終わり。

「え? 佐奈ちゃんがしんだ?」

「そんな事ってあるのかよ」

「佐奈ちゃん」

 薄々悪い予感はしていた。

 許可を出した時、行きたいと言った時。

 彼女は必ず、両親を探しにいくと。

 確信まではしていないが、なんとなくわかっていた。

「で、何があったんだ? 何かないと佐奈は死なない」

 私は問いただす。

「それが、一人狂っちまったんだ、多分空腹でな。それでどこからか持ち込んだサバイバルナイフを使って、食べ物が多く見つかることを良いことに脅したんだ、全て俺の物だって。そ、それで、なにかが気に入らなかった佐奈さんをサバイバルナイフで刺した。その時、彼女は近くにあった木片を蹴ったと思ったら、頭上にある船が落ちてきて我が身もろとも狂人を巻き込んで死んだ。体に複数のガレキが刺さってて、あー思い出しただけで気持ちが悪い。血の池だったよ」

「ありがと、戻っていいよ」

 と食糧回収に参加していた後輩に礼をする。

「悪夢」だ。

 こんなに悲しいことはあるのだろうか?

 いや、私が許可を出したから、こうなったのか。

 後悔は、必ず後にやってくる。事が終わった後に。

 自分を責め立てる事以外に頭が回らない。

 私のせいだ。私のせいだ。私、鵜飼美雨が許可を出したから、佐奈ちゃんは死んだんだ。

 どうやら、心の声は周りにも、漏れていたようで、心配そうに幸羽が、声をかけてくる。

「美雨ちゃんのせいじゃない。狂った人間が悪んだよ?」

 そう甘い言葉をかけてくる。

 そんな現実逃避の甘い蜜に食いついたとしても、私は関与している事実は変えることはできない。

「私が、悪い」

「違う。美雨ちゃんのせいじゃない」

 そう涙目で怒鳴る幸羽。

 すると誰かが唐突に叫び出した。

 未来だ。

 彼女は何を思ったのか走り出し、急な崖に身を乗り出した。

 彼女の姿が見えなくなって、コンマ数秒後。

 べチャンと言う、柔らかい物が落ちる音がした。

「未来ちゃん」

 人々は、不思議そうに崖の下を覗き込むが、見た者は顔色を悪くして、立ち去っていく。

 この状況からわかることは一つ。

 死んだ。

 佐奈に続いて未来も死んだ。

 事実は変えられない。

 この未来が死んだ事も私のせいだ。

「そんな、そんな。未来ちゃんも私たちの前からいなくなるのなんて信じられない」

 涙を溢しながら、呟く幸羽。

 時は過ぎて夜。あれから一言も言葉を発しなかった幸羽は、眠りについた。いや、そう見えた。

 朝。

 現実。

 そこには首を吊った幸羽の姿。

 言葉が出なかった。

 毛布はロープ状になって彼女の首に巻きついている。

 私は、冷たくなった幸羽を留置所に置きにいった。

 何故か、涙は流れない。

「先輩大丈夫ですか?」

 と後輩の声。

 この時、幸羽、佐奈、未来の三人があった。

 私はそれぞれ、それらから生えている髪の毛を少量、切り取りたまたまポケットに入っていた、薬の入った袋、密閉の出来る袋にしまった。

 混ざってしまいそうだが、仕方ない。色が微妙に違うため、あとから仕分ける事は出来そうだ。

 私は生きる。

 そう決めた。

 数年が経った。

 今私は式場に立っている。

「おめでとう!」

 そんな声が聞こえてくる

 そこに三人の姿はない。

「当たり前か」

 そう呟く。

 ブーケトス。

 私が投げたのは誰もいない空間。しかし花束は少しの間、浮遊し大人になった三人の残像を見せた。

 気がした。

 実際は、職場の先輩がキャッチしていた。

 今でもあの髪の毛は持っている。

 肌身離さず、持ち歩いている。

 夜。

 私は話した。夫の男に。

 私が体験した事。

 私の初恋の人。

 私の両親の事。

 私の全て。

 夫はどこか、彼女らに似た何かを持っていた。

 そう愛だ。

 


 どうでしたか? 人間が牙を剥く話は。

 そもそも牙という物は何なのでしょうか。「悪夢」? それとも「炬火」? その話は置いておいて。

 楽しんでいただけましたか?

 この話をハッピーエンドと捉えるか、バットエンドと捉えるかはあなた次第です。

 では、私はここで失礼するとする。

 

 生きるため「広大な水」


 さて。これから話しますは。壮大な海の話。ってのは嘘で、ある花嫁の話。

 彼女は親友を亡くし途方にくれていた。

 だがそこで支えになった男性の話。

 人間が優しく牙を剥く話。

 愛し合う二人の話。

 では、ご覧ください。

 終わり

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生きるため「静かな水」 生焼け海鵜 @gazou_umiu

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