第17話 野球バカってなんだろう ?
今度の日曜日に全国大会の予選が始まる。
ぼくユニホーム貰ったけど、背番号は11になっちゃった。
14番はリョーマだった。
リョーマも五年になってから試合に出るようになった。
ホントはリョーマと背番号を変えっこしたかったけど、やっぱり言えなかった。
愛知東支部は10チームあって、トーナメントで支部代表を決める。
豊ボーイズは一回戦シードされてるから、日曜日に勝てばベスト 4、準決勝に進める。
そして、その次の土日が準決勝と決勝。
ヒデシくん、小学生の部では最後の大きな大会になるから、全国大会を目指してすごく気合が入ってた。
ヒデシくんならきっと全国大会でも大活躍出来ると思う。
午前中に学校のプールでビクトルに会った。
ぼく、ちょっと怖かったけど思い切って声をかけた。
「こ、こないだ…う、うちに来てたよね」
ぼくから話しかけて来た事に、驚いたみたいでビクトルは一瞬ポカンとした。
でもすぐにニコって笑った。
「・・・ああマサシが、トシんちにピッチングマシンがあるって言うから、見に行ったんだ……」
・・・
「あっ……うん…あるよ」
「家に行ったら、トシがいたんで見せてもらえんかなって思って覗いてた」
・・・
「・・・おじいちゃん、な、なんか言った ?」
「トシのおじいちゃんにダメって言われちゃったけど…… 大事な試合が近いからって」
「・・・ごめんなさい」
「いいよ、俺はもう大会が終わったんで遊んでるけど、もし試合前だったら遊んでる場合じゃないから気持ち分かるし…」
「・・・うん」
「気にすんな……試合頑張れよ、安打製造機」
ビクトルはそう言って、自分のクラスの方に手を振った。
友達が呼んでるみたい。
「じゃ」
「あの……ボーイズの大会が終わったら…また……うちに来ない ?」
「やらせてくれる ?」
「うん、おじいちゃんに言っとく」
「やったあ」
ビクトルはまたニコって笑った。
・・・話しかけてよかった
夕方、夏休みの宿題をやってから庭に出たら、おばあちゃんがいた。
洗濯物を入れてるところだった。
「おじいちゃんは ?」
「この時間はいつも散歩よ」
「ふーん。どこ散歩してるの ?」
「たぶん、自転車公園を一周してるんじゃないかしら…いつも1時間以上帰って来ないし、帰り道の酒屋さんでお買い物してくる事があるもの」
「ふーん」
「本当はおじいちゃんも、トシくんに付きっきりで野球を教えたいのよ」
そう言っておばあちゃんはクスッと笑った。
「でもねえ、タカフミに怒られるから我慢してるのよ」
「・・・タカさん ?」
「そうよ。お庭をこんなふうにしちゃったのもタカフミ、おじいちゃんに怒っていたのよ。 “ トシを野球バカにするつもりか ” って……でもトシくんは大丈夫よね。お勉強もしっかりやってるもの」
「・・・うん」
・・・タカさんに怒られたおじいちゃん、かわいそう……ぼくのためにやってくれたのに…
自転車公園は歩くと家から15分以上かかる。公園を一周するのは早くても20分くらいだから、やっぱり1時間くらいおじいちゃんは帰って来ない。
ぼくはピッチングマシンで選球眼の練習を100球やってから、素振りを500回やった。
全部タカさんスイングでやった。
門のところをずっと注意してたけど、おじいちゃんは帰って来なかった。
素振りは車庫の中でやった。
ここだと、門だけ注意すればいいし、日陰だし、おじいちゃんがぼくのために扇風機をつけてくれたし…
熱中症対策って言ってた。
ぼくがボーイズのレギュラーになれたのは、ぼくのためにこうやっていろいろしてくれるおじいちゃんのおかげ。
だからおじいちゃんを裏切っちゃ、絶対いけない。
・・・野球バカってなんだろう ?
あれっ、今何回目だっけ ?
また素振りの数がわかんなくなっちゃった。
ぼく、とりあえず少し多めに振っといた。
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