初恋観覧車 後編

 目を開けると、真っ白な天井と蛍光灯の光が入ってきて目がチカチカした。


「西野?!」


 視界に佐伯くんが映り込んできた。あまり感情を出さない普段の冷めた雰囲気と違って、すごく不安そうな顔をしていた。


「あれ……ここは……?」

「遊園地の休憩室。西野、観覧車の中で気を失ったんだ」


 ゆっくりと身体を起こす。そうか、私、観覧車の頂上で……ていうか、ジンクスは?!私結局、佐伯くんと手をつなぐことができなかったんだ……。

 1人で落胆してしまう。


 すると、遊園地のスタッフの服を着たおじさんが休暇室に入ってきた。


「お!お嬢ちゃん、目が覚めたか!!」


 大きな声に驚いて「はいっ」と返事をすると、おじさんは話を続けた。


「倒れたお嬢ちゃんをその青年が抱えてきたんだよ!いや〜かっこよかったなぁ。あの時はおじさんまでドキドキしちゃったよ」


 おじさんはにこにこしながら大きな口を開けて、高揚した様子で言った。


 驚いて佐伯くんの方を見ると、顔を赤くして恥ずかしそうにそっぽを向いていた。

 その顔を見た私まで恥ずかしくなってしまう。


「いい彼氏さんを持ったねぇ」


 おじさんの言い放ったその一言に私たちは


「「そんなんじゃありません!!」」


 と声が重なった。おじさんは「そうかそうか」と笑って「とにかく、お嬢ちゃんが無事でよかったよ」と休憩室を出て行った。


 おじさんが出て行って、休憩室が急に沈黙に包まれる。私は佐伯くんを見ることができなかった。耐えきれなくなった私は


「香澄たち、探しにいこう!!」


 と立ち上がった。佐伯くんは「そうだな」と言い、そして2人で休憩室を後にした。



 人が少なくなった夕暮れの遊園地は、活気に溢れている昼間とは違う雰囲気が漂っていた。入退場ゲートへ向かう多くの家族連れの波に逆らい、私たちは横に並んで大通りをとぼとぼと歩いた。


「あの……」


 勇気を振り絞って声を出す。


「助けてくれて……ありがとう……」


 佐伯くんの顔が再び赤く染まる。


「別に。俺しか助けられる人いねーだろ」

「抱えてくれたの……?」

「お前が正面からこっちに倒れかかってきたから。そのまま抱えるしかなかった」

「お、重くなかった……?」

「……肩が外れるかと思った」


 予想外の答えに、ぼっと顔が熱くなった。


「ご、ごめんね……」


 私が謝ると


「冗談だよ。バーカ」


 と佐伯くんは言った。私は顔だけじゃなく、身体中が熱くなった。


「な、なんでそんなこというかな……」


 すると、数十メートル先から「おーい」という声がした。声のする方に目をやると、香澄たちが手を振っていた。走って香澄たちの元へ向かう。


「2人とも、観覧車は楽しめた?」


 何も知らずに笑って聞いてくる香澄たちに、私たちは呆れてしまった。


「それが大変だったんだよ……」

「観覧車が止まってね……」

「こいつが倒れて……」


 これまでのいきさつを話し終えた私たちに、香澄は「それは大変だったねぇ」と他人事のように言った。


「本当だよ。てか、お前も倒れるくらい高い所が怖いんなら、早く言えよな」


 いきなり私に話を振ってきた佐伯くんに


「だから、ごめんって言ってるじゃん」


 と言い返した。すると、そのやりとりを見ていた香澄が


「ところで、2人はいつの間にそんなに仲良くなったの?」


 と尋ねた。


「「なってないし!!」」


 休憩室の時より綺麗に声が重なり、私たちは思わず顔を見合わせて、そして笑った。











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初恋観覧車 あろはそら @blue_sky99

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