11.「あ、いえ、ただのヤジ馬根性です」


 「……えっ、なんで?」


 私の心の中の声を、葵くんが代弁してくれました。あわあわと慌てている今の私には、淑女らしさのかけらもないことでしょう。他のクラスメートに見られたら大変です。


「い、いや……、その、ホタルにカッコいいこと、見せたいからさ」

「……さっき、『仕方ねぇな』って言わなかった? ……ホタルのことは諦めたんじゃないの?」

「――はっ? 諦めるわけねぇだろ。……お前が紅に気がないんだったら 俺にもチャンスあるってことじゃねぇか?」


 ――えぇーっ!!


 ……コトラくん……、なんて、一途なんでしょう!

 男らしい……、また、惚れ直してしまいました。いや、紅さんへのジェラシーも半端ないですけど。


「……なんか、雷ってかっこいいね」

「……なんだよ急に」

「……いや、僕は、好きな人に想いを伝える勇気なんてないからさ。なんか、傷つくかもしれないのに、自分の気持ちに正直になれるのって、カッコイイなって……」


 ――淡々と言葉を紡ぐのは『葵』くんで――、カッコイイと言われたコトラくんは、きょとんと目を丸くしています。


「えっ、お前、好きな人とか、いるの?」

「……えっ、まぁ、いるけど……、ダメなの?」

「……マジか、お前、三次元に興味がないタイプの人種だと思ってた……」

「……雷、さっきの言葉そのまま返すけど、『偏見にもほどがある』よ……。僕は確かに暗いしインドア趣味だけど、萌えが好きなわけじゃないから……」

「へぇ~っ、なんかやっぱり、お前って話せば話すほど面白いな……、なぁなぁ、お前の好きな奴って、誰なの?」

「――えっ!?」


 ――普段はポーカーフェイスの葵くんが、露骨に慌てました。……確かに、実は私も気になっていたんです。もの静かで何を考えているかわからなくて、あんなにわかりやすい紅さんの好意にも気づかない葵くんが、好きな人って誰なんだろうって――、あ、いえ、ただのヤジ馬根性です。


「……言わないと、ダメだよね?」

「俺もここまで言ってんだから、フツウ、言うだろ」


 ――コトラくんの目が、子供のようにワクワクしています。……かくいう私も、実はちょっとだけ興奮しています。ああ、他人に恋路は、なんて甘い果実なのでしょう――、ワクワク。

 ハァッ、と露骨なタメ息を吐いた葵くんが、観念したようにポリポリと頬を掻いて――


「……僕が好きなのはね、うちのクラスの、柳さんだよ」



 ――えぇーっ!?



 ……ワ、ワタシナノデスカ!?


「あ~、柳か! 確かに美人だし……、お前、好きそうだな。ああいうタイプ」

「――な、なんでだよ。まだ対して喋ったこともないのに、雷は僕の何を知っているのさ」

「……いや、お前のことは、この二日で大分わかったよ」

「…………さすがリア充。コミュ力高いんだね」


 ――後半の会話は、殆ど耳に入ってきませんでした。重い土器で殴られたような衝撃が全身を駆け巡り、私の身体が思わずフラつきます。……あ、でも、コトラくんが美人って言ってくれたことは、しっかり耳でキャッチしてました。


 ……えっ、ちょっとまってください。いささか混乱してきました。

 恋の触手に、補足説明をお願いしてみます。


『オイ、お前が惚れてる雷コトラは紅ホタルのコトが好きで、その紅ホタルが好きな葵クジラはお前に惚れてるんだろ……、これ、めちゃめちゃこじれてねぇか?』



 ……ですよね……。ど、どうしましょう――

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