第14話 素振り

 

おじいちゃんが初めて真剣に野球を教えてくれた。

すごく真剣だった。

手に、見たことのない子ども用のバットを持ってた。


ぼくも真剣に聞いた。

ぼく言われた事を必死に覚えた。



「おじいちゃんもな、小学生に素振りなんて、やらせてもムダだと思ってる。でもな…トシのバッティングを見てたら気が変わったんだ」


「・・・どうして ?」


「少年野球では、打てない原因のおよそ9割は “ 不慣れ ” なことに原因がある」


「ふなれ ?」


「そう。バットを扱うのが不慣れ、体の使い方が不慣れ、運動そのものがまだ不慣れ、つまりバッティングをするために必要な運動神経が、そもそも未発達だから打てない。ただそれだけのことなんだ」


「みはったつ…」


「バッティングの運動神経を養う方法は実に単純でな…バットに触れてる時間が長ければ長いほど、バットで遊べば遊ぶほど、バッティングがどんどん向上していく。ゲーム好きがコントローラーを扱うのと一緒だ」


「バットがコントローラー ?」


「そうだ。だから小学生は退屈でシンドイだけの素振りなんかせずに、たくさんバットを触ってボールをぶっ叩く快感だけ知っておけばいいんだ。そうすれば、そのうちにバットが自分の身体の一部みたいになってくる。そうなったら、そこで初めてスイングに必要な筋肉をつけて、少しづつ技術を習得していけばいい。でもな…トシはもうすでにボールを叩く快感もよく知ってるし、バットを自分の手のように扱っとる」


「・・・よく分からない」


「おじいちゃんにはわかる。だからトシはもう技術を覚えていけばいい。…まだ筋肉をつけなくてもいいから、軽いバットを使って、自分が一番ボールを強く叩けるスイングを見つけて、それを身体に覚えさせるんだ」


・・・なるほど


「・・・ぼく、おじいちゃんの言ってること、よくわかる」


「・・・おお、やっぱり賢いな ……ところでトシは、スイングがカッコよくて真似したいなあって思う選手はいるのか ?」


「えっ」


「別に今、誰か一人を決めなくてもいい。いなければ、いろいろなビデオとかを見て、見つけておくといいが…」


・・・タカさん


「・・アスレチックスの力丸龍平選手」


「おお ! そうか。力丸のスイングはカッコよくて、いいよなあ ……さすが ! なかなかいい選択だ。力丸みたいなスイングしたいか ?」


「・・・うん」


「じゃあ、まずは力丸のビデオをたくさん見て研究して、これでそのモノマネをすればいい」


おじいちゃんは持ってたバットのグリップをぼくに突き出した。


「78センチで500グラム」


「・・・すごく軽いっ !」


今、ぼくが使ってるのも78センチだけど720グラム。

こんな長くて軽いバット、普通じゃ売ってない。


「これを使って、自分が真似たくなるようなバッターのスイングをマネすれば、素振りも楽しい練習になるし、ボールを強く叩くイメージも、スイングスピードが速くなったイメージも湧くはずだ。……どうだトシ」


そう言っておじいちゃんはニコって笑った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る