47.「やべっ、出ちゃったよ」
――えっ? 何が起こった……?
――まずは『音』。俺……、雷コトラの耳に飛び込んできたのは、柳の、いつものアホみたいな叫び声。
――つぎに、『視界』。俺の目の前で屈みこんでいた柳が、体勢を崩して前方につんのめる。そのバカみてぇにでかい胸を、両腕で抱え込みながら……。
「……や、やったぞ! ……どうだ……、俺だって、俺たちだって……、やろうと思えばおっぱいくらい触れるんだよ!」
「――さっすが巨乳フェチの助兵衛! 俺たちに出来ないことを平然とやってのけるッ! 別に痺れないし、憧れもしないけどッ!」
……コイツらは――、さっき、柳のコトをナンパしようとして失敗してたクソガキ共じゃねぇか……ッ!
「……オイッ! てめぇら……ッ」
思わず立ち上がって、俺はケラケラ笑ってる浅黒い海パン野郎どもをギロリと睨みつけた。俺に気づいたのか、一番ガタイのいい短髪の吊り目が、ピタっと笑うのを止めて――
「……なんだよ、やんのか? お前、もしかして、黒帯のカレシって奴か? そんなヒョロヒョロの身体で、よく柔道なんてできんなぁ~?」
ニヤニヤと、薄気味悪く口角を吊り上げる。
……やべっ……。
――出ちゃったよ、『チキンの俺』……。
勢いよく立ち上がってみたはいいものの、
か、身体が……、動いてくれねぇ……ッ!
吊り目の海パン野郎が、余裕シャクシャクな態度で俺に近づいてきた。俺の鼻先十センチメートル、ソイツは心底『バカにした』ようなツラで、フンッと鼻を鳴らして――
「……是非、手合わせ願いてぇなぁ~?」
……クッ……、ソッ……、ッタレ――
ドキドキと、動悸が収まらない、必死で隠してはいるが、膝はガクガクで一歩も動けない。あげくの果てに、額に脂汗がジワジワ浮かび上がってきて……。
「……こ、コトラくん……、わ、私は大丈夫ですので、危ないコトは、やめましょう――」
……柳――
――お前が、一番ムカついてるだろうに、一番、怖いだろうに……。
――そんな奴に、そんなコト言わしちまって……。
俺は……、俺は……、俺は……、
オレハ…………ッ!!
「……目には目を。完全懲悪。正義は勝つ」
――ふと、『ソイツの声』が聞こえた。
目を向けると、
相変わらずの無表情で、
何を考えてるのかてんでわからねーツラで……、
『葵クジラ』の片手、最後にブッぱなそうと思ってた『噴射型花火』が、
もう片方の手には、『チャッカマン』が握られていて――
「――夏と言えば、やっぱ花火だよね。……君たちさ、花火って、好き?」
クジラがニヤッと、
イタズラを思いついたガキみたいに、
無邪気に、笑って――
――ブシューーッ!
「……あちあちあちあちッ! あちぃぃぃぃぃぃッッ!」
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