第6話 ホームラン


夏休みになると、日曜日に必ずタカさんとバッティングセンターに行った。


ぼく、あんましバットに当たらないけど、時々 “ カッキーン ” がすごく気持ちよかった。


だからバットをもっと丁寧に振って当てようとするんだけど、そうすると “ カッキーン ” ってならない。


タカさんが “ そんなんで打ててもつまらんだろ ” って言って笑う。


ぼく悔しかったから思いっきり振った。

そうするとたくさん空振りするけど、時々 “ カッキーン ” があって気持ちよかった。



「こっちで打ってみるか ?」


バッティングセンター三回目の時、タカさんがいつもと違う場所に連れてってくれた。


今まで70キロってところで打ってたんだけど、そこは85キロ。


絶対無理だし、すごく恐いし…って思ったけど…


・・・あれっ ?


恐いのに慣れると70キロの時と同じくらいはバットに当たった。

あんまり、飛ばなかったけどびっくり。


「まぐれ、まぐれ」


後ろでタカさんがバカにする。


・・・もーお !


ぼくはやけくそで振った。

そしたら全然当たらない。

ボールが速すぎるよ。


・・・えっ ?


いつの間にかタカさんが目の前にいた。


・・・あぶないよ


「顔と体はずっと俺の方に向いてて、肩だけクルッと回す」


タカさんはそう言ってじっと見てた。


・・・タカさん、近いよ


ボールが来た。


顔と体はタカさん向いてて、肩だけクルッ。


キーン


・・・あれっ? こんなんで当たった


「もっと、腕の力を抜いて、代わりにお腹をググっと」



顔と体はタカさん向いてて、腕の力を抜いて、代わりにお腹をググっと、肩だけクルッ。


カッキーン


わーっ


「ハハハッ、としって言ったら言ったとおりに動けるんだな、すげーな」


・・・タカさんが褒めた


へへっ、すげーなって言われた。


ボールが来た。


顔と体はタカさん向いてて、腕の力を抜いて、代わりにお腹をググっと、肩だけクルッ。


カッキーン


ボールがギュイーンって行って、ホームランのマークの近くまで飛んでった。


わーっわーっわーっ


うそでしょ。


「惜っしい」


そう言ってタカさんが大笑いしてる。


えーっ ?


なんかすごく嬉しい。


「いい感じだ」


タカさんがそう言って、ネットから出て行った。


ネットの外から、缶コーヒー飲みながら見てる。


「ホームランに当てたら、ジュース貰えるぞ」


よしっ。


ホームラン。


ホームラン。


ホームラン。


あれっ、ぜんぜんダメだ。


「おーい」


振り向くとタカさんがまたネットの中にいた。

ぼくの後ろでニヤニヤしてる。


「下手くそ。・・・そうだ。もし、ホームランよりもっと上に当てたら、帰りに焼き肉行こうぜ」


・・・えっ ? 焼き肉 ?


・・・行きたい


でも、ホームランにも当たらないのに…


ボールが来た。


カッキーン


気持ちいい。


でもホームランよりだいぶ下だった。


・・・焼き肉…食べたい


カッキーン


あっ


・・・


ホームランに当たっちゃった。


・・・今の気持ちよかったぁ


「うーん。俺の8歳の時より、はるかに上手いわ」


なんか、タカさんがブツブツ言ってる。


ぼく、お店の人からオレンジジュース貰っちゃった。


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