の窓枠、カビついた絵画、古臭いドア。まるで怪しさ満点じゃないか。

 このドアの向こうにはなにがあるのだろうか。」

 歩くたびにミシミシという音を立てる床を見ると、おそらく相当老朽化が進んでいるに違いない。不気味さがこみ上げてきたが、なんとか恐怖心を抑えながら、そっとドアを開けてみる。

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恐夢荘の亡霊 あほくさ @_Ahokusa_

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