第8話 左打ちの感覚
・・・なんか変な感じ
体がガックン、カックンって感じ。
バットがカクン、カクン、カクンって回る。
もう何日もやってるけど、ぜんぜんダメ。
左バッターのスイングって難しい。
「上手だな。いい感じだ」
おじいちゃんがそう言って褒めてくれた。
でもあんまり嬉しくない。
だって上手じゃないのわかるから…
「よしっ、バッティングセンターに行こう」
なんだか嬉しそうなおじいちゃん。
「・・・うん」
ぼくも嬉しいけど……
・・・左で打たなきゃいけない
でもタカさんが忙しくて、バッティングセンターにはずっと行ってなかったから、ワクワクした。
飛んで来るボールを打つのって、気持ちよくて楽しい。
タカさんは、今遠い所にいるってママが教えてくれた。
そこで起きた事件を手伝いに行ってる。
タカさんが行けば、きっと犯人なんてすぐに捕まっちゃう。
タカさんはすごく大きいし、すごく強そうだからすぐに事件を解決して帰ってくる。
タカさんが帰って来るまでに、もっと上手になってなきゃ、また“ 下手くそ ” って言って笑われる。
おじいちゃんが70キロのとこで打つように言った。
85キロでも大丈夫って言いたかったけど、左打ちだから言えなかった。
でも70キロって、びっくりするほど遅かった。
キーン
キーン
キーン
左でも簡単にバットに当たる。
「おおおぉぉぉぉ !」
おじいちゃんが目玉を飛び出させて驚いてた。
すごく嬉しそうだから、ぼくも嬉しかった。
左だとボールを打ってもあんまし気持ちよくなかったけど、おじいちゃんが喜ぶからぼくも嬉しかった。
バッティングセンターの帰り道でも、おじいちゃんは運転しながら、ずっと嬉しそうだった。
「野球はな、右で投げて左で打つ選手が一番上手になるんだぞ」
「右投げ左打ち ?」
「おっ、ちゃんと知ってるんだな…そうだ。としは左打ちのセンスがあるから、きっと上手くなる。間違いなし !」
・・・センス ?
ぼく、夜グーグルで調べた。
センスは “ 感覚が優れていること ” って書いてあった。
左打ちの感覚が優れているってこと ?
あのカクン、カクン、カクンのことかな ?
ついでに右投げ左打ちも調べてみた。
左投げだと、キャッチャー、セカンド、サード、ショートを守る時、不利な態勢からの送球が多くなるから、ピッチャーかファーストか外野しか出来なくなるけど、右投げは全部のポジションが出来る。
だから右投げが有利。
左打ちは一塁までが近くなるしバットを振った勢いのまま走れる。あと右投げのピッチャーが多いからボールがよく見えるとかいろいろ有利って書いてあった。
・・・有利って、上手になるってことかな ?
・・・タカさん動画、見よう
最近、スマホをいじってると、タカさん動画ばかり見てる。
特にこのプレイが大好き。
もう三十回くらい見た。
和倉投手と戦ってる試合。
ここには今、レッドシャークスにいる尾形選手も映ってた。
その尾形選手が三枝投手から打った打球がすごい勢いでセンターに飛んで、センターがその打球を飛び込んで捕ろうとするけど、グローブに当てて落とす。
でもそのボールにライトのタカさんがすぐに追いついて、二塁に投げるんだけど……
すごく遠いのに、すごいボールが真っ直ぐ二塁の水野選手まで帰って来て、尾形選手をアウトにしちゃう。
その時、球場のお客さんが全員立ち上がって拍手する。
タカさん、すごくかっこいい。
あっ !
タカさんって右投げ左打ちだった。
あっ !
水野選手もだ。
・・・
ぼくも左打ち頑張る !
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