49.「過去の思い出が、記憶のイメージが、走馬灯のように駆け巡り――」
――えっ? 何が起こったの……?
カラッポになった噴射型花火を握って、ポカンとした顔で突っ立っている僕……、葵クジラの眼前、浅黒い肌の海パン君が、暗がりの空を舞っている。
「……スケベ野郎、鉄拳制裁、地獄にオチロ」
五七五のリズムで、……いや大分字余りではあるんだけど――
低く、冷たく、唸るような声をあげたのは、『ホタル』で――
……あ、何が何だかわかんないよね。数分前に戻ろうか。
――例によって自制の鍵がガチャリと外れてしまった僕は、見知らぬ三人の海パン君たちに、本気で火傷を負わせてやろうと、花火片手に彼らのことを全力で追いかけまわしていた。
……あ~あ。
追いかけまわしながら、僕はぶっちゃけ自暴自棄になっていた。見知らぬ人に花火を向けるなんて、およそ常人のやることじゃない。今警察がココに現れたら、捕まるのは間違いなく僕だ。そんなことを、普通に考えたらやっちゃいけないってわかりきったことを、平気でやっちゃうのが僕だ。
……ホタルはともかく、引いたよなー、雷と、柳さんも――
せっかく出来た友達。殻に閉じこもっていた僕のことを、優しく引っ張りだしてくれた仲間。 ……僕は彼らとの仲を、たった一回の愚行で壊してしまったんだ。
……アハハハハハッ――
ウケる。滑稽すぎて、笑いが止まらない。
……やっぱ僕なんて、一人でひっそり生きていくのが、お似合い――
「あっ――」
こぼれた声と共に、勢いよく噴射していた光の花が消える。呼応するように、僕はピタっと足を止めた。
「……て、てめぇ……、覚悟は、できてんだろうな……ッ」
海パン君たちが、『危険が去った』と認知するのは意外と早かった。
ゼェゼェと肩で息をしながら……、文字通り鬼の形相で、僕のコトをギロリと睨みつけていて――
……あーっ、これはもう、アウトだな。
僕が運動音痴なのは周知の事実だろう。殴り合いのケンカなんて得意なワケがない。
「……歯を、食いしばりやがれ……ッ!」
僕の眼前、鼻先十センチメートルの距離、吊り目の彼がずかずかと近づいてきて、その顔には『殺す』という文字がビッシリと書き殴られている。
……さよなら、雷、さよなら、柳さん、さよなら、青春。
自らの命を絶つかのように、ギュっと目を瞑って――
――ばっこーんっ。
鈍い衝撃音が、耳の奥に響く。
僕の頭の中、過去の思い出が、記憶のイメージが、走馬灯のように駆け巡り――
――いや、駆け巡ってなどいなかった。
……っていうか、あれ……? 『痛み』が、来ない。
混乱した頭で、恐る恐る目を開けたところで、
冒頭の描写に、還ってくるワケで――
――えっ? 何が起こったの……?
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