side b
孝紀の奴、突然話があるなんてなんだろう?
もしかして、告白?あるわけないか……普段の態度からいっても考えられない。
部活の練習を終え、呼び出された図書室に入る。孝紀はまだ来ていないようだ。
「呼んでおいてきてないだなんて、先に来てるのが礼儀ってものでしょうが……」独り言をつぶやくと、奥の席に腰を下ろし、カバンから、読みかけの文庫本を取り出す。
今にも雨降り出しそうだなぁ。今日、傘持ってきてないんだけどな。孝紀に送らせよう……待たせてるアイツが悪いんだから。
「雅、待たせてゴメン」孝紀が正面に座り頭を下げる。
「私もさっききたトコだよ。で、話って何?」
「あ、あぁ……あのな」もう、早く本題に入りなさいよ。
ゴロゴロゴロゴロ ドドーン!!!!
雷鳴とともに、窓の外は激しい雨が降りはじめた。
「もう……傘持ってきてないのに……孝紀、傘有る?」
「持ってるよ」
送らせよう、嫌なんて言ったら、傘奪って帰ってやる。
「送ってくれない?すぐ近所なんだしさ」
「仕方ねぇな、送ってやるよ」仕方ない?送ってやる?誰のせいで、雨が降る前に帰れなかったと思ってるのよ。
荷物を持って立ち上がる孝紀に続くように、本をしまうと図書室を後にした。
久しぶりだな、こうして帰るの。……小さい時は男とか女とかって関係なく遊んでるのにな。でも、どうしたんだろう、突然の呼び出しだもんな……メールや電話じゃダメな話なのかな?やっぱり……告白?
「ねぇ、話ってなんだったの?」もう少しくっつけばいいのに。孝紀、濡れてないのかな。
「話?あ、あぁ……高校どこにすんのかなって思ったからさ」
「進路の事だったの?」つまんないの……。
「そうだよ。近所だしさ、もし同じ高校、受験するなら、勉強とか一緒にできるかなって思ったんだよ」メールでいいじゃない。ちょっと期待したのに……。
「勉強会?私が教えるだけじゃないの?」
「今、バカにしたろ?」
「事実だと思うんだけど?」二人で勉強かぁ、いいかも。
「そんな事ないさ。俺が本気で勉強したら、ビックリするような結果がでるぞ」
「そんな事ないから大丈夫よ」
「そんな事って?」
「本気で勉強するなんて事よ。想像もできないわ」もし、孝紀が本気で勉強したら……同じ高校行けるのかなぁ。
「クソッ驚かせてやる!」
考えてみると、こうして帰るのずいぶん久しぶりだな。
もう少し話してたいけど、家に着いちゃったな。
「ありがとう。孝紀はどこ受験するつもりなの?」
「西高だよ。近いしな、あのぐらいじゃないと厳しい」苦笑いを浮かべながら、孝紀が答える。
「私もだよ。ちかいしね、あそこ」西高か、一緒に行けるといいなぁ。
「じゃあ、勉強会しようぜ」本気なのかな?孝紀。
「真面目にやるっていうなら、考えてもいいわよ」
「次の試験の結果で驚かせてやるからな。ほら、早く家に入れよ、風邪ひくとマズイからな。さっさと着替えろよ!じゃあ、また明日な」孝紀はそう言うと、背を向け歩き出した。
雨のおかげかな……ずいぶん話ができた。
あれ?そういえば私ほとんど濡れてない。傘大きいのだったかな?
扉に伸ばした手を止め、孝紀の後ろ姿を確認する。ひと目でわかるほど、孝紀の右肩は濡れていた。
もう、風邪ひくの孝紀の方だよ。……そういうトコが好きなんだよ。孝紀、気付いてないんだろうなぁ……。
部屋に入り、着替えをすませると携帯を手にとる。アドレスから孝紀のナンバーを表示させると、雅はコールボタンを静かに押した。
Fin
雨#2 ピート @peat_wizard
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