二話目 その日。
パッと目を覚ました、ここは一体何処だろう。身体を起こして、ベッドから降り立つ。すると保健の先生がこちらにきて
「あ、覚めたのね!ちょっとまってね、今先生を呼んでくるわ。」
そう言ってガラガラと音を立ててどっかへ行ってしまった。僕はどうしてここにいるのかわからなかった。ふと時計が目に入った、ので時刻をみると、既に昼休みから一時間が過ぎていた。一体どうゆうことなのだろうか。思考を働かせていると復も扉が開いて担任がきた。僕は堪らず先生より先に口を開いた
「先生、僕はどうしてここに?」
キョトンとしている僕に優しく先生が言った
「稔、お前は廊下で倒れていたんだ、それを俺が見つけてな、ここまで運んだんだよ。少し頑張り過ぎたんじゃないか?」
あっ、と思い出した。そういえば僕は急に意識が飛んで…でも、どうしてだっけ。
「すごい緊張もしてたし、少し頑張り過ぎちゃったかもしれません、運んでくださってありがとうございます、先生。」
「なんてことねぇよ、とりあえず体調は大丈夫そうなら、体育祭に戻るか?…そういやお前、飯は食べたのか?」
心臓が跳ねた、そうだ、そうだよ。僕は探してたんだよ、母親と父親を。僕は先生に聞いた
「先生、僕の父と母を見ませんでした?お弁当を運んできてくれるって言ってたんですけど何処にもいないんですよね。」
「稔のお父さんか?…いや、一度も見てないな。力になれなくてすまんな、見かけたら校内放送でもかけるから、とりあえずお前は俺の弁当でもたべろ。」
そう言って先生がお弁当をくれた。焼売弁当だった。
僕がご飯を食べ終わってグラウンドに戻ると、皆がまっていた、何してんだよ!と声を揃えて言っていた。僕はごめん、ちょっと先生に呼ばれてさ、と言い訳をした。
そうして一人になった時、水那が近づいてきた。
「稔、ごめん!思いっきりこけちゃった!」
頭を下げて謝る水那、別に勝てたのでそんなことはどうでもよかった。
「ううん、全然大丈夫だよ、どうせ勝てたし。それよりそっちの傷は大丈夫なのか?」なんて話をしながら時間を潰した。
そして、結果発表の時がやってきた。僕は気絶してどうなったか全くわからないので、内心ドキドキしていた。四位から発表されていく、四位黄色。違う、僕らの組じゃない。三位青色。これも違う。そして、一位が発表された。僕らは、一位だった。
僕は大きく胴上げされて、とてもその日を祝った。そうして体育祭は終わりを迎えた。片付けやらなんやらをすまして、帰路へとついた。
午後5時頃、僕は自宅の最寄駅に降りて、自転車に跨り、漕いで家に向かっていると変な感覚に襲われた、これは所謂デジャヴだ。駅から家までの短い距離感で何度も、何回もデジャブに見舞われる。なんだこれ…何処で、いつどこでこの景色を見た?歩いている小学生がカードゲームの話をしている。この後この子は何かに躓いて転ぶはず。思ったそばからその小学生は転んだ、しかもどこかで見た光景のまま。これは一体、どこで見た光景だろうか。気持ちの悪い感覚が消えないまま家まで帰ってきた。自転車から降りて、扉の施錠を外そうとした時、激しい頭痛が僕を襲って、今までにないデジャヴを感じた…。そうだ、この光景は全て、あの夢で見たものだ…!
僕は恐る恐る、けれど急いで扉を開けた。
__そこは、地獄だった。異臭なんて言葉では片付けられないほど、酷い匂いが漂っている。屍臭だ。壁一面に血やら内臓が飛び散っている。母親は首から上の存在が無く、妹は股を裂かれて腸がどろっと腹から垂れており、父親の四肢は綺麗になくなっていた。家で飼っていた犬も頭だけが残されていた。僕は、その日、感情が全てなくなった。親が残虐に殺されて、弄ばれているのに、怒りも、悲しみも、憎しみも、何も感じなかった。でも、どうしてだろう、何も感じないのに、悲しいとも思わないのに、涙腺だけは緩んで、涙は頬を伝って落ちて行った。ただ、一滴、最後の一滴が。
そうして、何時間か経過した時、他の住宅から悲鳴、叫び声が聞こえた。僕は血塗れの身体で声を方へと歩み始めた。すると、そこには僕の家のように地獄があった。僕はその時初めて吐いた。そしてまた、どこからか悲鳴が聞こえる。その日は、その街から悲鳴が絶えず聞こえていた。パトカーのサイレンも、救急車の音も、報道のヘリコプターも、全てがその悲鳴をさらに発狂させた。
僕は強く歯を食いしばった、歯が欠けてしまう程、強く、そして同時に誓った。この事件に王手をかけるのは僕だと。
その日。 池内弥 @H4ru
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