2話

 私の目の前に現れた吸血鬼は、弧を描き人達の首元を切り裂いた。

 溢れ出る、赤黒い血。

 そんな血を啜り、テラテラと光る吸血鬼。

 吸血鬼。それは、血液を消費する者。

 動揺を隠せない吸血鬼は、顔を引きつらせて言った。

「今、ここにある食べられる食物は全て全て俺の物だ。いいか? お前らの命は俺の手の中にある。わかったら早く持ってこい!」

 そう震えた声で怒鳴った。

 吸血鬼は、視線をずらした。

 私の方を向いたのだ。

 私の手には、母のネックレス。

「お嬢ちゃん。あんた、俺の事睨んでる事わかってる? そんなに俺がうざったらしいか?」

 私は頷く。

「なら仕方ない。教育してやる」

 死神如く命を狩る人間の攻撃は凡人の私には、抱えきれないほどの威力だ。

 私はあっけなく、体の中に異物を入れてしまう。

 血反吐が出る。ちょうど胃のあたりを刺されたのだろう。

 だが、そんな思考を止めさせるほどの轟音が頭の中に響く。

 刺される瞬間、地に乗り上げた船を支える木片を、蹴り飛ばした。

 ガレキと共に、船が倒れてくる。

 吸血鬼を押し潰し、その鮮血は私の顔を汚した。

 私は、ガレキの針山になっている。

 至るとろが、熱く痛い。

 同時に、とてつもない寒気と眠気に襲われる。

 私は、身を投げ出しを委ねた。

 誰かのために生きたなら、私は「炬火」になれたのか。

 真偽は神が知っている。

 誰かのために死んだなら、私は「悪夢」になれたのか。

 神は笑った。

 私は炬火になり、周りを明るく照らし続けた。

 私は悪夢になり、暗闇に人々を陥れ苦しめた。

 人は、松明のようなものだ。

 必要とされる時は、光り輝く。

 燃え尽きた時、いらなくなった時、捨てられる。

 しかし、周辺の対象は、光がなくなり苦しめることになる。

 だが、社会では関係ない。

 炬火は、人に身を捧げた証。

 悪夢は、人に記憶された証。

 私は、悪夢を見せられた、それだけ私を思う人がいるということ。

 私は、笑った。

 神は、笑った。

 さよなら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る