第10話 おいおいおいおい

 

次の日


「バッティングセンターに行こうか」


おじいちゃんがちょっと恐い目で言った。



いつもはワクワクだけど、この日のバッティングセンターはドキドキした。



「打ちたいところで打っていいぞ」


おじいちゃんがそう言った。

ニコニコはしてないけど、怒ってる風でもなかった。



・・・よしっ


って思ったけど、85キロは他の人が使っていた。



・・・どうしよ


70キロんとこは空いてた。


・・・どうしよ


急に “ 下手くそ ” って言ってニヤニヤするタカさんの顔が浮かんできた。



・・・もお


ぼく思い切って100キロの打席を選んだ。


おじいちゃんの顔は見ないようにした。



コインを入れた。


マシーンが動き出した。



・・・ドキドキ



・・・来たっ……わっ !



バットが間に合わなかった。



でも……



100キロって怖くない。



一瞬、こんな速いボール絶対ムリって思ってたけど、おじいちゃんに右打ちの方が打てるってとこ見せたかった。


ぼく必死に振った。



“ 顔と体はタカさん向いてて、腕の力を抜いて、代わりにお腹をググっと、肩だけクルッ ”


そしたら、カッキーンってすごいライナーが飛んだ。


ぼく100キロのボールが打てた。


・・・いい気持ち



“ 顔と体はタカさん向いてて、腕の力を抜いて、代わりにお腹をググっと、肩だけクルッ ”


カッキーン



・・・わーっ



それからは何度も打てた。


やっぱり右でバットの芯に当たった時、スカっとする。


タカさんが言った通りだった。



「おいおいおいおい」


おじいちゃんがすごく興奮してた。



・・・おいおいおいおい って何だろう ?



おじいちゃん、ぼくが打つと


「おいおいおいおい」


ってずっと言って笑ってた。



“ ぼく右で打ちたい ”


帰りの車の中で、おじいちゃんにちゃんと言わなきゃってずっと思ってたけど…


・・・言えなかった



でも、おじいちゃんが嬉しそうに言った。


「左で素振りすると、かえって右の振りが鋭くなるんだぞ。だがトシの右は特にすごい」



それでその日の夜、おじいちゃん、知り合いの野津監督に電話してた。




ぼく、ボーイズリーグの練習を見学することになった。


愛知豊ボーイズっていう強いチーム。



・・・でも


また、たくさんの人と会う。


そうすると挨拶しなくちゃいけない。


・・・


初めて会う人たちって、ぼくの事ジロって見る。


・・・でも挨拶しなくちゃ

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