第19話 どこで見てるの ?


みんなの笑顔が戻った。  

そしてヒデシくんのコントロールも戻った。

二回表、三者連続三振。

その裏の豊打線もすごかった。

一挙 に7点も得点。


普通にやれれば、豊ボーイズはやっぱり強い。

みんな、優勝候補って言われて張り切っていたのに、初回に先制されて焦ってたみたいだった。

二回から四回までは、吉田ヶ原ボーイズを圧倒した。


結局、15 対 2の四回コールドゲームで豊ボーイズは準決勝に進んだ。


ぼくも、3安打で 5打点だった。

長打も 2本打てた。

自分でもびっくりするほど活躍出来た。



家ではぼくの好きな焼き肉にしてくれた。

しかも食べ放題。

おばあちゃんが勝利祝いって言った。

ママもおじいちゃんもおばあちゃんも、一回のヒットの事をすごく褒めてくれた。

おばあちゃんが嬉し過ぎて泣いてた。


ぼくが褒められるとポロンはいつも尻尾を振る。

不思議なんだけどちっちゃい時からずっとそう。

ポロンはいつもぼくのことを見てる。


焼き肉が終わって、ママとおばあちゃんがキッチンの片付けに行ったら、急におじいちゃんが野球の解説者みたいにしゃべりだした。

おじいちゃんは、いつもよりお酒をたくさん飲んだりして、すごく機嫌がよかった。


だからぼくも思い切って言った。



「・・・あの……おじいちゃん」


「ん ?」


おじいちゃんが爪楊枝で口をシーハーさせながら、ぼくの方を見た。


「・・・うん…お願いがあるんだけど…」


「なんだ…珍しいな」


そう言って笑いながら、お茶を飲んで口をくちゅくちゅさせた。


「夏の大会が終わったら、友達にピッチングマシンやらせてあげたいんだけど…」


「友達 ? チームメイトか」


「・・・じゃないんだけど……」


「・・・ん ? ……ああ」


おじいちゃんは一瞬顔をしかめたけど、すぐいつもの顔に戻って


「この間の外人か ?」


って言った。



・・・ガイジン ?



「・・・ダメかな ?」



・・・



おじいちゃんが黙っちゃった。



・・・



「・・・おじいちゃん ?」



「あの外人は野球やっとる子か ?」



「・・・やってないけど……ビクトルはサッカーがすごく上手で、こないだの大会でも……」



「そう言えばトシは、力丸スイングの素振りはやめちゃったのか ?」


・・・えっ


おじいちゃんが、ギロっとぼくを見て言った。


「いや、別におじいちゃんは力丸スイングをやらなきゃいけないって、言うんじゃないぞ。あれはボールを強く叩くことを覚えるための一つの方法だから、徐々に自分のやりやすい形に変えていくのはむしろ自然な事だ。だけど…一度にあれもこれも試してると……いつまで経っても自分の形が…出来んし、大事な大会を控えてるこの時期は…特に……あっ、着信……まったく誰だ ? ……こんな時間に !」


おじいちゃん携帯の画面を見ながら慌てて立ち上がった。


おじいちゃん、ママとおばあちゃんがこっちに戻って来そうになったら、急に早口になった気がするけど…


二人がコーヒーとかケーキとか食卓に並べ始めたら、おじいちゃん慌てて携帯を耳に当ててどっかに行っちゃった。



・・・ピッチングマシンの話はどうなったんだろう ?



・・・えっ ?



・・・おじいちゃん、どうして力丸スイングの素振りしてないの知ってるの ?


あんなに門のとこ、注意してやってたのに…



「おばあちゃんが言っておくから、大丈夫」


「えっ ?」


おばあちゃんが口をキリッとさせて言った。


「お友達呼んで、遊びたいんでしょ ?」


「・・・うん」


・・・おばあちゃん、キッチンにいたのに聴いてたんだ


「えっなになに、何の話 ?」


ママが不思議そうにおばあちゃんに訊いてるけど、おばあちゃんは笑ってるだけで答えなかった。



「おじいちゃんには、おばあちゃんからちゃんと言っておくから、大会が終わったらお友達呼んでいいわよ」


・・・


「うん・・・おばあちゃん、ありがとう」




・・・でも……



おじいちゃん、ぼくの素振り…どこかで見てる。



だって、こないだも素振りの数が間違ってるの知ってたし……



おじいちゃん、散歩に行ってるんじゃないの ?


おじいちゃん、どこで見てるの ?



おじいちゃん、家のどこにいるの ?





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