第15話 「あのねぇ……」 そんなことでは揺るがない。

 テストは十二月七日から十二月九日までの三日間行われ、今日が最終日だった。

 勉強の成果あってか、いつもよりもスラスラ解くことができたので、たぶんそこそこの成績を叩きだしていると思っている。

 うらら琴羽ことはには感謝しなければいけないな。


「というわけで、打ち上げを……」

「いい成績だったらね」

「麗の鬼畜……」

「あのねぇ……」


 拗ねたようにして見せるが、麗はそんなことでは揺るがない。

 そんな俺たちの様子を見て、琴羽が「まぁまぁ」と宥めながら入ってくる。


「せっかくだからやろうよ~。クリスマスも近いし~」


 そういえばクリスマスなんて行事があったな。

 俺には関係のないものだと思ってたけど。


「クリスマスパーティーとかいいよなぁ……」

「それあたしもやりたいわ」


 麗の賛成を得ることができたので、俺の思考は急速に加速する。

 これはクリスマスパーティーをするしかないな。


 みんなでご飯食べたり、遊んでテレビ見てのんびりしたり……。

 お泊り会とあんまり変わらないかもしれない。


「クリスマスは二人でデートとかしないの?」

「たしかにな」

「それもいいけど、でも……」


 琴羽の言うことも一理ある。

 でも、俺と麗は同じ意見のようだ。


「みんなで賑やかに過ごしたいよな」

「そうそう」


 たしかに麗と二人きりでデートとかもロマンチックだし憧れはある。

 でもなんかそれって俺たちらしくないと思うんだよな。


 それに、今回はそれだけじゃない。


「心優は、みんなでお泊り会とかしてないし」


 みゆだった頃の記憶はあるけれど。

 たぶん、どこか他人事のように感じているんじゃないかと思って。


 それに、退院祝いなんかもできていない。


 なら、もう一度って思うのは当然で。


「というわけだから、琴羽は強制参加な。大丈夫だよな?」

「もちろん!」

「麗も。大丈夫って言ってたら、七海ななみちゃんとかえでちゃんも連れてきてな」

「任せてちょうだい」


 とりあえず前回泊まりに来たメンバーは確保。

 来れるか来れないかは後でだけど。


「そういえば……」

「なに?」


 一つ忘れてたことがあった。


「お土産、渡してないんだよな」

「あぁ……」

「え、なになに何の話?」


 麗と二人で水族館にデートに行ったときのこと。

 みんなの分のお土産を買ってきたのだが、その日に心優の事故があって誰にも渡せていなかった。


 お菓子などを買ったわけじゃないから大丈夫だけど、今の今まで忘れていた。


「麗と水族館に行ったんだよ。その時のお土産。明日持ってくるよ」

「わぁお……いつの間に……。楽しみにしてるねっ!」


 祐介ゆうすけたちみんなの分もあるから、それも全部持ってくるか。


「祐介たちにも渡すから、その時にクリスマスパーティー誘ってみるわ」

「じゃあ私紗夜さよちゃん誘う!」

「お土産渡すから一人で行かないように!」

「え~」


 言ったそばからまったく……。


「じゃ、麗また明日」

「またね~」

「二人ともまた」


 咲奈さきな駅に着いたので俺と琴羽は電車を降りる。

 スーパーに寄ってから俺たちは家に帰った。



※※※



「ありがとう二人とも」

「ありがと~」


 十二月十日の朝。

 さっそく祐介と姫川ひめかわさんのカップルにお土産を渡していた。

 ニコイチのストラップだ。


「それとさ、二人ともクリスマスうちでパーティーしない?」

「あ~悪いな康太こうたかなでと出かけることにしててさ」

「そっか。それなら仕方ないな」

「せっかく誘ってくれたのにごめんね神城かみしろくん、麗ちゃん」

「いやいや全然!」

「楽しんで来てね!」


 祐介と姫川さんのカップルはダメか……。

 ちょっと残念だけど、仕方ないな……。


「ダメだったわねぇ」

「ま、仕方ないな」


 なんとなくこの二人はデートしそうだと思っていたし、俺の中ではやっぱりなという感じだ。

 またどっかのタイミングで遊べればいいなと思う。


「どうだった?」

「ダメだったわぁ」

「そっかぁ……」


 琴羽にも報告をして、一旦確認をする。


 麗にお願いした七海ちゃんと楓ちゃんの二人は来れるとのこと。

 泊まりも大丈夫だそうで、藍那あいな三姉妹は泊まりに来ることになった。

 琴羽も泊まりで来ることになったので、前回のメンバーは確定になったわけだ。


「真莉愛ちゃんは心優ちゃんが聞いてるんだよね?」

「そうそう。じゃあ後は千垣ちがきだな」


 昼休みに例の空き教室に行けばいるだろう。

 土産も持ってきたし、昼休みまで待つことにした。



※※※



 昼休み。

 昼食を食べ終えた後、俺と麗と琴羽は例の空き教室に向かっていた。


 教室が近づくにつれてギターの音が聞こえてくる。

 そして今回もまた、千垣自身の歌声がギターの音色と一緒に聞こえていた。


 前回注意されたことを踏まえ、一度ノックをしてから返事を待つ。

 中からはガタンという音が聞こえたけど、聞かなかったことにしておこう。


「はい……?」


 返事が聞こえたので扉を開ける。


「よっ千垣」

「神城……。藍那に藤島ふじしまさんも……」

「琴羽って呼んでほしいなぁ……」

「慣れたらで……」

「もーう!」


 いつもの光景を目の当たりにしつつ、俺たちは近くの机や椅子を寄せて座る。


「それで神城……。今日はどういう要件……?」

「土産だよ土産」

「お土産……?」


 俺は千垣に紙袋を差し出す。


「麗と水族館に行った時のなんだ。もう結構前だけど……」

「そうなんだ、ありがと……。開けていい……?」

「もちろん」


 千垣はガサゴソと紙袋の中身を取り出した。

 そして包装を剥がしていく。


「コップ……?」

「そうそう。弁当箱は間に合ってるかなって思って」

「紗夜ちゃんの好きなのってまだよく知らないからさ……」


 俺もそうだが、千垣とはよく話しているのに、好きなことやものがあんまりわからない。

 食べ物が好きということと、音楽が好きということはわかるのだが……。

 写真は撮るものが撮るものだけに、好きなのかどうかわからないし……。


「ありがとう……。大事に使わせてもらう……」


 そう言った千垣は大事そうに鞄に片づけた。


 喜んでもらえたようでよかった。

 麗と顔を合わせて微笑み合う。


「それだけじゃないんだよ紗夜ちゃん!」

「なんですか……?」

「クリスマス、康ちゃんの家でパーティーするんだけど、紗夜ちゃんも来ないっ?」


 琴羽に先に言われてしまった。

 会場は俺の家のはずなんだけどなぁ……。


 誘われた千垣は琴羽ではなく、俺と麗の方を見る。

 なぜだかやれやれと言ったような顔をされたが、


「行くの遅くなるけど、それでもいいなら……」

「やったー!」


 了承してもらうことができた。

 真っ先に喜んだのが琴羽だったが、自重してもらうことも考えておこう。


 しかしこれで前回よりも盛り上がることは確定したな。

 後は真莉愛ちゃんが来れるかどうかだが……。



※※※



「まりぃちゃん来れるってぇ」

「お、それはよかった」


 家に帰ってからすぐに心優は教えてくれた。

 ということは、俺と心優、麗に七海ちゃんに楓ちゃん、琴羽に千垣に真莉愛ちゃんが来るわけだな。

 人数的には八人……かなり多いな。


 料理のことも考えなきゃダメかなぁ……。


「何作るか迷うねぇ」

「それもそうだけど、今回は出前も使おうかなぁ」


 心優は作る気満々のようだが、さすがにこの人数分は時間が掛かりすぎる。

 時間を買うという意味でも、何か注文をして頭数を増やそう。


「最近バイト行ってなかったし、クリスマスまでバイト入れようか……」


 店長は事情を知ってくれているが、それでも申し訳ない。

 テストがあってまたバイト出れなかったし、クリスマスまではとりあえず入れようかな。


「じゃあそれまでわたしが当番やるよぉ」

「え、いいのか?」

「だってずっとお兄ちゃんやってくれてたんでしょぉ?」

「まぁそうだけど……」


 心優の記憶がない間、俺が全部やっていた。

 でもそれは、みゆにこれ以上の負担を掛けないためだったし……。


「やらせて?」


 心優は真剣な表情で俺にそう言う。


 そこまで言われて断れるものでもない。


「わかった。じゃあうんと稼いでくるから、当日楽しもうな」

「うんっ」


 俺はバイト先に連絡をして、土日のシフトを長めに取り、平日もシフトを入れてもらった。

 クリスマスまではみっちりすると連絡すると、店長は心配しながらもおっけーしてくれた。


 何かあったらすぐに言ってねと言ってくれた。

 いい店長なのだ。


「連絡終わったぁ?」

「おう。何作ってるんだ?」

「アボカドもらったからチャンプル~」

「もらった……?」


 誰からもらったのかはわからないが、チャンプルーにするらしい。

 ゴーヤといえばあの強烈な苦みだが、あれがおいしくなるのだろうか。


「わたしも上手くできるか心配だから、おかずちょっと多めに作るねぇ」

「手伝おうか?」

「大丈夫だよぉ」


 心優は手際よくささっと料理を済ませていく。

 これは本当に出番がなさそうだ。


 やがてできた料理は、食卓に並べられた。

 そしてやはり気になるのはゴーヤチャンプルー。

 今まで食卓に並んだことのないものなので、嫌でもほかとは違うように見えてしまう。


「「いただきます」」


 さっそくゴーヤチャンプルーに手を伸ばす。

 とてもいい香りで、食欲をそそる。


 しかし、苦みのことを考えてしまうとどうにも口に運ぶ勇気が湧かない。

 でもやはり、いい香りが……。


「はむっ」


 俺が食べれずにいると、正面で心優はすでに一口食べていた。

 呆然としつつどうなのだろうかとそわそわしていると、心優の表情がパッと笑顔になった。


「おいし~!」

「まじか……」


 左手が頬にそえられているところを見るに、かなりお気に入りになったようだ。

 俺も意を決して口に運んでみる。


「これは……!」


 たしかにゴーヤの苦みはある。

 しかしこの苦みは、おいしく感じることができる。


 木綿豆腐の優しく甘い食感と、濃く味の絡みついた肉。そこに苦みがほどよく抑えられたゴーヤが上手くマッチしている。


「これはおいしい苦みだな……」

「ね!」


 心優も嬉しそうに箸を進めた。

 これはみんなにも是非食べていただきたい……。


「「ごちそうさまでした」」


 ご飯を食べ終え、食器を洗おうとすると心優に止められてしまった。

 なので、おとなしくテレビを眺めている。


「そういえば、心優の方はテストどうだったんだ?」

「なんとかなったと思うよぉ」


 心優のテストは先週。

 記憶が戻ってから三日後のことだった。


 なかなか大変だった部分は多いだろうが、七海ちゃんと真莉愛ちゃんも一緒に勉強をしていたし……。

 もともと優秀な心優が、優秀な二人から勉強を見てもらえば余裕だったんじゃないだろうか。


「お兄ちゃんはどうだったのぉ?」

「麗と琴羽のおかげで今回はそこそこ良さそうだ」

「いつももっと勉強した方がいいと思うよぉ……」

「たしかにそれはそうなんだけどな」


 麗にも同じことを言われた。

 いい大学とか行けないよって。


「これからは頑張るよ」

「そぉ?」


 麗や琴羽に助けられながらだとは思うが、俺はテストを本気で頑張っていこうと思う。

 あわよくば、上位者のリストに載るくらい。

 成績が良くなれば、選択の幅が広がるのもわかっている。

 だからこそ、俺は頑張っていこうと思える。


 だってもし、麗が大学を選択するというのなら。

 その大学に、学力が足りないから行けないなんてことは、悲しすぎるから。

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