第18話 ロックオン

第45回日本少年野球選手権大会

中日本ブロック予選


2回戦

吉田ヶ原ボーイズ vs 愛知豊ボーイズ



一回表


珍しくヒデシくんのコントロールがおかしかった。

先頭バッターにストレートのフォアボール。

次のバッターもその次のバッターも 3ボールまでいって、なかなかストライクが入らないみたいだった。

ちょっと力み過ぎてたみたい。


それでも最後はうまく打たせてサードフライとショートゴロに打ち取って、ツーアウトランナー一塁になって、 相手の 4番バッターもセンターフライに打ち取った。


でもセンターのリョーマくんがこれを前進し過ぎてバンザイ。

ボールがセンターの一番深いとこまで転がった。

ぼく必死にボールを追いかけて、中継のショートに全力で投げたんだけど、ボールが逸れちゃって…ちゃんと中継出来なくて……

結局ランニングホームランになった。

ぼくのミスで相手に2点先制されちゃった。


その裏

こっちは 1番も 2番もフォアボールだった。

相手はアンダースローのピッチャー。

球も速くてちょっと珍しいタイプのアンダーだったけど、やっぱり立ち上がりのコントロールはよくなかった。

でも 3番ヒデシくんがボール球に手を出しちゃって三振。

4番バッターもボール球を振って三振。

浮き上がって来る荒れ球がすごく打ちにくそうだった。

でも5番バッターはストレートのフォアボールで出塁した。

やっぱりコントロールがよくなさそう。


ツーアウト満塁でぼくに打順が回って来た。

スタンドの応援がぼくの名前を叫んでる。

スタンドにはママもおじいちゃんもおばあちゃんも……ビクトルたちもいた。


すごく緊張したけど、それどころじゃなかった。

ぼくミスしてたし、ヒデシくんも三振して落ち込んでたし、リョーマくんなんてこっそり泣いてたし……


チームの空気がおかしかったから、ここは簡単に打ち取られるわけにはいかない。

1点でも返しておきたい。



初球…


ど真ん中。


ぼく、力丸スイングで力いっぱいボールを叩いた。


「ストライクッ !」


・・・あれっ




2球目


内角……真ん中。


力丸選手のマネで、思いっきりスイング。


「ストライクツー」


・・・あれっ


ぜんぜん当たらない。



・・・どうしよう



3球目……内角高め


振りそうなバットを必死に止めて我慢。


「ボール」


・・・ ?



振り返って見たら、捕球したキャッチャーミットの位置がすごく高かった。


・・・アンダースローのボールってあんなに浮き上がるんだ


ぼく、ボールがぜんぜん見えてないんだ。



ちょっと打席から出てスイングした。



“ ロックオン ”


タカさんが前にバッティングセンターで教えてくれた言葉。


「どうせバットに当たる瞬間のボールなんて見えないんだから “ ここで打つ ” ってロックオンした時に、ボールがしっかりと見えてればいい。あとはバットが勝手に打ってくれる」


あの頃、タカさんとよくシューティングゲームで戦ってて “ ロックオン ” っていう言葉がぼくのお気に入りだったから、タカさんの言いたい事がよくわかった。


“ ボールは最後の最後までよく見るんじゃなくて、このボールを打つって思った瞬間ロックオンする ”



心臓がバクバクしてた。



・・・落ち着いて



周りの音がぜんぜん聞こえなくなった。



・・・緊張してるけど……リキんだら負け




4球目……また内角高め。


また釣り球。


さっきより慌てずに見逃せた。



「ボール」



2 ー 2ツーエンドツー




5球目


外角……ここから浮き上がっても…


・・・ストライクになる


来たっ !


ボールを呼び込んで…


“ ロックオン ”


あまり踏み込まないように、体重移動だけで……


“ 肩だけクルッ ”



タカさんスイングでボールを叩いた。



・・・叩けた !



打球が一塁方向に飛んだ。



ジャンプしたファーストの上……



・・・越えた



ライト線。



「フェア !」



塁審がフェアグラウンドを指さしたのを見ながら一塁ベースを回った。


打球はどんどんファールグランドに切れて転がってた。


二塁ベースを回った。


足がもつれて転びそうになった。


そのまま、三塁ベースに転がり込んだ。


肩をタッチされたような気がした。



「アウトッ !」



・・・あれっ



アウトになっちゃった。



顔を上げたら、味方のベンチがみんなぼくに向かって拳を突き上げてた。



みんなすごく喜んでる。



スコアボードを見たら一回裏に “ 3 ” の数字が入っていた。


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