13.調理中は抗議中?

 さんさんと輝いていた太陽も地平線へ沈み、砂漠一帯は闇へと包まれていた。星や月の輝きを頼りに、オームギとシキ達は砂を踏み魔女の住処へと帰宅する。


 オアシスの中。中心に建つ家を囲むように広がる湖は、夜空の光を反射し幻想的に輝いていた。白い屋根の家の扉を開けると、オームギは灯りを点け運んだ魔物の亡骸をそっと床に置く。


「さて、遅くなっちゃったしササっと作っちゃいますか。あ、運んできたその子達は一緒に並べておいて」


 指先を適当に床へ向けながら、オームギは屋内にある食材を一通り確認すると早速調理の準備へ取り掛かる。有無を言わさない彼女の様子を前に、シキは怖気づきながらも口を開き、最終確認を取る。


「改めて聞くが、本当にそいつらを食べるのか……? ウッ、臭いもかなりキツいぞ……衣服にまで染み付いているではないか」


 計四匹も抱えて毛皮にまみれながら亡骸を運んだシキは、全身から漂う魔物の獣臭に思わずむせ返る。衣服の繊維にまでこびりついた臭いが、一層食欲を削っていた。


「だからお肉は貴重って言ってるでしょ! 口に合わないってなら私一人で食べるから、いちいち文句を言うんじゃない」


 相変わらず納得のいかないシキに対し、オームギは声を荒げる。だがそれでもと悪臭にげんなりする彼らを見て、思わずオームギはため息をつく。


 このまま文句を言われ続けるのも面倒だと考えた白の魔女は、身に着けていたマントと手袋を外しシキへと投げつけた。


「どわっ……!? い、いきなり何をする!」


「臭いなら表の湖で洗い流して来なさい。ここの湧き水は特別澄んでいるから、臭いも汚れもエーテルごと浄化してくれるわよ」


 つまるところ、投げつけられたマントや手袋はついでに洗って来いと言っているようだ。一通り指示を終えた白の魔女は、頭に被ったとんがり帽子を机に置き、肩まで伸びたピンクの髪を躍らせながら調理へ手を付けた。


「ほら、早くしないと先に作り終えちゃうんだから。分かったらさっさと洗って来なさい。あ、もちろん言わなくとも分かっているよね? オアシスから逃げ出そうとしたら……その時は覚悟してね」


「分かった分かった。全く、エルフというのは自己中で困るな……」


 愚痴を垂れながらシキは魔女の家を後にする。半日ほど前には命のやり取りをしていた相手だというのに、今はもう愚痴を零してもお互いに気にも留めていない。


 お互いに腹の内を探り合っているのか。はたまたどちらかが諦めムードなのか。妙に居心地の悪さを感じたエリーゼは、居ても立っても居られなくなりその場を立ち去る事にした。


「私も、洗って来ます……!」


 シキと同じく魔物を運んだエリーゼも、その高級なローブには獣臭が染み付いてしまっている。オームギ達の話を聞いたからという建前も残しつつ、エリーゼも臭いを落とすべくシキの後ろを着いて行った。


 二人が部屋を去った後、文句を言ううるさい連中もいなくなったと安堵するオームギ。騒がしい一日を終えいつものように静かな空間を取り戻した彼女は、手慣れた様子でいそいそと調理を進めようとした。


 しかし、そんな静かな部屋にはもう一人。シキ達と共に出ていかなった人物が、調理中のオームギをジッと見つめていた。


「…………」


「……あれ。貴方は行かないの?」


「…………?」


「ああ、そういえば貴方だけ運んで無かったわね。魔物の調理なんて見ていて面白い物じゃないけど、それでもここに残るって訳?」


「…………」


「そ。まぁいいわ。最低限、貴方が残っていればコア探しは続けられるし、手厚くもてなしてあげるわよ」


 隙を見てここから逃げるとか、一緒に行って作戦を立てる。なんて事をネオンはやらない。それはオームギの人質となり二人に余裕を持たせ、現状を打破する妙案を考えさせるため。

 などとは一切考えておらず、ただただ用意される食事をいち早く腹に納めたい。ネオンにあるのはその一心だけであった。


 そんな事とはつゆ知らず、オームギはネオンを警戒しながらも、着々と調理を進める。


「さぁ、賢人と呼ばれる私の調理スキル、とくと味わいなさい……!」


「…………!」


 そういうとオームギは突如大鎌を振り被り、エーテルの刃を出現させた。

 食事を楽しみに爛々と瞳を輝かせるネオンへ、大鎌はその刃の真の実力を示すのであった。

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