生を望んだ少女と生を拒んだ少年

ラリックマ

第1話事故

 いつも通りの毎日。

 僕と美香は、普段通りに学校の帰路について談笑をしていた。


「ねえ、アイス買って」


「え? まあ、良いけど……」


 美香にアイスを買って欲しいと頼まれ、それに僕は応じた。つくづく美香には甘いなと思ってしまうが、美香の喜ぶ姿が見られるなら……なんてことを思い、ためらわずに財布から金を出す。

 

「あの、アイス二つお願いします。バニラと……何味がいい?」


「んー浩輔と一緒でいいよ」


「わかった。バニラ二つお願いします」


 僕はバニラ味のアイスを二つ頼むと、240円を財布から出しそれを店員に渡す。


「ありがとうございます」


 お礼を言い、バニラアイスを二つ受け取る。


「さ、早く早く」


 よほどアイスを食べたかったのか、美香は犬のように物欲しそうな顔をしている。

 その表情がたまらなく愛おしくて、僕は少し意地悪したくなった。


「じゃあ僕を捕まえられたらやるよ!」


「え、ちょっと!」


 そんなことを唐突に言い、僕はアイスを持ちながら走り出した。全力とまではいかなくても、8割ぐらいの速度を出して走る。美香は運動神経が良い。僕なんかよりもよっぽど足が早い。だからこのぐらいの速度で走ってもすぐに追いつかれてしまう。

 僕はタタタッと家の方へ走っていくと、その後から追いかけるようにダダダだっと勢いの良い足音が聞こえてくる。

 どのぐらいの距離にいるのか、サッと一瞬後ろを振り向き美香を確認する。すると美香の足は止まっていて、青ざめた表情になっていた。


「浩輔、止まって!」


 止まれと言われて止まるやつがいるか。僕は美香の言葉など聞き流し、またもや全力で走り出す。その時だった。僕の……いや、僕たちの人生の針が狂い出したのは……。

 目の前を向くと、僕の視界の真左には二メートルを超える大きなトラックが迫ってきていた。どうして? この通りは滅多に車が通らないのに……。しかもものすごい勢いだ。なんでよりによってトラックがこんな速度で……。

 死ぬ間際。走馬灯のようなものが脳内を駆け巡る。目に見える景色のはものすごくゆっくりで、でも別に僕の見えてる世界がスローモーションになっているだけだから僕はもうこのままトラックにはねられて……。

 あぁ、人生ってこんなもんなんだな。平穏で穏やかな毎日を過ごしていても、死と隣り合わせ。人生ってこんなに儚いんだ……なんてことを考え、そこで僕の視界は真っ暗になった。でもかろうじて息はある。痛みも何も感じない奇妙な感覚と、泣き叫ぶ美香の声を最後に、僕の意識は途切れた。






























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

生を望んだ少女と生を拒んだ少年 ラリックマ @nabemu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ